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偉そうなコンサルが現場のイベンターに戻って気づいたこと→イベントサークルでやることには、仕事の全てが詰まっている。

社会人17年目。
学生時代はバンドサークルに所属していた。

今思えばサークルでは「企画ライブ」ばかりやっていた。
肝心の曲作りはメンバーに任せて、どんなコンセプトでライブをやるか。どのバンドを呼ぶか。とんなチラシをつくるか。どんなセットリストでやるか。

考えていたのは、そんなことばかりだった。

バンドマンと言うより、ただのイベサー(イベントサークル)だ。

就職活動でアピールしていたのも、そのことばかり。

「どの街でやるか。どのライブハウスでやるか。どの出演順でやるか。それによって告知方法や曲順を変えるのは当たり前です。例えば渋谷と下北沢の違いは〜」

学生風情が偉そうに広告会社の社員に語っていた。

それでも第一志望の電通になんとか滑り込んだ

最初のキャリアもやはり同じ領域で、コンビニのセールスプロモーション担当になった。そこでは毎日がお祭り騒ぎ。「⚪︎⚪︎フェア」「⚪︎⚪︎キャンペーン」をいくつも同時並行で走らせて、店頭に掲示するPOPを毎日納品していた。ついたあだ名はPOP STARだ(カッコよくない)。

それでも年次と実績を積んでいくと、いつしか現場から離れていった。
戦略プランナーとか、コンサルタントとか、肩書きが徐々に仰々しくなって、扱う資料には文字と数字が増えた。

17年経ってコンビニのおにぎり100円ポスターの制作作業が懐かしくなってきた昨年、私は電通を辞めてIMADEYAという酒屋に転職した。

そして先月、17年ぶりにイベントを担当することになった。

今日はそんな話。

◾️まずはリサーチから

イベントの舞台は渋谷PARCOだった。錦糸町のPARCOに出店している関係で、渋谷の会場を使えることになったのだ。

場所だけ決まって「何か」をやることになった。

社内でヒアリングをしてみると、私が社外取締役を務める酒屋では、コロナ以前にお酒の生産者を招いたイベントをやっていた。主な目的は卸先である飲食店と生産者をつなぐことで、その第二部を一般向けにも開放していた。

「一般人でも生産者と会える」
「お店じゃなくても限定のお酒が飲める」

そんなこともあって、主に日本酒の愛好家たちが集まり大盛況だったようだ。

「じゃあまた、それをやればいいのに」

と安易に思ったが

「同じことをやってもおもしろくないよね。渋谷PARCOだし、若い人、まだお酒を知らない人たちにも来てほしい。」

と、上層部からプレッシャーがかかった。

「さてどうしたものか」

例によってパワーポイントを起動して、頭の整理をはじめた。まずはリサーチ。競合調査からはじめた。

お酒に関するイベントをデスクリサーチして、カテゴリごとに整理してみた。

「なるほど、やり尽くされている。」

そんな印象だった。おトクさを謳うイベント、生産者を押し出すイベント、種類を訴求するイベントなど、お酒のイベントは全国で毎週末のように開催されていた。

「安易に考えたら、絶対に競合とかぶる。」

まずはそれを、強く意識した。

◾️若者やインバウンドにも対応したコンセプト

競合がひしめく中で、どう差別化していくか。その糸口を自社の要素と、会場の要素を掛け合わせて考えてみた。

当時の整理はこんな感じ。

最初の糸口になったのは「酒屋のイベントである」ことだった。うちが扱っているのは日本酒だけではない。焼酎もワインも、ジンもウイスキーもある。

だから「日本酒フェス」や「ワイン祭り」にはなり得ない。「複数の酒カテゴリを跨いで楽しめること」は意外と差別性の高いポイントだった。

ここに渋谷PARCOの特徴を掛け算してみる。

PARCOと言えば「若者カルチャーの発信地」だ。特に渋谷はインバウンドにも人気で、世界でも注目されるジャパニーズカルチャーの聖地。

日本の酒屋カルチャーと、若者や海外の人も一緒に楽しめる日本のカルチャー。そんなことを考えていたら、とあるニュースを思い出した。

今、若者やインバウンドに「スナック」カルチャーが人気だと言う。知らない人同士が一緒になって、気軽にお酒や音楽を楽しむレトロな世界観が「逆に新しい」と感じるらしい。

これらの流れを受けて、イベントコンセプトをこう設定してみた。

うち(IMADEYA)で取り扱っているお酒の多くは通常、飲食店に卸している少量生産の「ちょっといいお酒たち」だ。スナックで見かけることはほぼないだろう。

ちょっといいお酒を、もっと気軽に味わってもらいたい。

そんな思いを込めるに「スナック」というコンセプト(容れ物)はぴったりだった。

◾️企画やデザインの力でシャープにする

「スナック」というコンセプトが社内でも承認され、企画やデザインの作業に入った。

まず考えたのは「お酒の銘柄をスナックの店名にする」という企画だ。

と言うのも、お酒ビギナーにとって最初のハードルは、お酒の銘柄名を覚えること。既存顧客への調査によると、95%が「推しの銘柄」を持っているが、それはビギナーにとって難しい。

IMADEYAの顧客調査

そんな銘柄名が「店名」になれば、覚えてもらいやすいかもしれない。(そして何より、お酒の名前ってスナックの店名っぽい)

まずは自分でラフをつくってみた。最近は便利なもので、デザインソフトのcanvaに「ネオン 看板」と入れれば色んなフォーマットが出てくる。

そこに自分の好きな銘柄の名前を入れてみた。

これが社内の反応も良く、ビギナーも玄人も同時に楽しめる企画であることを確認した。

そうと決まったらプロに依頼だ。

前職でつながりのあったデザイナーさんにビジュアルのブラッシュアップを依頼した。

最初はシンプルなデザインを提案してもらったが、

当初のラフデザイン

「単品だとダサい気もするけど、揃うとなんだかかわいいデザインがスナックっぽい」

と、
雑な依頼をしたら、流石のビジュアルが出来あがった。

最初は色んなカラーリングを検証して
完成品はコチラ

こうして初のイベント「スナックいまでや」の世界観が固まった。
あとは肝心の集客だ。

◾️PRのネタを少しずつ出す

今回のイベントが、社内的にもっとも挑戦だったのは「生産者や限定酒をフックにしない」という点だ。

前述のようにお酒の愛好家にとって、

・生産者と会える
・限定酒が飲める

はキラーワードで、集客に大きく貢献する要素だ。
しかし今回の目的はそこではない。より広い顧客層に銘柄を覚えてもらったり、(これまで知らなかった)ちょっといいお酒を気軽な雰囲気で楽しんでもらうことだ。

集客の要素は、別につくる必要があった。

注力したのは「グッズとペアリング」だった。

まず限定のお酒はないが、限定のグッズをつくった。特にこだわったのはグラスだ。多くの日本酒イベントでは「限定のお猪口(おちょこ)」が集客のフックになる。

しかしこのイベントでは日本酒もあるが、ワインもある。

「ワインをおちょこで提供するのは酒屋としてどうなんだ」

そんな声が挙がっていた頃、「コップはどう?」というアイデアが社内から出た。確かに瓶ビールを入れるようなガラスのコップならどちらにも対応できるし、スナック感もある。

そこに対して「じゃあリカシツさんにつくってもらおう」というアイデアが重なった。

リカシツとは、理科の実験器具をカトラリーとして提供している雑貨店で自宅の1階にある「いまでや清澄白河」とも縁が深いお店だ。最近はこの会社がつくる深川蒸留所のジンも人気だ。

これまでの現場同士の関係値もあって、先方は快諾してくれグッズの1つ目が完成した。

何度もロゴの大きさを検証した
そのまま計量カップにもなる

この他にも気に入った銘柄を今後もPRしてもらおうとスナックの看板風ステッカーも作成。徐々にイベントらしくなっていった。

これらのネタをSNSなどで少しずつ発信して、イベントへの関心度を高めていった。

スナック風看板ステッカー

続いて取り組んだのは「体験価値」だ。「ちょっといいがお酒が飲める」だけだと、ただのスナックモチーフの試飲イベントになってしまう。

そこで考えたのが「スナックペアリング」だ。

IMADEYAのスタッフにはペアリング(お酒との相性がいい食べ物を考える)のプロたちがいる。彼らに依頼して、スナックで出るような駄菓子と相性がいいお酒を選定してもらった。

ペアリング実験の様子

日本酒やワインの資格を持つスタッフたちが「この銘柄の酸味がヤングドーナツのオイリーさをキャッチしてくれる」など真剣に語り合った結果、お酒と相性がいいペアリングスナックが決定。

SNSで1つずつ発信して告知の材料にした。

個人的に大好きな組み合わせはこちら

イベント当時は実際にその組み合わせでお酒を楽しんでもらうべく、スナック菓子を大量に、且つ少々ずつ用意した。

当日用意されたペアリングスナック
各銘柄との組み合わせ(ご自宅でも是非)

こうして徐々にイベントの詳細を発信することで、ニュースリリース後も集客のネタが切れないように心がけた。

これらの取り組みが功を奏したのか、ニュースリリース直後から落ち着いてしまっていたチケットの販売が動き出した。

◾️運営の不安を先回りするマニュアルづくり

イベントとして成立するレベルまでチケットが売れたら、最後の仕上げは当日の運営体制だ。

昨今こうしたイベントでは「運営の甘さ」がSNSですぐに拡散してしまう。不満の声は一度拡散したら信頼を取り戻すのが難しい。日々の業務でも忙しいスタッフたちだったが、千葉の本社から何度も渋谷に通った。

「ここの動線は迷いそう」
「備品はあれが必要なんじゃないか」
「このクレームがあった時はどうする?」

机上の打ち合わせで気づかなかったことが、現場に居ると山ほど溢れてくる。それを1つずつリスト化して運営マニュアルをつくった。

私の経験上、この運営マニュアルが当日使われることはほとんどない(これを見ている暇なんてない)。ただ私は、どんなイベントでもマニュアルをつくることを推奨している。

それはマニュアルを作る過程自体に意味があるからだ。マニュアルをつくれば、イベント全体を俯瞰で見ることができる。また、当日の流れを脳内でシミレーションすることができる。

何が足りないかを事前に考え尽くす。せめてマニュアル上でだけは「完璧な状態」にしておくことが重要だ。(それでもトラブルは起こるのだが)

こうして10月26日、イベントは当日を迎えた。

オープン前のスタッフ会議

◾️大切なことはすべてイベントが教えてくれた

2日間のイベントはスタッフの臨機応変な対応もあって、思った以上に無事に終えることができた。(もちろん細かい修正点はたくさんある)

多くのお客さんが初めての「スナックいまでや」を楽しんでくれた。ある意味で、ポジティブなお客さんたちに恵まれた部分もある。

個人的には偉そうなコンサルを経てイベント運営の現場に戻ったことに、妙な興奮を覚えていた。

しかしそれでも、こうして準備から当日までを振り返ってみると、学生のサークルや若手社会人が経験する「イベントの仕事」には、仕事で大切な要素がすべて詰まっているように思える。

リサーチからはじまり、コンセプトからクリエーティブやデザイン、PRプロモーションやエグゼキュージョン。コンサル風に横文字で整理すればこんな感じだ。

1つ1つの段階を真剣に向き合って考える。イベントを1つやり切ることは、キャリアで言うところの「成長」にもっとも寄与する経験なのかもしれない。

次回もお楽しみに




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小島 雄一郎
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