良いベテランと悪いベテランの違いは、他者の内在論理を言語化し、そのベースでコミュニケーションすることができるか、である
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良いベテランと悪いベテランの違いは、他者の内在論理を言語化し、そのベースでコミュニケーションすることができるか、である

筆者の父は、生涯証券会社の営業を生業としていました。最初は一担当から始まり、最後は取締役となった後、会社を去りました。

そんな父と、筆者の仕事、つまりマーケティング(におけるコンセプトの重要性)に関する話をしたことがあります。金融や営業、組織運営などについては非常に解像度が高い知識、哲学を持っており、筆者が心ひそかに尊敬していた彼が、コンセプトの大事さなどをほとんど理解しておらず、驚いたのを覚えています。

今回のCOMEMOのテーマに触れ、私が想起したのはこの時のことでした。

「ベテラン」について

それは、筆者の中で「ベテラン」という言葉のプロトタイプ的存在が父だから、なのですが、その時は父がマーケティングのことを知らなくとも、別段変だ、とか、頼りない、などとは思いませんでした。

なぜなら、父は証券会社という舞台における、営業という職能集団の中でベテランといわれるに相応しい、というだけであり、そこで必ずしも要求されることのないであろう「コンセプト」の重要性を理解とも、別段不都合はない、と思われたからです。

ところで、父のようなベテランが、その舞台と職能を転職・異動などにより、何か別のものに転じたとしましょう。

転じた先で、彼はベテランとして位置付けられるでしょうか?

上記の考え方でいくと、そうはならないですよね。

かつての環境で卓越したパフォーマンスを上げているならば、「勲章持ちの人」というポジショニングで敬意を払ってはもらえるかもしれません。が、勲章持ちでも新人は新人。新しい舞台のビジネスモデルや慣習の理解、新しい担当で要求されるスキルを獲得するまでは「ベテラン」として頼られることはなさそうです。

こう考えると、ベテランという言葉には、ある企業やある職能を極めた、という含意がありそうです。そしてベテランが保有していることを期待されているスキルは、一般的にはこの企業や職能に関連したものであるとも。

リスキリングについて

次は、ベテランのリスキリングについて考えてみましょう。

ベテランとリスキリングが組み合わせて取り扱われることの背景には、ベテランというのは、一つの分野のエキスパートとして免許皆伝されたものであり、学びのサイクルから離脱して仕事を回すことを許されたものである、という含意があるように思われます。

しかし、どのような分野であれ、競走環境と人の創造性がある限り、新しいアイデアや概念は登場します。オプション理論などを援用したハイテク金融商品が出てきた時、それまで切った貼ったの営業でやってきた父が目を白黒させながら勉強していたのを思い出します。

そして、そうした新しいアイデアや概念は、それからの競争のルールを書き換えるものであることも多くあり、これを学ばないことは戦線からの脱落を意味します。

また、狭いスパンではなく、人工知能のようなスピードや効率のパラダイム変換、SDGsの様な産業全体に影響を与える新たな世界観といったものも、ひっきりなしに登場します。やはり新しい競争の前提になるこういった事柄は常にアップデートし、感覚・大局観を身につけないと、前線にいるのは難しいように思われます。

「リスキリング」は「リスキリング」という新たな&キャッチーな言葉が枠組みとして与えられたので注目されています。

が、これは、別段新しいことではなく、個人が仕事人として存在するためには弛まず続けるべき必須の営みであり、そして、上記に記したベテラン=免許皆伝などという考え方は誤謬も良いところである、と筆者は考えます。

なのでベテランがリスキリングすべきことは何か、という問いに対する答えは、その人が携わっている組織・産業・職能・社会の周りで発生する、それぞれのスパンの中でパラダイム変換につながり得る全てのことだ、ということになろうかと思います。

再びベテランについて

ベテランというのは、単に「ある組織や職能を極めた存在」というものでしかないでしょうか?

筆者の感覚では、ベテランと呼ばれる人は、そうなる過程で、色々な組織や人間関係のパターンを経験し、人の組み合わせに応じて、誰にどの様な働きかけをすると、どの様な化学反応が起きるか、ということを習熟しており、チームが煮詰まった時に良い働きをしてくれることが多い様に思います。

ベテランにそれができるのは、長いキャリアの中で、色々な人の価値観や内在論理に触れており、それらを共鳴させたり、すり合わせたりするために、どの様なアプローチを取れば良いか経験的に理解しているからです。

しかし、ベテランと呼ばれる人が必ずしもこれができるかというとそうではなく、そしてそういう人が組織に配置されていると、変に若い人をマウンティングしたりと、老害的な危うさが漂いはじめます。

なので、このコラムを締め括るにあたり、

・ベテランが組織で発揮できる価値として、チーム内の人間関係や化学反応を可視化し、ドライブすることがある

・そのために他者を観察したり、感情移入したりすることにより、その価値観や内在論理を理解し、言語化し、そのベースでコミュニケーションを組み立てられることが必要である

・良いベテランとそうでないベテランを分つ境界の一つが、これのあるなしだと思われる。ので、そうでない方のベテランはトレーニングを通じてこれらを身につけることが望まれる

という指摘をして、筆をおきたいと思います。

読者の皆さんは、どう思われますか?


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9つの事業会社でマーケティングやってきました。うち、西友、ドミノ・ピザなど4社でCMO。現在は株式会社Preferred Networksの執行役員CMO、イトーヨーカ堂・セルム顧問、日経XTrendアドバイザリーボード、厚生労働省年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー等。