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改めて考える、Z世代 x メンタルヘルス

2018年から鬱の症状に苦しみ続けていた。プレスの方々はいつも優しく配慮してくれていたけど、もともと人見知りで内気な性格なため、人前で話すことには多大な不安とストレスを感じる。だからパリではセルフケアの一環としてプレスを欠席することを事前に大会に謝罪の連絡を入れた。


大坂なおみ選手は、世界で最も稼いでいるアスリート。彼女がメンタルヘルスを優先する重要性について声を上げ、自身が鬱と向き合っていることもオープンにしたことは、非常に大きな意味がある。「メンタルヘルスを重視し、オープンに語る」というがZ世代的な価値観について私も言及してきたが、まさにそれを体現している出来事だと感じた。

思い返せば、初めて書いた日本語の記事もZ世代とメンタルヘルスについてだった。大坂なおみさんはそういう価値観を体現することでZ世代のロールモデルになっているし、後世を支援したい大人たちからも応援されるのだ。今までメンタルヘルスと若者世代について言及してきた記事をこちらでまとめたい。

日本では言及されることがまだまだ少ない、「メンタルヘルス(精神面における健康)」の問題。近年、アメリカでは、この問題がZ世代に甚大な影響を及ぼしているとして、メディアや企業、教育等において大変重要なテーマとして取り扱われている。

アメリカ心理学会(American Psychological Association、アメリカ合衆国における心理学分野の職能団体として代表的な学会)は、15歳から21歳までのアメリカ人の悩みに焦点を当てた調査報告書「Z世代は、メンタルヘルスに関する問題を報告する可能性が高い」を2019年10月に発表した。同調査によると、Z世代は非常に大きなストレスを感じている世代であり、ストレス要因のトップには大量に発生し続けている銃乱射事件が挙げられている。

調査によると、Z世代は、ミレニアル世代(15%)やX世代世代(13%)を含む他の世代と比較して、自分の精神的健康状態を「まあまあ」または「悪い」と報告する割合が圧倒的に高い(27%)。また、メンタルヘルスの専門家から治療やセラピーを受けたことがあると報告する割合(37%)も、ミレニアル世代(35%)と並び、X世代の26%、団塊の世代の22%、高齢者の15%と比較して非常に高くなっている。

「現在起きている社会問題は、国内の誰もがストレスに感じるものであるが、若い人たちは、ニュースで報道される問題、特に自分の手に負えないと感じている問題の影響を強く実感しています」と、APAの最高経営責任者であるアーサー・C・エバンス・ジュニア博士は言う。

「同時に、Z世代の人たちがメンタルヘルスの状態がよくない、または非常に悪いと報告している割合が高いということは、彼らがメンタルヘルスの問題をより認識し、受け入れていることを示している可能性があります。彼らがメンタルヘルスの話題に対してオープンになることは、原因の如何に関わらず、ストレスの管理について議論を始める機会となります」

大坂なおみ選手も、同じZ世代。6月号の『群像』でも「セルフケア・セルフラブ」をテーマに記事を書いたが、大坂選手もツイートでそのキーワードを使っていた。

自分、そして社会の健康を守るためにもメンタルヘルスを守る必要があるし、それを蔑ろにすることは決してできない。


「群像」6月号の連載「世界と私のA to Z」では、「私にとってのセルフラブ・セルフケア」というタイトルで、Z世代的な自分との向き合い方について資本主義や公民権運動、SNSやポップカルチャーの観点から書いた。「持続可能なアクティビズムのために必要なセルフケア」を論点にしたが、まさに大坂選手もその視点からメッセージを発している。

「アスリートとメンタルヘルス」というのは、いわゆるスポ根や気合論が蔓延っている業界の中ではまだまだ根付きづらい価値観かもしれないが、Z世代を中心に急速に変わっていることも実感している。同じように、音楽業界においても「アーティストとメンタルヘルス」ということが近年の大きな注目点になっており、作品にも影響を与えている。

「アーティストのためのメンタルヘルスリソースなども近年では英語圏を中心に多く公開されており、セラピーに通うことを推進される以外にも自分でメンタルヘルスをマネジメントすることの重要性が強調されている。

また、鬱やアルコール・ドラッグ依存症の話題をタブー視するのではなく、オープンに話し合える環境を社会全体が構築することで助けを必要とする人が求めやすくなるため、アーティストのインタビューなどでもマインドフルネスやセルフマネジメントの話題は多く触れられるようになってきている。」

「Z世代的価値観の持ち主は、変化をもたらすことを大切にする。そして、多方面でZ世代のアクティビストが活躍し、デモや社会活動を先導し、TikTokを使ってトランプ大統領の集会をガラ空きにするなどの政治的アクションを起こしたり、高い社会的な関心と正義への熱意を持つ。Z世代的価値観がブーマーやX世代の価値観と大きく異なる点は、収入格差、人種差別、男尊女卑やLGBTQ差別などの不平等を許容せず、完全な平等を非常に重視することだ。

また、地球全体の環境を大切にすることもZ世代的価値観である。年々酷さを増す気候変動や迫り来る資源の枯渇は、Z世代にとっては生まれた時から常にそばにある、切実極まりない問題だ。毎日のニュースやドキュメンタリー映像を見ていると、まるで明日にでも地球が滅びるのではないかといった緊張感と圧迫感をZ世代は常に感じており、これがメンタルヘルスの悪化の原因でもあるとされている。」

「米国のミレニアル・Z世代を始めとした、メンタルヘルスに対する悪い偏見やよりオープンに精神疾患について語れるカルチャーが生まれてきているのも、「セルフケア」ブームの一つの要因です。「我慢」「忍耐」といった有害なマスキュリニティに根付いた価値観の撤廃を求め、より自己と向き合い、他者に気軽に助けを求め、社会的・歴史的要因や環境の問題について学ぶという姿勢が若者の間で形成されるようになってきましたが、それは同時に「自分たちでなんとかしないと、大人たちは助けてくれない」と幼少期から感じてしまったことからも派生しています。」

「調べていくなかで、眞鍋さんもおっしゃっていたように、マーケティングのターゲット層を指す言葉として多用されているという印象も受けました。そこで、私はさらに掘り下げて、何か変化を起こすときのZ世代の当事者間の連帯とはどのようになっているのか、という点を重点的にリサーチしました。その時イメージとして掲げたのが、皆さんもご存知のように「Z世代の代弁者」と言われているアメリカのシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュ(2001年生まれ)です。なぜ彼女の音楽がZ世代に響いているのかを、メンタルヘルスやZ世代が通ってきた社会問題を通して論じました。」

「害悪な慣習をなんとなく続ける必要なんて本質的には存在しないし、それを変えるためにも社会的地位の高い人行動を起こせる人がボイコットするというのは大きな意味があると感じる。理不尽なルールに従うことはもう「正義」じゃない。デフォルトを疑い、権力を疑い、自らが起こせる変化にこそ価値があるのだ。」


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