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リファラル採用の成功と失敗:組織崩壊を防ぐために知っておきたいリスク

リファラル採用が活況です。「あの話題企業の中途採用成功のポイント」などのセミナーに行くと、リファラル採用の成功事例がよく話題に上ります。

リファラル採用は、採用コストが低く、社員紹介という特性から素性の明らかなエンジニアを採用できるため、人事界隈では「採用全体の何割がリファラルで決められるか」という話がよく出ます。人材紹介会社やスカウト媒体を通じた即戦力採用がより難しくなっているため、リファラル採用の注目度はさらに高まっています。

一方で、限界も見えてきました。2024年現在、リファラル採用に関する問題についてまとめます。

リファラル採用でのトラブル

何となくリファラル採用してしまう

リファラル採用には、主に以下の4つのグループがあります。

  • ハイクラス・タレント

  • 新卒

  • 即戦力層

  • ローパフォーマー層

それぞれの戦略は大きく異なります。ハイクラス・タレント層の場合、役員クラスが積極的に動かないと決まりにくいです。新卒の場合は、直近の入社者が後輩を紹介することが多いです。漫然と募集すると、ローパフォーマー層の採用に終わり、採用単価の安さ以外に目立った効果が得られなくなることがあります。

紹介者が辞める

よくあるパターンです。「一緒に会社を盛り上げよう」と言いながら、数ヶ月後に紹介者が辞めてしまうケースです。インセンティブを退職金代わりにすることもあり、どちらにしても、対象者のフォローが重要です。

採用ハードルが下がる

従業員の友人や親族だからと、内定を出す際に甘い判断をする企業があります。これは紹介者のエンゲージメント低下を恐れての判断や、他の採用経路に比べてコストが低いためです。普通の経路と同様に厳しい基準で選考するべきです。

時折、自社の採用基準よりも低い候補者に対し、ある程度の役職を持った紹介者が「私が面倒を見るので」と上司に言い切って成立するケースもあります。その言葉に裏がなければよいのですが。

まとめて入社してまとめて転職

リファラル採用は、前職から見ると引き抜きです。これが複数名になると前職企業にとって面白くない状況が生まれます。

チーム単位で転職するケースも見られます。例えば、テックリードが7人を引き連れて転職した事例や、1年半で前職から十数名をリファラル採用したケースを聞いたことがあります。このような事態が続くと、事件化しそうなリスクを感じます。

スカウト媒体で「前職のハイスキルなメンバーをn名引き抜きました」とプロフィールに書いているCTOクラスの人も見たことがあります。これが続くと、次の会社も同様に引き連れて転職する可能性が考えられるため、リファラル採用には慎重であるべきです。

派閥ができる

同じ企業や業種からまとめて採用すると、派閥ができることがあります。リファラル採用に限らず、同一の前職からの流入が多い場合に派閥が生まれやすくなります。

派閥とは言わないまでも、社風が局所的に変わることがあります。スタートアップでも、外資コンサルのような雰囲気になったり、大手SIerのような体質になったりすることがあります。

非エンジニア職ですが徒党を組んで社長に直談判し、毛色の違う上長を解雇に追い込んだ事例もあり、油断なりません。

インセンティブをどうするか

リファラル採用に関してよくある相談は、成功時のインセンティブをどうするかです。先日、以下の記事がありました。

鈴木氏が説くのは、「リファラル採用3.0」という概念だ。昭和の時代のコネや縁故採用の「1.0」に始まり、社員にインセンティブ(奨励金)を支払うことで紹介を促す「2.0」までは旧来型だ。

令和の時代に目指すべき「3.0」では、社員が自発的に紹介したくなる仕組みが確立され、リファラル採用の本来の利点を発揮できる。その利点とは、人柄や能力が企業にマッチするという人材の質の高さと、採用コストの抑制だ。

リファラル採用2.0では、「入社後3~6ヶ月経過した場合には20万~60万円を支払う」というのが基本形でしたが、エンジニアバブルの影響で100万円以上を支払う企業も登場しました。今もこの流れは続いています。

リファラル3.0に相当する「金額を払わない」企業はITエンジニア界隈では少なく、最近では「評価に反映する」仕組みを取り入れる企業も見られます。マネージャー以上にはリファラル目標を設定し、全体の15%を占めることを目指している企業もあります。また別の企業では「何となく評価に反映している」というものもあります。

私見ですが、インセンティブなしのリファラル3.0が成立するかどうかは性善説に依存しすぎているのではないかと考えています。企業は株主のものと考えられ、従業員は労働の対価として賃金を得ているだけです。従業員が無償で友人知人を紹介する義務があるかというと、疑問です。

ブランディングが不十分な企業では成功しにくい

これは現在、特に気にしているポイントです。

即戦力をリファラルで採用するには、結局自社が魅力的でないと成功しないということです。企業に十分な魅力がない場合、リファラルであっても年収提示などで他社に負けることがあります。特にスタートアップ界隈の成功企業は調達金額や、広報が牽引しているケースが少なくなく、スカウト媒体などと同様に認知にコストをかけないと成功しないのではないかと考え始めています。

採用経路と前職のバランスが長続きのポイント

3年ほど前に以下のnoteを書きましたが、採用経路や前職に偏りがあると組織は脆弱になります。食べ物と同じで、偏食は身体を壊しやすいのと同じです。

現在、リファラル採用が活況であるため、それを前提に採用予算を縮小しようとする企業も見られます。しかし、採用コストだけを重視した判断は、無用な事業リスクを招く可能性があります。注意しましょう。

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久松剛/IT百物語の蒐集家
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