個人投資家の"注目株"バイアス:〜魅力的な株式選びの罠と対策〜
私たち個人投資家にとって、株式投資は流動性もあり少額で投資できることから魅力的な選択肢です。NISAの浸透により、インデックスファンドだけでなく個別株投資に目覚めた人も少なくないと思います。
でも、個別株投資の時にしがちなのが、世の中で注目されている株をとりあえず買うということ・・。実は、多くの個人投資家が市場でメディアなどで注目を集める"注目株"に飛びつき、その結果としてパフォーマンスが悪化してしまう傾向が先行研究では報告されています。今回は、この現象について検証した論文を引用しつつ、こうした投資をしてしまう理由と対策について考察します。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2275U0S4A121C2000000/
ニュースと注目の影響: どのようにリターンを損なうのか?
ファイナンス研究TOP3に入る学術雑誌に掲載された、下記のBarberとOdean(2008)の研究"All That Glitters: The Effect of Attention and News on the Buying Behavior of Individual and Institutional Investors"が重要な洞察を提供しています。
BarberとOdean(2008)の研究によれば、個人投資家はニュースで注目される株式、異常な取引量を伴う株式、または極端な一日リターン(価格が急激に上昇または下落する銘柄)を示す株式を好んで購入する傾向があります。これらの株式は目立ちやすいため、個人投資家の注意を引きやすい特徴があります。しかし、一見魅力的に見えるこれらの株式選びは、長期的なリターンに悪影響を及ぼす可能性があります。
どれだけ損失が出るの?: 数字が語るリスク
では、どの程度の損失を被るのでしょうか?彼らの研究では、注目株に投資をすることによる損失を計量経済学の手法により、以下のように推計しています。
取引コストとパフォーマンス: 個人投資家が購入した注目株式は、平均して売却した株式に比べて年間3.7%ものリターンの低下を記録しています。この差は取引コストを含むものであり、過剰取引が主な原因とされています。たとえば、100万円を投資した場合、年間で約3万7千円の損失を被る計算になります。
高取引量の株式: BarberとOdeanの研究では、異常な取引量を示す株式(取引量上位5%)が購入されると、これらの株式のリターンは平均して購入後10日間で0.5%の下落を記録しています。つまり、100万円を投資していた場合、10日間で約5千円の損失が生じる可能性があります。
極端なリターンを持つ株式: デイトレーダーの方々が好むだろう、一日で極端な価格変動を示す株式(トップ10%またはボトム10%)では、特に価格が急上昇した場合、個人投資家が購入後30日以内に平均して1.1%のリターン低下を経験することが分かっています。これは、100万円の投資に対して30日間で約1万1千円の損失を意味します。
ここで推計された数字は、あくまでもデータから導かれた平均的な傾向です。俺・私は絶対に違うと自信のあるからもいるかもしれませんが、数字は残酷な結果になっています。
なぜ個人投資家は"注目株"に飛びつくのか?
では、なぜこのような投資を、私たち個人投資家は好むのでしょうか?この行動の背景には、注意バイアス(attention bias)があります。注意バイアスとは、多くの選択肢がある状況で目立つ選択肢に自然と注目が集中する人間の特性を指します。
BarberとOdean(2008)の研究では、注目バイアスが起こる背景について次のような理由を挙げています:
ニュース報道の影響: ニュースで取り上げられる株式は、視覚的・感情的に投資家の目を引きます。
例えば、CEOのスキャンダルや画期的な新製品の発表などが大々的に報道されると、株式の取引量が急増します。
取引の容易さ: 個人投資家は機関投資家と違い、数千もの株式を検討する時間がないため、注目を集める株式に限られたリソースを集中させがち。
楽観バイアス: 注目を集める株式は過去の好成績や良いニュースと関連付けられるため、多くの個人投資家がその未来の成績を過剰に楽観視しまう傾向にあります。
注目バイアスを克服するには?
この研究では、個人投資家がこのバイアスを克服し、より賢明な投資判断を下すためのいくつかの実践的な方法も示唆しています。
1. ニュースや注目度に惑わされない
ニュース報道や市場の騒ぎに流されるのではなく、ニュースで注目されたタイミングでは損失が起こりやすいことを肝に銘じる。
2. ポートフォリオ分散の徹底
注目を集める株式だけでなく、異なるセクターや地域に分散したポートフォリオを構築することでリスクを軽減します。時間分散は、本当にリスク分散になっているかは解明されておらず、私たちができるリスク分散は、まずは資産分散です。
3. 長期視点を持つ
短期的なニュースや市場の騒ぎに惑わされず、やはり長期的な視点で資産を増やすことを目指します。この研究によれば、頻繁な取引を行う投資家は、長期的に見てパフォーマンスが低下する傾向も報告しています。
まとめ
私たち個人投資家として成功するためには、心理的なバイアスを理解し、それを克服する方法を学ぶことが重要です。BarberとOdean(2008)の研究は、注目バイアスがいかに投資行動に影響を与え、パフォーマンスを低下させるかを明らかにしました。この知見を活用して、私も短期的なニュースや注目度に惑わされない、賢明な投資判断を心がけたいと思います。
未来の市場で私たちが成功するための鍵は、注意深い計画と冷静な意思決定にあるようですね。
自分にもしっかり言い聞かせます(汗)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
応援いつもありがとうございます!
崔真淑(さいますみ)
*冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪