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「俺についてこい」スタイルの限界によって、今求められている新しいリーダー像とは。スポーツとビジネスのマネジメントの共通点から探る。

皆さん、こんにちは。今回は「スポーツマネジメントから学ぶリーダーシップ」について書かせていただきます。

スポーツにおけるマネジメントを参考にリーダーシップの在り方を考えるという取り組みは、企業の管理職研修などにおいて珍しい光景ではありません。
スポーツマネジメントの理論をそのままビジネスの世界に転換し、企業でリーダー育成のプログラムなどに応用することは比較的難しいことではなく、スポーツがビジネスや他ジャンルのノウハウを学びながら進化しているのと同様、ビジネスでもスポーツの理論が役立つのです。

野球がうまいだけではスカウトしない――。社会人野球のENEOS、東京六大学の慶大を率いて成果を上げ続けてきた大久保秀昭氏。チームづくりの秘訣は「野球人間」だけの集団にしない、という点にあるらしい。

■スポーツでもビジネスでも、マネジメントに必要な要素

マネジメントの仕事において、スポーツでもビジネスでも共通して必要な要素がありますが、いくつか書き出してみます。

●人が育つ環境を作ること
→チームや組織を作る人は、「成果が出る環境・人がやる気になる環境をいかに作るか」に徹底的に向き合う必要があります。目標やゴールを達成するためにどのような環境を構築するかで、成果が最大化できるかどうかが決まってきます。

●プレイヤーを信頼すること
→スポーツにおける“選手”、ビジネスにおける“社員”、どちらもプレイヤーですが、マネジメント側との間に信頼関係がないと良い関係が築けないばかりか、良い結果につながることもありません。マネジメント側が何でも思う通りにプレイヤーを操るのではなく、お互い信頼関係を築きながらそれぞれの意見を言い合える関係性を作ることは大事な要素です。

●結果にこだわること
→「勝つことが全てではない」という場面もあるかもしれませんが、スポーツにおいてもビジネスにおいても厳しい競争環境の中で勝利を掴まなければいけません。強いプレイヤーをただ集めるだけでは勝負の世界で勝つことはできないため、個人の技術の向上だけに終始するのではなく、チームとしての勝率を高めるための戦略を立てることが必要です。

●誰もが燃える目標を設定すること
→スポーツの場合、「試合で優勝する」「日本一になる」「世界ランキング〇位以内に入る」など、チームの誰もが燃える目標を設定することでチームの士気が上がり、狙う目線が高くなります。ビジネスでも同じで、組織のメンバーの意欲が高まり、成果に執着しやすくなるような目標を掲げ、チームを適切に高い目標に向かって導く能力が必要です。

●利害調整をしながら、あらゆる意見やプレッシャーと向き合うこと
→スポーツにおけるマネジメントは、企業のあらゆるステークホルダーに対するマネジメントと大きな違いはありません。また、何をやっても「結果が出なければあらゆる人から批判」され、「結果が出れば褒められる」という状況や、常に様々なプレッシャーと戦わなければいけない点も類似しています。

●様々な要素を加味して意思決定を行い、その決定に責任を持つこと
→たとえば、ファクトやデータに基づく意思決定だけを重視しても、ひらめきや直感に基づく意思決定だけを重視しても、狙った効果や結果が出ないことが多く、これらを適切に取捨選択しながら“融合”していくことが重要だと思います。また、どんな時でも軸をブラさない“意志の強さ(一度決めたことを貫く姿勢)”や“決断力”と、臨機応変にすぐに状況に合わせて戦略を変えていく“変化対応力”や“柔軟性”、このどちらをも両立させるスキルがマネジメント側に求められます。チームや組織のトップとして全ての意思決定に責任を持つことも共通要素です。

●マネジメントのパターンを複数持ち、状況に応じて使い分けること
→マネジメントをする場面では、「ある程度のトップダウンで指示を明確に細かく出すことが必要な場面」と、「きめ細やかな指示は一切出さずにプレイヤーの判断や意思を尊重する場面」と両面あり、これらを状況に合わせて使い分けていくことが必要です。どちらか一方を選択して硬直した組織体制を作るのではなく、組織やチームに柔軟性や選択肢の幅を持たせるようなマネジメントが必要だと考えます。このように、いくつかのマネジメントパターンを持った上で、その時々で最適な選択をしていくことが求められています。


上記の通り挙げた共通点はあくまで一例ですが、強いチームを作り、プレイヤーを育て、大きな成果を出し、多くの人に夢や感動を与えているスポーツの世界から、ビジネスにおけるマネジメント側が学ぶことは非常に多いのではないかと思います。

■育成の主眼は「人間形成」

引用した記事には、

・スカウティングや育成も個人の人間形成を主眼に置く

・「野球がうまい選手だけを集めようとは思っていなくて、チームにいい影響を与えてくれそうな人材を求めています」

・「見込んで入ってもらった選手はなんとか可能性を引き出そうとしますが、どうしても成長がみられないとか、チームにマッチしきれないこともあります」

・「監督としては選手に何を求めるか、はっきりと示しておく必要があるので、自分の野球観、指導方針、年間の目標を明確に伝えています」

・「『○○世代』のように選手をひとまとめにすることがありますが、私が指導しているのは平均的な人間ではなく、個々の人間です。指導法に正解はなく、選手個々に合わせて考えていくしかありません」

・「コミュニケーションが大事なのは言うまでもないですが、結局は思っていることを素直に伝えることだと思います」

・「ミスした選手には必ず、挽回する機会を与えます。一回のミスで懲罰として交代させることはありません」

などと、示唆に富む内容がたくさんありました。

中でも大事なポイントは「チームにいい影響を与える人材を集める」という点と、「ミスや失敗を挽回する機会を作る」という点です。

まず、「チームにいい影響を与える人材を集める」という点ですが、具体的には、
・前向きでポジティブである
・人柄が良い
・やる気があり意欲が高い
・主体的に考え行動できる
・周囲の人を巻き込める
・目の前のことを楽しめている
・責任感がある
・異なる意見や価値観を否定せずに受容する力がある
・何事も他責にしない
・自分の損得に関わらず、チームのための行動ができる
などが挙げられます。

ビジネスにおいても同じように、「知識や経験が豊富」「専門スキルがある」「仕事ができる」などの能力の高さだけで人を集めるよりも、チームのマジョリティがポジティブで、チームにとっていい影響を与える人たちで構成されていれば、組織は間違った方向には行きにくいのです。

次に、「ミスや失敗を挽回する機会を作る」という点ですが、一度の失敗も許容できない監督が上に立ってしまうと、選手たちは当然「失敗しないように」と恐る恐るプレイすることになり、さらにはミスを恐れて大きな挑戦をすることすら避けるようになってしまいます。

成功体験から学びを得るよりも、失敗体験から学ぶことの方が多く、次にどう活かすべきかを自ら考え、行動することにこそ価値があると思います。

「ミスをしたら交代させる」「失敗したら左遷する」というようなマネジメントは、負ける要素やリスクを最小限に抑え、トップに権力を集中させ、勝利確率の高いチームを作れる可能性が高まるかもしれません。

ですが、「ミスや失敗から学んだ人が、それをバネに今度はどうすべきか」を自発的に考えた人の集合体で構成されたチームは、失敗経験からの学びを得た分、より大きな成功を手にする可能性が高まるのではないでしょうか。


記事に「人間形成が育成の主眼である」と書かれていた通り、どのようなチームを作るかを考えることは、どのように人を育て、どのように成果を出してもらうかを考えることと同義です。ただ技術やスキルの向上を図るのではなく、一人の人間としての成長が、チームのパフォーマンスにも影響していきます。
それは、スポーツにおける監督やコーチ、ビジネスにおけるマネージャーやリーダーが、その人の“強み”や“能力”、さらには“人間性”や“その人らしさ”までをも、最大限引き出すための機会をどれだけ作れるか次第、ということではないかと思います。

■「俺についてこい」スタイルは限界がきている

さらに記事には、

旗を持って「俺についてこい」というのはいいが、ちゃんと後ろをみなさいよ、と。誰もついてこなければ独りよがりのスタンドプレーにすぎません。リーダーと認められるかどうかは結局、周り次第です。

とありました。

「俺についてこい」式の昔風のリーダー像は、今では弊害が大きくなってしまっています。「俺についてこい」ならまだ良いですが、「俺の言うことに黙って従え」というスタイルはもはや“オワコン”です。誰からも支持されず、個々人の意見やアイディアを自由に創造・発信する機会を奪ってしまうばかりか、せっかくのイノベーションの芽を摘んでしまうことになりかねません。「指示されたことだけやっていればいい」と思う人が増え、「なぜやらなければいけないのか」を根本的に理解しないまま、トップがいなくなってしまうと自分で走り出す力さえも奪われてしまうのです。

さらに、指示型のマネジメントを受けることに慣れていた人であっても、上からの指示に納得できない人が増えれば増えるほど組織の士気は低下し、気づいた頃には修復不可能なレベルまで組織があらぬ方向に向かってしまいます。

コミュニケーションの断絶(双方向ではなく一方通行のコミュニケーション)がある組織や、硬直性の高いヒエラルキー型組織は、若い世代から嫌厭されるだけでなく、組織力を高めることも大きな成果を出すこともできないまま行き場を失ってしまうことは明白であり、従来型の古いリーダーシップスタイルからの脱却が求められているのです。

そもそも組織を一人のリーダーの力だけで引っ張ろうとする考え方に限界がきています。ドラッカーは著書の中で、「リーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」と言っており、さらに「リーダーシップは一つの方法論であって、誰にでも習得できるものでなければならないということである。」とある通り、リーダーたるものの姿勢は誰もが学ぶことができ、リーダーシップとは誰もが身につけることができるものであるということになります。

組織のリーダーだけがリーダーシップを発揮するのではなく、チームのメンバーがそれぞれのリーダーシップを発揮して未来を創り出していく力こそが今、求められています

■これからのリーダーシップの形

リーダーシップの概念としては、

  • 変革型リーダーシップ(生き残りのために企業を変化させられることができるリーダーシップ)

  • サーバント型リーダーシップ(部下の能力を肯定しお互いの利益になる信頼関係を築くリーダーシップ)

  • オーセンティックリーダーシップ(自分自身の価値観や倫理観に基づきチームを導くリーダーシップ)

  • セキュアベースリーダーシップ(リーダーがチームメンバーの安全基地となることでメンバーの可能性を開いていくリーダーシップ)

など様々なリーダーシップ理論が提唱されています。

あらゆるリーダーシップ理論がある中でも、近年のリーダーシップは、「個人が強い権限を持ち、先頭に立って皆を率いていく」スタイルから、「周囲(部下)と信頼関係を築いた上で、チームメンバー1人ひとりの才能を活かす」スタイルへとシフトしているということは確実だと思います。これは、不確実性の高い時代において、ビジネスのフィールドで求められる知識やスキルが流動的になってきたことにより、リーダー1人だけで対応しきれなくなっていることや、企業において社員のエンゲージメントや心理的安全性向上の必要性が増していることなどが起因しているのではないかと思います。

スポーツでもビジネスでも、今の時代における“良いリーダー”というのは、ビジョンを掲げ、各メンバーの能力を把握して適切な目標や役割を設定していく人です。さらに「組織が目指していること」「一人ひとりに求めていること」を明確にし、「俺についてこい」と先導するのではなく、チームメンバーの意志を尊重しながら一緒に伴走し、各々の才能や能力を引き出していく力も求められていると思います。

リーダーシップにおいては、最も優れた、絶対的な解は存在しません。

それぞれの個人の特性や置かれている環境に応じて、適切なリーダーシップは絶えず変化していくものであり、多種多様なリーダーシップ理論を一つのモデルケースとして活用し、それぞれが独自の工夫や挑戦をし続けていく必要があると言えるのではないでしょうか。



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