新規感染者数を巡る情報発信について思うこと~素朴な疑問
毎日のように新規感染者数が発表されており、その数字に右往左往する状況が続いています。経済・金融市場においても経済指標には反応せず、感染者数や死亡者数などにビビッドに反応する場面も見られています。まるで新規感染者数が経済指標のように扱われているような印象も持ちます。
私は疫病の事は全くわかりませんので、とりあえずは毎日3ケタのオーダーで感染者が増えていることは悲観すべき事態なのだろうと受け止めています。これからも粛々と慎重さをもって生活するしかないと自戒せざるを得ません。ただ、曲がりなりにも経済や金融のデータを毎日扱う仕事をしている人間からすると、単日の新規感染者数が漫然と公表ないし報道される状況に少し疑問を覚えます。例えば日曜日や月曜日に発表される前日分は「土日効果もあって検査数が少ないので感染者も少ない」という事実がよく言われています(これもどの程度、医療現場の現状に即していることなのか筆者はよく知りません)。
もし、「土日効果もあって検査数が少ないので感染者も少ない」、そしてその裏返しで「火曜日に発表される月曜日分は新規感染者が多い」という関係が最初から分かっているならばこれを均して発表・報道するという発想は無いものでしょうか。今の世の中、数字の字面だけを見て過度に不安になる人が多いことは容易に想像がつくかと思います。過度な不安が高まり過ぎると政治側からの統制も効きづらく恐れもあり、気を遣うべきところだと思います。もう少し別角度の数字を併記するという程度の配慮は欲しいところです。
少なくとも経済指標の世界では、例えば春節の影響が大きい中国の経済指標は単月ではなく1~3月期で均して評価したりします。同様に、新規感染者数のデータも、土日分のデータも均されるように3日移動平均、週間の傾向を汲む意味で7日移動平均の数字なども併記してあげるのは難しいものでしょうか。もしくは前週比でも良いと思います。土日に減るならば、先週の土日と比較すればいい話です。新規感染者数というデリケートな数字に対して、経済指標と同じ発想で向き合って良いかどうかは自信が全くありませんが、最初から「多く出る」・「少なく出る」ことが分かっているものをそのまま出して、人心を過度に不安にさせたり安心させたりすることは現在の社会にとってあまりいいことではないように感じます。
例えば足許の状況はどうなっているのか?
上図は本稿執筆時点の最新(4月20日時点)までの新規感染者数のデータを都庁から取得し作ってみたものです。これで試しに別角度から見ることを試みますと、前週比について原数値では▲23.6%、3日移動平均値だと▲20.6%、7日移動平均値だと▲12.2%という状況です。7日移動平均値がマイナスになったのは4月19日が初、二桁マイナスになったのは4月21日が初です。なお、3日移動平均は5日連続でマイナスです。感染症の御専門の方々の目からこれらの数字がどう評価されるのかは分かりませんが(ここは強調しておきます。くれぐれも専門家のご意見が正しいと思いますのでそちらを尊重します)、これが経済指標だったら多くのエコノミストはトレンドの転換を指摘するでしょう。少なくとも、2週間前、「もう手遅れだ。東京はNYと同じ状態になる」といった趣旨のコメントをしていた人は多少、こうした事実をどう解釈すべきなのかを釈明する必要があるようにも思えます。
もちろん、冒頭述べたように、3日平均で見ようと、7日平均で見ようと、前週比で見ようと、新規感染者数の絶対水準は高止まりしているのは事実だと思いますし、ワクチンなどが存在しない中で、現在進行中の対策を緩めるという決断にはならないだろうな・・・と素人ながらも思います。多くの諸賢の考察が示すように、やはり長期戦なのだと思います。このまま減少傾向が続くと良いなと祈るばかりです。
一方で、尋常ならざることを社会に要請しており、戦時中だと形容される現状も踏まえれば、その公表や報道にあたって今少し多角的な見方を提示する傾向があっても良いのではないかと感じました。これまでの新規感染者数をヘッドラインで報じていたのに、そのインパクトが欠けるから(?)なのか、突然「累計」で報じてみたりする動きも最近感じました。累計が大事ではないということではなく、データというのは継続的・多角的に見るからこそ価値があるものですから、ある日突然、切り口を変えて「累計2000人突破」というような見出しは違和感を覚えました。それまでは2000人突破していなかったのだから仕方ないのかもしれませんが、どうも今の世の中には「新規の感染者数が累増していかない」と納得できない向きがややあって、そこに迎合しているのではないかという雰囲気を感じてしまいます。
もちろん、報道する側におかれては、安堵感を生むような情報発信をするというリスクは取れず「順張り」にならざるを得ないという心情も分からなくはありません。ただ、不安の扇動にもなるも本意ではないと察します。
謎の煽り
なお、やや話題が逸れますが、わざわざ遠征して街に出掛けて、「今週も混んでいる、けしからん」といった風情で丁寧に定点チェックする報道も人心のボラティリティを無駄に煽る報道だと思います。望遠レンズの圧縮効果で迫力が増すというのは一眼レフ好き(筆者もです)なら大体が知っていることであり、そこまでして不安心理を煽りたいというのは一体どこに狙いがあるのか謎です。もっとも、実際は読まれるからやるわけで(そういう意味ではこうして触ることも加担してしまうわけですが)、PVが欲しいということなのかもしれません。下記報道の例で言えば、武蔵野市の公式twitterであげられていた週末の様子と大分かけ離れていました。
ちなみに筆者も近所なのですが、先週も先々週も人出は間違いなく激減しています(この目で見ています)。もちろん、吉祥寺ほどの街において人が完全に消えるということは難しいでしょうから、「相対的にまだ多い」は事実としてあり得ます。だからと言って「いつも通りの光景」ではどう考えてもありませんでした。主要な商業施設が殆ど閉店になっている中で「いつも通りの光景」などあるはずがありません。井の頭公園には三鷹警察署の方の詰め所まで出来ています。ボートも禁止され、もちろん、動物園も閉園しています。これのどこが「いつも通りの光景」でしょうか。
耳目を集めるというインセンティブがあることは理解しつつも、今は社会が一丸となって頑張っている最中ですから人心のボラティリティを無為に揺さぶるような情報発信は適切ではないと考えます。一刻も早くこの異常事態が収束し、社会の安定が戻るように、各自の持ち場で必死に頑張りたい所です。
P.S
4月26日 08:39、追記
沢山の方に読んで頂き、また嬉しいお言葉を方々から頂き、ありがとうございます。一応、本日時点の図表を貼っておきます。未だ、素人的には漸減傾向が続いているように見えます。この流れが続くと良いなと願うばかりです。
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