「35歳転職限界説」は本当に崩壊したのか?
「35歳転職限界説」は崩壊したのか?
中途採用者や転職者の間で、昔からささやかれている噂がある。転職をするのなら、35歳が限界で、それ以降は転職をしたくてもできないか、良い転職先は見つからないというものだ。
日経新聞でも「転職のリアル」という特集で『中途採用、崩れる「35歳の壁」』という記事が投稿されている。
たしかに、体感としても35歳を超えて転職を成功させている人も珍しくはない。つい先日も、40歳の友人が新卒で入った会社を退職して、同じ業界の外資系企業に転職した。入社して半年余りで社内で賞を取るなど、順調な滑り出しを見せている。
その一方で、本当に「35歳転職限界説」は崩壊したと言えるのか疑問もある。記事にある通り、1年間の転職者数のうち、半数以上は35歳以上が占めている。しかし、それで「35歳を超えても転職はできる」と安易に結論づけることができるのだろうか。
統計から「35歳転職限界説」を考える
総務省の『労働力調査』には年齢階級別転職者及び転職者比率というデータが公開されている。このデータを読み込んでみると、「35歳転職限界説」が公開したとは言い難い現状が見えてくる。
2020年の年齢階層別転職者数は、合計で319万人であり、35歳以上で約56%を占めている。特に、35~44歳の階層は25~34歳の階層に次いで多くの転職者を出している。しかし、男女別でみてみると少し様子が変わってくる。
男性では35歳以上の転職のうち、約半数を55歳以上が占めている。男性の転職者全体でみても、約27%が55歳以上だ。このことは、定年や早期退職制度などで退職した後も、どこかで働き続ける必要があるという高齢化社会が反映されている。
女性の場合は、45~54歳が転職のピークとなっているが、基本的には15歳から54歳まで一定して多くの転職者がいる。これは、結婚や妊娠・出産、育児など、男性よりも転職回数を増やす要因となるライフイベントが多いことが原因と考えられる。
次に、労働者における転職者の比率についても年齢階層別にみていく。
転職者比率をみると、35歳を超えると一気に比率が下がることがわかる。男女ともに15~24歳が最も数値が高く、25~34歳が続く。特に、男性は35~44歳の転職者は3.3%しかいない。その一方で、女性は35~44歳の転職者が5.9%であり、男性ほど数値が落ち込んではいない女性とは対照的に、男性は転職者比率でも55歳以上で伸びてくる。
転職はライフステージの変化の影響が大きい
これらのデータから、転職者数でみると35歳以上でも多くの転職者がいることは間違いないことがわかる。しかし、その内容をみてみると、男性は役職定年や早期退職制度の対象となる55歳になるまでは35歳以上で転職をする人が少ないことがわかる。
このことは、転職ができないというよりも、条件面とライフステージの問題が大きく影響しそうだ。日本では欧米と異なり、転職によって収入が上がることは少なく、据え置きか収入が下がることが多い。35歳以上となると、結婚をして子供も持ち、ローンを組んでマイホームを持つ人が増えてくる。そうすると、リスクを取って転職するよりも、堅実に今の会社で働こうという意思決定が優先される。
しかし、55歳以上で役職定年や早期退職を迎えるとそうも言ってはいられない。子供が独立して手がかからなくなっているかもしれないが、35年の住宅ローンは残っていることも多く、健康寿命も延びているので引退するのにも早い。
年齢に捉われず自分の市場価値を高める
結論としては、「35歳転職限界説」は企業に見向きもされないという意味ではなくなっているかもしれないが、別の要因でまだ存在すると言えそうだ。特に、男性にとっては35歳から55歳にかけて転職をするというのはマイノリティとなっている。
しかし、55歳以上で転職する人が多いという現実を考えると、若いうちから専門性を身に着け、自身の付加価値を高めて、会社に依存しない働き方を身に着けることが重要になっていると言えるだろう。年齢に関わらず、労働市場から必要だと求められる付加価値を身に着けることが肝要だ。
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