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「オンライン対話型鑑賞」がひらく美術館の可能性について

「コロナ禍をふまえ、今後美術館はどのようになっていくのか?ぼくたち観客にできることは何か?」

一人のアートファンであるぼくは、この問いについて日々情報に触れながら考えています。

そんな折、日経新聞の記事でこのようなものがありました。

国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)などは18日、新型コロナウイルスの大流行で、世界の博物館や美術館の約90%が休館したとの調査結果を発表した。13%近くが再開できない可能性があり、官民の支援を呼び掛けた。

美術館や博物館は、再開したとしてもしばらくは(あるいはずっと)、これまでのような大規模集客を見込んだ展覧会は難しいという声も聞きます。

これまでの美術館

美術館の収益源は、①チケット収入、②作品の貸与費、③国・財団のサポート、④民間企業の協賛などであるとされています。しかし、②〜④の収益源は、ある程度の集客が見込まれることが条件となっている場合も多いでしょう。

近年では、SNS中心にバズを生み、それによって観客が動員される展覧会が目立っていました。

たとえば2019年6月20日から10月27日に森美術館で開催された「塩田千春 魂がふるえる展」では、66万人の来館者数を記録し、そのうち50%以上の来館動機がinstagramなどSNSがきっかけであったとされています。

「メガミュージアム」から「マイクロミュージアム」へ

しかし、これからは大量動員を是としない社会になっていくならば、美術館はどう振る舞うべきなのでしょうか?この問いについては様々な美術関係者が議論を進めています。

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たとえば、横浜美術館主任学芸員の木村絵理子さんはDommuneのプレゼンテーションの中で「メガミュージアムからマイクロミュージアムへ」という言葉を語られていました。(S/U/P/E/R DOMMUNE 特別協力 美術評論家連盟2020年度シンポジウム「文化/地殻/変動」訪れつつある世界とそのあとに来る芸術 より)

「マイクロミュージアム」とは、これまでの空間的・時間的にも単一的・集合的な経験の場であった美術館(メガミュージアム)に対し、より空間的にも時間的にも分散し、より個人的な経験の場としての美術館のことを指しています。

大規模な展示室が用意されているのではなく、アーティストが新しい作品を作るために過去の作品を参照したり、あるいは研究者が美術の歴史を考察し記述するために参照したりするために、個人的に訪れるような場がイメージされます。国立図書館に収蔵されている1点ものの文献を見にいくようなイメージに近いといえるでしょう。

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このイベントの司会である四方幸子さんが「道端にぽこっとあるような”祠”を、これからの美術館のモデルに見立てることができるのでは?」とおっしゃっていました。非常に興味深いアナロジーです。

「観客」にできることは何か?

さて美術館が、アーティストや研究者が個人で参照しにいく場所になるのであれば、ぼくたちのような一般の観客はどのようにして鑑賞体験にアクセスできるでしょうか。

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これは美術館やアーティストがどのような経験を作り出すかにもよりますが、ぼくたち観客側からもアクションすることも可能です。そのアクションの一つに、「オンライン・アーカイブの活用」があります。

たとえば、Google Arts & Cultureでは、世界各国の美術館のコレクションにアクセスできるようになっています。日本からも、国立西洋美術館、川村記念美術館、名古屋市美術館など、様々な美術館が参加しています。

このサイトで、画家の名前を検索してみてください。

「ゴッホ」でも「ピカソ」でも良いです。すると、ゴッホやピカソの作品が高解像度の画像とともに一覧できます。

それだけでなく「ポスト印象派」「キュビスム」「歌川広重」など、関連するキーワードも現れ、作家に対してどのような位置付けがなされているのかも知ることができます。

「オンライン対話型鑑賞」の可能性

美術館が観客を動員できないなら、オンラインでのアクセスを増やすことができるのではないでしょうか?ぼくたち観客は、さまざまな美術館に収蔵されている作品に、インターネットでアクセスすることができます。

この数カ月の間にさまざまなオンラインイベントの企画がなされました。アクセシビリティなどさまざなハードルはありますが、オンラインイベントの企画ノウハウはこれからますます磨かれ、普遍化していくでしょう。

こうした条件下で、ぼくは観客のコミュニティがオンラインで「対話型鑑賞」を行うようになると良いのではないかと妄想しています。

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「対話型鑑賞」では、一人で作品を見るのではなく、複数人で対話しながら鑑賞します。多くの場合はファシリテーター役が問いかけによってリードします。ここでは、美術史などの情報を知ることだけではなく、個々人が作品から受け取った印象を語ることや、観客同士で他人の感想を受けとりながら作品の解釈を深めていくことが重視されています。

このような鑑賞体験の場を、オンラインで、美術館が手がけてもよいし、ぼくのような一人のアートファンがコミュニティを作ってやってもよいと思います。ぼく自身も3月から、対話型鑑賞をオンライン上で複数回実践してきています。

こうした活動は、さまざまな美術作品がオンライン上にアーカイヴされ、公開されているからできるのです。

美術館とオンラインの課題

美術館に物理的にアクセスしにくくなったとしても、オンライン上にアーカイヴされた作品にアクセスできれば、それを用いて対話したり、学んだりすることができる。

もちろん、アクセス数が多ければ美術館の窮地を救えるわけではないでしょう。アートのオンライン・アーカイヴには多くの課題があるはずです。

それこそピカソやゴッホのような著名な作家の作品には焦点が当たるでしょうが、一般的に知名度は高くないが美術史上重要な作品を作っているアーティストも多くいます。彼らの作品が参照される機会もなくてはなりません。

また、絵画作品のようにアーカイヴしやすい作品もあれば、「インスタレーション」のように空間の配置によって作品経験を生み出している場合や、「ワークインプログレス」という制作のプロセス自体を作品化している場合などにおいては、そもそもアーカイヴが難しい場合があります

この文章の冒頭に引用した記事では、13%の美術館・博物館が再開のめどが立たないと書かれていました。現状ではオンライン上にアーカイヴを公開できている美術館も多くないでしょう。観客がインターネットに気軽にアクセスできる人でなければアートにアクセスできない、という条件もまた大きな課題です。

しかし、新型コロナウィルスが作り出した新しい社会転換期において、美術館という場のかたちもその意味も変わっていこうとするなかで、ぼくたち観客ができるアクションを少しずつ喚起する他ないとぼくは考えています。

その一つとして、オンライン対話型鑑賞が美術館の新しい形を一つ提示できるのではないかと思っています。

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ワークショップファシリテーター/株式会社ミミクリデザイン・アートエデュケーター 定期マガジン「アートの探索」では、アートを触媒とする学びの場づくりに関するコラムの執筆と、対話型鑑賞イベントを開催しています。 著書『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)

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コメント (1)
狩野琳派の作品って茶室に飾るものが多いと思いますが、茶室に飾った時と同じ光と位置から見るとまるで外にその世界があるかのように見えて驚いたことが。一種のVR体験ですね。蝋燭の光で金色を見ると色温度の関係で白に光って見え、銀色は青に光って見えます。その辺りも計算した工芸品もあることにも気がつきました。デジタルアーカイブも良いのですがお部屋という措置と一体となっている作品も多いはずなのでそのあたりまで含めた提示があると面白そうです。
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