日本で生成 AI 導入を阻むもの~生成AIサミットに参加して
先週開催された生成AIサミット(GenAI/SUM)に参加した。
すべてに参加出来たわけではなく、ごく一部のセッションや展示を見ただけだが、その中で印象的だったのが、生成AIのスタートアップに対して投資を行う投資家や成長支援をしている人たちが登壇したセッションだった。
このセッションでは、投資や育成を行う立場から、日本でも生成AIに関連するスタートアップは生まれているものの、アメリカと比べるとその数はまだ限られており、投資先を探すのにも苦労している、という趣旨の発言があった。
ネットメディアを中心に報道では生成AIが旬の話題として多く取り上げられている一方で、現実にはそれを導入する企業や、生成AIを使ったサービス開発に取り組む企業は日本ではまだ少ない、ということが登壇者の発言から読み取れた。実際、生成AIを導入する企業が少なければ、その市場で成立するビジネスも小規模なものになり、スタートアップの熱も高まらないという現状があるのだろう。
この生成AIのセッションでは、オーディエンスの多くが事業会社に所属している人たちであるということで、登壇者の一人から「ぜひ事業会社の方々には生成AIの導入を検討してほしい」という発言もあった。
このとき感じたのは、生成AIに限らず、AIが「人間の仕事を奪う」と言われることについてだ。本当にそうなるのか。
仮にそうだとしても、これまでの技術革新の時のように新たな仕事が生まれる可能性を考えれば、トータルで見れば人間の仕事はなくならず、新しい仕事が生まれ、新陳代謝が起こるのではないかと考える。特定の仕事に関しては消滅するものもあるだろう。例えば、かつてはそろばんを使っていた主に経理関係の事務職の人たちが、エクセルなどの表計算ソフトの普及によって、その仕事が消えたように。しかし、その代わりに、こうしたソフトを操作するオペレーターの仕事が生まれたわけで、これはそろばんの時代にはなかったものだ。
このように、AIの時代には、それに応じた新しい仕事が生まれるだろう。しかし、今ある仕事がなくなることに対する不安は理解できる。特に安定を求める多くの日本人にとって、そうした変化は避けたいものだろう。
また、日本ではトップダウンよりもボトムアップで物事が進む企業文化が多いと感じる。生成AIの導入に関しても、自分の仕事が奪われるかもしれないという懸念を抱く従業員が進んで導入を推進するだろうか、と疑問を抱く。
さらに、日本では解雇規制が法律で厳しく定められており、アメリカのレイオフのように簡単に解雇されることはない。この制度が既得権として守られている状況では、AIを含む新技術の導入は、トップダウンでしか進められないのではないかと思う。
先日の自民党総裁選で小泉進次郎氏が解雇規制の緩和を掲げたが、彼が総裁の座を得ることはできなかった。
しかし、産業の若返りや人材の新陳代謝を目指すなら、この解雇規制は日本が次の時代、というよりも今の時代に対応するために乗り越えるべき課題の一つだろう。もちろん、今雇用されている人々の安定を守りながら、新しいスキルの習得を促し、成長性の高い仕事にシフトしていくことが重要だ。それによって賃金も上がる好循環を生み出さなければ、日本は停滞から抜け出せないだろう。
いわゆるリスキリング(再教育)という掛け声はよく耳にするが、実際にそれが進んでいるかどうかは疑問だ。この解雇規制に守られた労働環境が、リスキリングの進展を阻んでいるのかもしれない。
この解雇規制の問題について、今回のパネルディスカッションでは触れられなかったが、今後の日本の賃金アップや経済成長を考える上で、避けて通れない大きな課題であると改めて感じた生成AIサミットだった。