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最近の感染症流行状況から「とりあえず」は控えていただきたい

 11月に入っても夏日を記録するなど、いつまでも気温が高い日が続いていましたが、週末あたりから気温が低くなり平年通りの季節感となるようです。冬になると懸念されるのが呼吸器感染症の増加であり、今年は特に季節性インフルエンザがすでに流行期に入っている状況ですので注意が必要です。これは煽りでもなく診療を行っていても高熱で受診する人の検査を行うと半数くらいがインフルエンザ陽性であることからです。一方でCOVIDの方はほとんどおらず、当院では先月トータルで2名、先日勤務した休日診療所でも2名のみでした。

 実際の流行状況について東京都感染症情報センターの今週(44週)の定点報告によればインフルエンザ:16.99(←19.91←21.74←16.19)、COVID:1.46(←1.84←2.11←2.33)でありいずれも減少傾向です。東京都インフルエンザ情報の推移グラフをみてもピークアウトしているような印象でもありますが、この状況が年末にかけて続いていくのか、再び増加に転ずるのかの判断は現状ではきわめて難しく、多くの有識者が推測困難と発言しているのも理解できます。特に懸念されるのは10月末あたりから今年のインフルエンザワクチンを既に接種したにもかかわらず高熱が出現して検査を行うとインフルエンザ陽性となる方が散見されることです。国立感染症研究所・IASRによる最新のウイルス分離データでは、春頃からくすぶっていたAH3型にAH1型が混在し始めているような状況ですので、今シーズンは1回だけではなくA型に2回ないしB型も含めれば3回罹患する可能性もあるかもしれず、例年(COVID前)の冬季の流行がいつ頃やってくるのかも推測困難である状況です。私見ではこのまま年末にかけて一気に増加するというよりはいったん減少傾向となり、年明けになってから再度増加してくるのではないかと考えていますので、ワクチン接種も例年通り11月末から12月上旬頃に接種するのがちょうど良いのではないかと思っております。

「こんな薬不足は経験ない」インフルエンザ患者続出、検査キット「絶滅の危機」背景は?【Nスタ解説】(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース 
 このような現状の中で上記のような報道記事がありました。実際のところ私はこの番組から「検査キットが足りないらしいようですがどうでしょうか?」と取材依頼を受けていたのですが、「東京都では診療医療機関(以前の発熱外来)を対象にインフルとCOVIDの同時検査キットを上限なく有償で配布しており当院での在庫は十分にある状況ですが、一般的な流通は少なくなっており出荷制限がかかっているようです」と回答したところ、その後の連絡はなく、どうやら「絶滅危機」というような見出しをつけられるようなコメントをした医師に取材がまわったようです。今更ですが、報道は(すべてではありませんが)見出しありきで取材をする傾向がありますので、その意に反した場合は却下となる傾向にあることはよく経験してきました。
 検査キットや医療資源が足りなくなる事態はCOVID流行中から幾度となく繰り返されてきました。このような背景には多くの需要に対する供給が少ないことが挙げられると思われるのですが、あまり必要としない方にも「とりあえず」使われることも少なからず影響しているのではないかと推測します。実際に他院に受診歴のある方の経過や休日診療所を受診された方の病歴などを確認すると、発熱がなくても多くの方がインフルエンザ+COVIDの検査を行っており、その多くは陰性なのです(当然だと思います)。東京都からも「検査キットは発熱のない方へのスクリーニング目的で行うものではない」旨が明記されており、発熱のないかぜ症状だけで「とりあえず」検査を行うのはやや過剰ではないかと考えます。
 一般的にインフルエンザは38℃以上の高熱、悪寒、関節痛など自覚症状が明確に現れることがほとんどであり、臨床医であれば症状経過と流行状況のみで推測はできると思います。もちろん発熱がないインフルエンザウイルス感染症がないわけではありませんが、ワクチンや自己免疫などで症状が制御されている可能性もあり、感染が判明してもウイルス量が少なければ症状が軽微なこともあり他人にうつす可能性も低くなると考えられます。
 何を申し上げたいかというと「とりあえず検査をすることを控え、本当に検査が必要な方に適切なタイミングで実施する」ことで検査キットの消費量をある程度コントロールできるのではないかということです。すなわち、医療者側が何でも構わず検査を実施するのではなく、しっかりとした問診(いつから何℃くらいまで発熱し、どのくらい経過しているのかなど)と検査のタイミング(早すぎると偽陰性になる可能性がある)などに関する説明(インフォームドコンセント)を行い、限られた資源を最大限有効活用することに尽力すべきであることが望まれます(ただ経営の観点からすれば検査を実施すればそれなりに診療報酬が上がりますので収益を考えれば検査数が増えるのも仕方がないのかもしれません)。また患者さん側も何でも構わず検査を希望するのではなく、自身で検温や症状の経過をしっかりと把握して適切なタイミングで受診あるいは自身で検査を行うようにすることが望まれます。ただその一方で、38℃以上の高熱があっても受診や内服もせず、数日間出社されてから受診され(おそらくインフルエンザと思われましたが)日数が経過しているので検査は希望されないような方も散見されるのです。
 COVIDの流行とそれに追随したメディア情報により感染症対策に関する価値観が慎重派と楽観派の両極端になってしまいその格差が大きくなっています。一人ひとりが過剰ともいえる情報に左右されることなく、もう一歩進んだヘルスリタレシーを習得することで少なくとも「絶滅の危機」にはならないのではないかと思いますし、国民を不安にさせるような見出しも(毎度のことですが)如何なものかと思います。

 感染対策においても単に「とりあえずマスク着用を推奨」とだけ呼びかけても、感染対策と考えて「屋外でマスクをしている」のに飲食店では「マスクを外して大人数で会食している」、「黙っている時はマスクをしている」のに「会話をする時にマスクをおろして至近距離で会話をする」などなど、「不明確なとりあえず」がちぐはぐな対応になっている状況がいまだに少なくはない訳で、一概に「5類になったから」「気が緩んでいるから」感染が拡大しているなどとひとまとめにした有識者発言も「とりあえず注意しておこう」の印象であまりにも無責任のような気がします。「とりあえず」ではなく「発熱や呼吸器症状のある方がマスク着用、体調がすぐれない時は出勤・登校しない」ことを徹底することを強調すべきではないでしょうか。メリハリなく「とりあえず」を続けていることが「5類=マスク不要」「空気感染=マスク不要」など極端で短絡的な考えを生むわけであり、健全な日常生活に戻ることにブレーキをかけているように感じてなりません。

#日経COMEMO #NIKKEI

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