「ギブファースト」の罠 〜ギブギブモンスターに気をつけろ!
お疲れさまです。uni'que若宮です。
コロナ禍が長期化の様相を呈し、経済的に個人にも企業にも大きな打撃となっています。その不安からちょっと世の中がピリピリしてきて、ストレス値が高まっています。そんな時だからこそ助け合いの気持ちが重要です。
「ギブファースト」という言葉をご存知でしょうか?
「ギブ&テイク」のうち「テイク」を考えずに、まず「ギブ」しようよ、ということなのですが、実はギブには罠があると思っていて、注意しないと危険です。
ギブギブモンスターを探せ
まずはこちらのストーリーをお読みください。この中に3種類のギブギブモンスターが隠れています。
あなたは中堅の広告デザイナーO。アシスタントを含めて15人のスタッフを抱え、広告業界ではそこそこ名が通ったブティックを経営しています。
長年アシスタントとして雇っていた若手デザイナーAが独立したのは3年前。Aはすぐ涙目でOを頼ってきました。
「Oさん・・・やっぱ仕事すぐ入るもんじゃないっすね・・・Oさんのとこ辞めなきゃよかったです・・・」
「まあそういうな、最初はおれだってそうだったよ。ちょうどX社の案件が来てるから、webのとこだけ入ってみるか?」
Oはその後もことあるごとにAに仕事を回しました。客先とのプレゼンではわざわざAに提案させたり、先輩としてチャンスをつくりました。
ある時、後輩Aに転機が訪れます。とある広告賞でAの手掛けた広告が大賞を受賞したのです。Oも招待された授賞式。Aが受賞のスピーチをしています。
「大賞を受賞できたのは、ここにいる沢山のみなさんのおかげです。クライアントのY社のみなさん、クリエイティブを頑張ってくれたチームのみんな、そして何より、独立をずっと応援してここまで支えてくれた・・・」
(おいおい、こんな場で名前出すなよ(笑)、恥ずかしいじゃないか)
「・・・両親に一番の感謝を贈りたいです。まだまだ駆け出しですがこれから頑張っていきます、今日は本当にありがとうございます!」
パーティーも終わり頃になってやっとAがテーブルにやってきます。
「あ、Oさん。今日はありがとうございます。すんません、バタバタしててろくにお話もできずで・・・」
「・・・いや、主役だからな、仕方ないさ。よかったな、お前を育てたおれとしても鼻が高いよ。スピーチでおれの名前が出るんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ(笑)」
「いやいやOさんに比べたらまだまだっす。また今度連絡します!」
そういってAはあっさりと別のテーブルに移っていきました。
一週間後、OはAに電話をかけました。
「こないだは授賞式おつかれさま。お前がやっと一人前になっておれも肩の荷が織りたよ。実は今度Z社の仕事が入ったんだが、またお前のとこに回そうか?」
「すみません、ちょっと最近忙しくて…」
「そうか、売れっ子だもんな。でもZ社の仕事はやっといて損はないぞ?」
「・・・すんません、いいづらいんですけど・・・。忙しいっていうか、ぶっちゃけOさんのとこの条件だともう合わないんすよね・・・。単価的にその倍はもらってて」
「ん?安すぎるっていってるのか?おいおい、今までお前のことどれだけ助けてきたとおもってるんだよ」
「そのことはめちゃくちゃ感謝してますよ。でもおれももう自立してやれてるんで、これからは大丈夫です。Oさんにもこれ以上世話かけられないですし」
(Aめ、すっかり天狗だな。ちょっと賞とったら単価は倍だと?調子に乗ってると今に失敗するさ。その時に泣きついてきても知らないからな)
しかし、Oの予想とは反対に、Aはどんどん活躍していきます。
「注目若手A」は毎日のように雑誌やテレビでも目にします。一方Oの会社の業績は伸び悩み・・・。
ある日、長く付き合っているクライアントから電話がかかってきます。
「すみません、今回ちょっと別のとこにお願いすることになってしまって…」
「あ・・・そうですか・・・。残念ですが、また宜しくおねがいします。」
「すみません、また何かあればお願いします。あ、そういえばOさんってAさんと前に仕事してたんですって? 今回彼のとこにお願いするんですが、いいですよね彼。やっぱり若い頃から才能あったんですか?」
「・・・いや、どうかな・・・。まあクリエイティブは多少できますけど、責任感足りないっていうか、苦労しますよ、あいつとやるの」
「はあ・・・そうなんですか・・・。まあ、また機会があれば宜しくおねがいします。」
この話の中には3つのタイプの「ギブギブモンスター」が出てきます。わかりましたか?ここかな、という予想をしてから後半に進んでください。
ギブギブモンスター①:押し貸しおじさん
ギブモンスターの第一形態は「押し貸しおじさん」です。これの一番ヤバいやつがLINEおじさんです。
仕事を頑張って、いる、
大好きな〇〇チャンに❗
頑張っている、ご褒美🎁
内緒で、買っておいたよ✌
来週、美味しいワイン🍷
でもどうかな❓
プレゼント🎁交換、僕は
〇〇チャンが欲しいな😘
ナンチャッテ👍
「押し貸しおじさん」は「ギブファースト」しているように見えますが、実は「見返り」が前提です。
羽振りが良いふりをしていても実はケチで、誘いを断ると「あのお店いくらしたと思ってるんだ?」「君も分かっててもらってたんだろ?」「させないんなら返せ」などといい出したりします。「ギブ」といっても、あげてるのではなくて勝手に「貸し」をつくっているんですね。だから返ってこないと急に手のひらを返して怒り出します。頼んでもいないのに「貸し」をつくって、返さないと怒るというのはなかなか困りものです・・・。
ギブギブモンスター②:搾取おじさん
続いて登場するのが「搾取おじさん」です。さっきの「押し貸しおじさん」よりも厄介なことに、彼らには悪意はありません。むしろ「善意」だと信じ込んですらいるのです。
OさんがAさんにしていたように、「仕事を振ってあげる」というのもそうです。こういう構造は実は色々なところでありますが、先輩としてはチャンスを「あげている」つもりで、仕事を振っている。しかしすでに後輩の価値があがっていて、価値に釣り合っていないのであれば、むしろ「搾取」になるのです。
Aさんははっきりと伝えているのでいいですが、こういう構造では「育ててもらったから」と弱い立場の側が言い出せずに飲み込んで「搾取」され続けていくということが起こります。
それでも、アーティストがお金の話をするのは恥ずかしい。それを乗り越えてこそいい表現ができる。と言われ何も言い出せなくなり、彼の持論「私写真」「写真は関係性」「LOVE」「ミューズ」を信じて私なりに理解して、貢献しているつもりで飲み込むようになってしまいました。
このケースは本当にひどいですが、この場合ですら荒木さんが必ずしも悪意を持って「利用してやろう」としていたとは限らないと思います。むしろ(だからこそより根深いのですが)KaoRiさんを「ミューズとして育ててやったのに」と今でも本気で思っているのではないでしょうか。好意のつもりで弱者を搾取し、追い詰めていく。これが「搾取おじさん」の怖さです。
ギブギブモンスター③:マウントおじさん
最後のモンスターは「マウントおじさん」です。マウントおじさんにとって実は「ギブ」という行為は、「自分の優位性を担保するための手段」です。
「助けてあげる」「応援してあげる」といいつつ、その実ギブしていることで「自分が上」であり続けようとします。そのためマウントおじさんは上下関係が逆転するとすぐ化けの皮がはがれるのです。
「お前には期待しているし、応援する」といっていた「親分肌」の上司が、出世して立場が逆転した瞬間、さんざん裏で陰口を言って貶めていた、みたいな経験があります。彼らは「ギブ」で優越感を感じていただけなので、優越感がなくなるとギブどころか自分が上に戻るため足を引っ張り始めます。
ギブギブモンスターに「ならないように」気をつけろ!
ギブギブモンスターはとっても怖いのです。なぜ怖いか?
それは気づかぬうちに自分がそうなってしまうからなのです。
「ギブファースト」「ギブギブ」と気分良く言っているうちにいつの間にかモンスター化してしまう。
あなたは、冒頭のストーリーを読んで、後輩Aにちょっとムカつきませんでしたか?
「もっとちゃんと恩返しすべき」「単価あげろとか恩知らずだし生意気」「こんなやつが成功するなんて不公平だ」そんな感情を少しでも持ちませんでしたか?
僕自身、Aが自分以上に成功していく想像をしたらやっぱりちょっと面白くないな、と思ってしまいました。だからこそ「ギブファースト」で「ギブ」をする時、そういう負の感情に巻き込まれないように気をつけないといけないと思いこの記事を書いています。具体的には以下のようなことを心がけたいです。
1)「押し貸しおじさん」にならないために:「ギブ」と「貸し」を混同しない
本当の「ギブ」はあげた時点でチャラです。あげたものは返ってこない、と腹をくくりましょう。本来なら「ギブしたこと自体」を忘れてしまうくらいでないといけません。そうではなく「貸し」だと思うなら、かっこつけてギブといわず「これは貸し」とちゃんと伝える方がお互いにとって良いと思っています。
2)「搾取おじさん」にならないために:過去ではなく「今」で評価しよう
「搾取おじさん」の問題は、相手の価値を適切に評価できていないことにあります。たしかに、Aにまだ活躍の場がなかったときには、たとえ安い仕事でも「チャンス」の「ギブ」でした。しかし彼が世間から評価され、価値が上がっていっているのに、相変わらず初期と同じ条件で「チャンスをあげる」としたら、「搾取」になってしまうのです。昔から知っているからこそ、「過去」にアンカリングされず、今の価値で適正に評価しましょう。
3)「マウントおじさん」にならないために:距離を取ろう
本来、近しい人が出世することは喜ばしいこと。自分もうまく行っている時期ならいいのですが、上手く行っていないときには「嫉妬」が湧いてきます。おれの方が上だったのに、上から目線で見下しやがって。相手はまったく見下してなどいないのに、そんな気持ちが湧いてきたら要注意です。
特に、近しい人に対してほど嫉妬の感情は強く、心を蝕んでいきます。あなた自身の価値をさげてしまうので、くれぐれも相手を貶めるような言動をしてはいけません。
そういう時はできるだけ距離をとりましょう。なるべく「知らない人」だと思ってみるのです。知らない人にはあまり嫉妬が起こらないので、適切に付き合えるはずです。
「ギブファースト」はとても素晴らしいことですが、同時に罠もあります。
ギブする時にはモンスター化しないよう注意して、沢山ギブし合える社会にしていきたいですね。
【追記】
ギブギブモンスターを「おじさん」という表現で書いていますが、これは性別やジェンダーの差別を意図したものではありません。ただ、のモンスターは「上下関係」によって生まれるため、現在の社会で有意に「パワー」を持つ存在として比喩的に表現したものです。
「おじさん」は社会的なパワーを持っているためギブギブモンスターになってしまうと「老害化」したり、上下構造を硬直化させてしまいますが、ちゃんと気をつけてモンスター化せずに「ギブ」すれば、そのパワーを大きな貢献と変革のために使うことができると信じます。
また、このような記事を書くと「あれっておれのこと?」というような問い合わせをいただくのですが、誰か特定の人に対して書いたものではありません。むしろ、自分自身も「おじさん」と呼ばれる年齢・地位になったので、戒めとして記していますのでご理解ください。