香港デモからみる大中華圏のゆくえ
香港で大規模なデモが起きた。きっかけは、台湾で殺人を犯した容疑のある香港人を台湾に引き渡すため、逃亡犯引き渡し条例を改正することだったが、それをすることで、香港から中国本土にも犯罪容疑者を引き渡せることになってしまうため、この点が香港の自由の維持に危機感を持つ香港の人々の抗議に繋がった、ということだ。
北京政府の「香港も台湾も中国の一部であり国内である」という立場ゆえに、香港から台湾に犯罪人を引き渡す法的な枠組みがなかった、ということのようだが、北京政府の主張と現実の矛盾が混乱を招いたと見ることもできる。
こうした動きがある一方で、香港の中国本土化は、確実に進みつつあると言えるだろう。先日訪れた時には、すでに英語が満足に通じないタクシードライバーがおり、欧米人の数はぐんと減ったと感じた。このように英国統治時代の名残が薄くなるとともに、中国政府は広東省と香港・マカオを一体開発し、深センを含むものづくりと香港の金融を合わせて国際的な競争力が高いエリアとする「大湾区構想」を打ち出している。
これは構想地域の経済発展を促す可能性と同時に、香港の一国二制度の観点からすれば「高度な自治」を損なう危険性をはらむものであり、微妙な構想だと香港の人たちには映っているのではないかと思う。そのような矢先に今回の条例改正案が出てきたことで、その懸念が吹き出した、と見ることもできるかもしれない。
そして、こうした香港の状況は、「今日香港、明日台湾。」などと言われるように、香港情勢を人ごととは思えない台湾でも大きな関心を持たれている。奇しくも、年初には習近平主席が台湾にも一国二制度をと演説で述べ、台湾の蔡総統はこれを受け入れないとのやりとりがあった矢先でもある。来年の台湾総統選挙を控えて、今回の香港デモの動きは、親中派とされる総統候補にも影響を与えたようだ。
飛ぶ鳥を落とす勢いの中国の経済成長も、米中貿易摩擦(戦争)の影響で、米国と妥協するにせよ対立を深めるにせよ、何れにしてもブレーキがかかることになり、あとはどちらがマシかという程度問題だ。それに加えて、中国でも一人っ子政策の余波で今後急激な高齢化問題が起きることは間違いのない未来である上に、経常収支が2022年にも赤字になるという予測もある。
この傾向が続くなら、中国国内の経済的な不調による不満が高まることで政治的な安定が削がれ、その目をそらすために軍事的な行動をとることもあるのかもしれない。国内が高齢化するならその前に、という意識も働くかもしれない。そうなると、香港や台湾に大きな圧力がかかることになるし、日本もその影響を受ける。
そして、政治的軍事的緊張が高まれば、中国人インバウンドも、政策的なコントロールも含めて激減するかもしれない。経常収支に占める旅行収支のマイナスを北京政府が問題視するなら、中国人の海外渡航先で上位に入る日本は、渡航制限がかかるかもしれないからだ。
今回の香港デモは、住民の1/4以上が参加するという異例の規模だったこともあり、大中華圏の将来が大きく変わるきっかけになるのでは、という見方をする人もいる。日本もまたその影響を逃れられないが、短期的な視点でも、中国で生産される製品の米中貿易摩擦の影響と同時に、中国人インバウンドをあてにした観光施策へのリスクも考慮しておかなければならないだろう。
日本では東京五輪の後、中国では経常収支が赤字になると予測され、また「中国製造2025」の達成が取りざたされるであろう2020年代の前半は、波乱の時期になるのかもしれない。
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