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人事の欧化は日本企業に何をもたらすか?ーインターンシップ採用編ー

政府が推進する日本的人事システムの欧米化

近年、政府主導で日本的な人事システムの見直しが図られている。特に今年になって顕著になっているのが、「インターンシップの推進・ジョブ型雇用の推進・人的資本の開示」の3点だ。今回は、この中でインターンシップの推進について考えてみたい。
インターンシップは、海外では新卒採用の重要な経路として長年活用されてきた。学生は在学中に数か月間の就業体験を通して、プロとして職務に従事するための最低限の訓練を積み、希望している職種への適性を判断する。受け入れる企業としても、インターンシップへの取り組みを通して、学生が自社に適した人材かを知ることができる。しかも、実際の業務を通して判断ができるため、ミスマッチも少ない。
日本では、長らくインターシップを採用に活用することを自重する指針を設けてきた。企業による学生の青田買いなどの懸念事項があったためだ。しかし、この指針を見直そうという動きが本格化している。

海外におけるインターンシップ

インターンシップは、新しい新卒採用の採用手法として日本で定着するのだろうか。結論から言うと、近い将来に定着すると考えられる。しかし、欧米の様にインターンシップが主流になるというよりは、複数ある新卒採用の経路の1つとして、既存の新卒採用と併存する形になると思われる。
当然、現状ではさまざまな問題はある。インターンシップと名乗っているだけの半日で終わる、ほぼほぼ会社説明会が大半を占めているようだと道のりは遠い。しかし、インターンシップによる入社後の活躍の予測精度の高さは魅力的だ。そのまま内々定後にアルバイトとして在学しながら勤務してもらい、新入社員研修のコストを抑えることもできる。
さて、それでは海外でもインターンシップは採用手法が企業としての導入の主目的かと言うと必ずしもそうではない。たしかに、インターンシップは新卒採用の重要な経路だ。特に、大企業や人気企業だと、新採用のほぼすべてをインターンシップ採用で充足できることも多い。しかし、インターンシップは採用手法であるとともに、社会貢献だと考える企業もかなりの数がいる。NACE(全米大学就職協議会)によると、インターンシップを採用に使いたいという企業は7割程度で、3割は学生に就業経験の提供や自社のブランド価値の提供、大学との連携強化などの他の理由で実施されている。
インターンシップを社会貢献と考える理由の1つが、インターンシップで来た学生の大多数は採用対象ではないことが挙げられる。在学中のインターンシップは、その多くが大学3年生を対象として、長期休みの期間中に実施される。そのため、期間は6~12週間のものが多い。しかし、インターシップとして受け入れている学生の内、何割かで採用の対象とならない1~2年生を受け入れている企業もある。
また、海外の大学と提携して、夏休みの海外インターンシップ生を受け入れるケースも多い。この場合には、大学や学生から研修として費用を受け取ることもあるが、ほとんどが社会貢献として実施している。また、NPOや自治体などで、海外から来たインターンシップ生にプロジェクトに参加してもらい、地域課題の解決に取り組んでもらうこともある。
このような育成とは直結しないインターンシップでは、採用に直結しているインターンシップよりも参加のハードルが下がる。学生にとっては、大企業や有名企業などの競争率の高いインターンシップに参加するために、大学3年生の夏休みまでにインターンシップを経験して、実力や実績を身に着けておきたいニーズもある。

インターンシップにバリエーションをもたせよう

インターンシップの実施には、定期的に実施する現状の新卒一括採用よりも実施のコストは大きい。そのため、数百人単位で大量に採用する日本のシステムと相性が悪いようにも思われやすい。しかし、実際にアメリカの事例をみていると必ずしもそうとは言えない。1,000人を超えるインターン生の採用を行っている企業も存在する。例えば、世界4大会計事務所はインターン生の人数が多いことで知られる。現在の日本企業で、1000人を超す新卒採用を行っている企業は、ここ数年ない。つまり、その気になるとインターンシップ採用だけで新卒採用を賄うことは理屈の上では可能だ。
インターンシップ採用が普及すると、従来通りの求人票に応募をして、書類審査と面接で内々定をもらうプロセスでもミスマッチを軽減できる効果が期待できる。長期のインターンシップの経験があることで、学生としても自分がどのような企業や仕事内容に向いているのかが判断しやすくなる。また、企業としても、どのようなインターンシップに参加し、経験してきたのかを知ることは学生時代の経験よりも実務に近いために判断しやすい。
そうすると、インターンシップからの採用はもちろん重要なものの、基本的には学生が経験を通して成長し、大学卒業後のキャリアを考える指針を得ることが主目的と考えるのが良いだろう。
実際に、長期のインターンシップ経験が学生のキャリア観に及ぼす影響は大きい。私のゼミにも、在学しながら長期のインターンシップに参加している学生がいる。例えば、フィリピンの日系IT企業にインターンシップをして、その影響から強く起業を志すようになった。また、農業ビジネスに興味があり、酪農農家でインターンシップをしている学生は農業ビジネスを極めようと先進国であるドイツへの留学準備に精を出している。大学の中で学ぶだけでは得ることができない価値観に触れ、大きく成長を実感する。
もちろん、インターンシップでミスマッチが起こることもある。米国留学から帰国して、飲食ビジネスに携わりたいと考えた学生は有名ラーメン店の新店舗オープンのスタッフとしてインターンシップに参加したがミスマッチを経験して方向転換している。しかし、その後にIT企業の経営者に弟子入りしてプログラミングを勉強し、データアナリティクスを学ぶために欧州の大学院への進学を目指している。
インターンシップは「失敗ができる」ことも大きなメリットだ。これは学生と企業双方にとってのメリットと言える。インターンシップを"テストラン"の場として意味合いを持たせることで、企業にとっては自社に合う学生の具体的なデータを集めることができるし、学生にとっても同様だ。ただ、「失敗ができる」ようにするためには、インターンシップを採用の手段として捉えるのではなく、遊びを持たせる必要がある。そういう意味で、1~2年生向けのインターンシップは可能性が大きい。海外の大学が積極的に取り組んでいるように、外国へのインターンシップ派遣や、海外の学生の受け入れをすることも有効だ。インターンシップに遊びを設けることで、企業は多様な人材の活用についてのテストランができる。学生は経験を積むことで成長できる。
まだ、日本のインターンシップ制度は黎明期にあると言える。まだまだ定型ができていない。その分、世界の最先端を行くインターンシップ制度を作り上げることも可能だ。海外の豊富な取り組み事例を学びながら、世界に誇ることができる日本のインターンシップの在り方を作り上げよう。

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