採用力の高い会社に共通する特徴とは。求職者にとっての“選択肢”をいかに増やすかがカギ。
皆さん、こんにちは。今回は「採用力」について書かせていただきます。
政府が定めている現行の就活ルールは「3月に広報解禁」「6月に面接解禁」となっていますが、事実上このルールは形骸化し、面接解禁の段階では既に約半数が就活を終えているというニュースもあります。記事には、
とあり、人員計画通りに採用ができていない企業は実に6割以上もあります。
優秀な人材を企業が採用できる能力を「採用力」とするならば、少子化を背景に若手人材の確保に難航する今、企業はどのように採用力を高めていくべきなのでしょうか。
求職者が企業に求めていることも変化している中で、改めて注力すべきポイントについて考えていきます。
■採用力を高めるための3つのポイントと、3つの落とし穴
採用力が企業の成長に直結することは間違いありませんが、成長意欲が高くやる気のある人材が採用できている企業の方が事業に与えるポジティブな影響も大きく、厳しい競争に勝っていける可能性が必然的に高まります。人手不足が深刻化する中、以前は同業他社が採用活動においても競争相手となることが多かったのですが、今は業界を跨いで優秀な人材を獲得しようとあらゆる企業が躍起になっており、全業界が人材確保において競合している時代と言えます。そのような環境下で、各企業が採用力を高めていくために、まずは最低限必要なポイントを挙げてみます。
①企業力(企業自体の競争力)の強化
企業そのものが持つ魅力や知名度、イメージ、ブランド力を高めることは、もちろん採用力に直結します。会社名やサービス名、事業内容そのものの認知が高くイメージも良いと、母集団を形成しやすくなり、優秀な人材と接触できる確率が高まります。ただし、それらは時間をかけて醸成していくものでもあり、短期間でブランディングができるわけではありません。自社の強みや競争優位性を時間をかけて磨いていくと同時に、競合他社にはない魅力やまだ知られていない魅力を求職者に知ってもらうような取り組みを継続的に行っていく必要があります。
②待遇などの労働条件の見直し
初任給の引き上げや年功序列制度の廃止、転勤制度の廃止などが報道されることも増えてきた今、給与などの待遇面だけでなく、雇用形態、働き方、労働時間、福利厚生、評価制度など、総合的な労働条件をシビアに見ている求職者も確実に増えています。労働条件に加えて、多様な人材が活躍できるか、従業員の満足度は高いかなど、企業が公表しているレポートや広報記事、動画、就職・転職サービスが提供している口コミサイトなどをよく見ているのは、決して一部の情報感度が高い人だけではありません。
③採用戦略や選考内容、選考プロセスなど総合的な採用競争力の強化
採用活動を行うにあたって、採用すべき人材の要件定義をしっかり行えているか、採用すべき人材に適切にアプローチできているか、採用選考のプロセスに過不足がないか、最終的なクロージング段階で適切なコミュニケーションがとれているかなど、総合的に競合他社との人材獲得競争に負けない戦略を設計し、戦略通りに実行する力を底上げしていく必要があります。そのためには人事部門の体制を強化するだけでなく、他部門のキーマンや経営層も巻き込み、採用に対する熱量やコミットメントを引き出すことも重要です。この点については後ほど触れます。
次に、採用が最終的に失敗に終わってしまう場合によく見られるケースは以下の通りです。
①人に対する“見立て”ができていないケース
意外と盲点になりがちなのは、個人の主観(バイアス)によって、採用の“見極め”や“見立て”ができていないケースです。たとえば選考の中で、「●●大学出身だから、頭がいいはずだ」「スポーツを何年もやってきたから、根性があるはずだ」というような思い込みによって、自社の事業内容やカルチャーとマッチするかどうかを考えずに、安易に採用してしまうことは残念ながら少なくありません。
②無責任に採用の合否を決めてしまうケース
「自分が一緒に働きたいか」「責任を持てるか」という観点を入れていないケースも存在します。「自分の部下になるわけではないから、まぁ一人くらいはこんな人がいてもいいか」というような、無責任な採用活動によって、苦労するのは受け入れをしてもらう部署側の社員です。後から「誰がこの人を採用したんだ」とならないように、仮になったとしても責任を持てるくらいの気持ちで採用活動に向き合っていくことが大事です。
③入社後のことを考えず、自社の良い面ばかりを伝えてしまうケース
選考段階で採用数を増やしたいあまりに、求職者に自社の良い面ばかりを伝えてしまうケースです。入社後に入社前との大きなギャップを感じるとそのまま離職につながってしまいます。選考段階で会社の良い面も悪い面も、候補者にとって合う部分も合わない部分も、適切に伝えておくことが重要です。何より、お互いに良く見せようとウソをつかないこと、常に低姿勢で誠実に対話することは、信頼関係を構築していく上でも外せない要素です。(企業の面接官が高圧的だったり、候補者に対して不誠実な企業は、当然選ばれなくなります。)
その他にも、
採用活動の初期段階から十分な人数を集められない
自社が定義している採用要件を満たす人材が集められない
自社が定義している求人要件が不明瞭
面接の回数や内容が不十分
面接をする側の基準が不明瞭(または属人的)
給与や福利厚生など、競合他社が提示している条件と比較して明らかに見劣りする
現在の人材市場の動向やトレンドを抑えられていない
採用プロセスの中で不適切な(求職者の信頼を失うような)言動がある
など、採用に失敗してしまうケースは多々ありますが、以下の通り、「採用力が高い企業は何をしているか」を考えることで、自社に足りていない点を補っていけると良いかもしれません。
■採用力が高い企業の特徴
「採用力が高い」と言われる企業には共通点がありますが、いくつか特徴を挙げてみます。
★どのような人材を採用したいかが明確になっている
→採用したい人材の要件を固める際に、一般的に市場の中で「優秀とされる人」の特徴ばかりにフォーカスして、自社にとって必要な人材の要件を十分検討できていないことがあります。各企業がターゲットとする人材の要件定義を正しく定めることはもちろん、逆にどのような人材は採用しないかの基準が明確になっている企業は採用力が高いです。「迷ったけど採用した」「すぐに辞めそうな人材だと思ったが採用した」という場合、入社後にその印象を覆すような圧倒的な成長環境がない限り、その採用が成功する確率は限りなく低いはずです。自社に合わない人材を採用してしまうことで組織の士気を下げてしまうだけでなく、業務に集中したくても余計な稼働が取られてしまいます。
★企業の競争力を理解した上で、魅力が伝わる発信をしている
→知名度や人気度、社会的な評価の高さは自然と優秀な人材を引き寄せますが、そうでなくても(その段階にいくまで時間がかかってしまっても)広報をうまく活用することで、自社の魅力を的確に伝えることができます。単に露出量を増やせばいいわけではなく、アプローチしたい層に狙ったメッセージを発信することが重要です。
★企業に合った採用手法を確立している
→時代とともにトレンドは変化し続けますが、自社に合った採用手法を発見し、どの方法でどの程度の採用ができるかなど知見を溜めていくことが求められます。企業の採用手法は年々増えていき、求職者が活用しているサービスやツールも年々変化しています。採用コストも十分把握した上で、取捨選択し、最適な手法を導き出さなければなりません。
★自社の志望度が高い人だけでなく、志望度が低い人へも適切なアプローチができている
→もともとは志望度が低い人も、採用プロセスを通して志望度を引き上げる工夫をすることが大事です。「志望度が低い」「志望理由が明確でない」という理由だけで合否を決めてしまう企業もあるかもしれませんが、重要なのは面接段階での志望度ではありません。求職者の中には将来その会社でやりたいことを明確に決めてから選考を受けているのではなく、選考を受けながら自分の進むべき道を決めようとしている人も大勢いるのです。
★求職者との接点作りにおいて、ターゲットとなる人材の取りこぼしが少ない
→母集団形成を開始するタイミングで、採用したい人材を定義した上で、的を絞って効果的に網を張る必要があります。後から採用計画の人数に達せずに焦って追加採用しようとしても、採用したい人材は他の企業から内定が出ている可能性が高く、初期段階でいかに取りこぼしを少なくするかが、その年の採用の行方に直結します。
★採用の場に出てくる社員だけでなく、実際の職場で多くの社員がイキイキと働いている
→面接や面談の場に出てくる社員は、実績があり役職がついていたり、魅力的に自社を語れる社員であることが多いです。求職者もそれをよく分かっているため、実際の職場ではどのような人たちがどのように働いているかを非常に気にしています。だからこそ職場を実際に自分の目で見る機会を利用したり、口コミサイトなどを見てリアリティのある情報収集をしようとしているのです。いつ誰に見られても働きたいと思えるような職場環境である企業の方が最終的に選ばれる確率が高いことは当然であり、かつ、口コミサイトには退職者が書き込んでいるケースが多いため、退職者にとっても「いい会社だった」と思ってもらえるような企業であり続けることが重要です。
★採用に関わる社員全員に、採用戦略や方針が明確に伝わっていて目線合わせができている
→採用活動における大きな方針や採用基準などが、採用に関わる社員全員に伝わっていなかったり、個人の判断に依存し過ぎているケースは、見極めレベルが低下し、全体で意思統一ができていない分、バラバラの判断軸で合否をつけてしまうことになります。採用戦略の在り方は、人事部門だけでなく、採用活動に関わる現場の社員にもしっかりと伝え、目線合わせをする必要があります。
★過去の採用結果(実際に採用した人の活躍状況)を踏まえて、課題点や改善点に対するアクションが取れている
→過去の採用結果をいかに的確に分析できているか、そしてそれを次年度の採用活動にいかに反映させていけるかは、採用力に直結します。入社した後の個別の活躍状況を見て、成功事例と失敗事例を振り返り、何が良くて何がダメだったかを明確に言語化して、チームでコンセンサスを取らなければなりません。
★採用者や採用を行った部門が、採用した人材をしっかり育成しきるところまで責任を負っている
→「採用して終わり」ではなく、採用した責任をしっかりと負う体制になっている企業は、「採用力」や「育成力」、「人材創出力」が高いことが多いです。多くの企業では採用部門と育成部門が分かれていることが一般的で、情報連携はしていても、採用部門は「採用数」だけをKPIとして設定していることもあり、その後の育成方針や育成計画にまで責任を負っていません。採用してから「いかに定着を促していくか」も重要なテーマの一つであり、採用段階で求職者と密にコミュニケーションをとっていた人や部署が、定着施策や育成施策にまでコミットメントできる方が、より一貫性のある体制を構築できます。それが難しい場合は逆に、採用段階で育成を担当する人や部署を適切に巻き込むことが重要です。
■経営陣や人事責任者が今こそ取り組むべきこと
採用に関わる人であれば毎年、前年の採用活動を振り返って、選考プロセスを見直したり、採用手法をブラッシュアップしたりと、常に改善を繰り返しています。私自身も採用活動を何年も経験していますが、毎年前年の採用結果や入社後の活躍状況、一緒に仕事をしている現場社員の声を踏まえて、採用活動の方針や戦略を大幅に見直すことは日常茶飯事です。採用戦略や採用計画、採用における課題感はそれぞれの企業で違いはあれど、まずはどの企業も確実に抑えた方が良いポイントを整理しようと思います。
①採用状況の見える化
実は多くの企業が陥りがちですが、採用の実態そのものがブラックボックス化してしまうことはよく起こります。採用活動の状況を人事部だけが理解していて経営陣にまでその状況が伝わっていなかったり、気づかぬうちに会社が欲している人材像と採用でターゲティングしている人材像との乖離が発生してしまうこともあります。
採用におけるファクトを全て可視化し、誰もが正しく状況を把握し、意思決定ができる状態にしておくことは、当たり前ではありますが、極めて重要なことです。
②求職者の就業観や企業に対して求めていることの把握
求職者が企業選定の際に重要視している軸は、時代とともに変化し続けています。特に最近の傾向として大きなものは、
将来的に不安のない(リスクの少ない)、安定した環境かどうか
時代の変化に対応している会社かどうか
多様なビジネスを展開しているかどうか
多様なキャリアを実現できるかどうか
若いうちからキャリアアップやスキルアップのチャンスがあるかどうか
社員のキャリアパスを支援する体制が整っているかどうか
多様な人材が活躍できる環境かどうか
などではないかと思います。
不確実性の高い今の時代、一つの事業、一つのサービスのみに依存していると、有事の際にカバーしきれず、会社全体の業績に悪影響を及ぼします。市場の変化やデジタル技術の発展とともに、ビジネスモデルやサービスも同様に発展・高度化し続けていかなければならず、変化やリスクに適応し続けるためにも多様な事業を展開し、相互にシナジーを生んでいる状態であるか、リスクを分散できている状態であるかを注視する人が増えている印象です。
また、事業やビジネスの多様化とともに、習得できるスキルの幅やキャリアプランの選択肢が増えるため、「多様な事業」「多様なキャリア」「多様なスキル」「多様な人材」が存在する会社ほど、求職者から好まれる傾向にあるのではないかと思います。
こちらの記事のように、人的資本開示の潮流もあり企業の公表を義務化している項目が増えてきていますが、女性管理職比率だけでなく、男女の採用比率や賃金格差などの数値を見て、性別による評価や待遇格差がないか(=多様な人材が活躍できる環境かどうか)を企業選定の一つの軸としている求職者も予想以上に多いです。求職者が企業に対して求めていることに忠実に耳を傾け、適応する努力や工夫が必要です。
③経営層の採用へのコミットメント
冒頭で引用した記事には、現場社員の採用への貢献度を人事評価に反映している企業があると紹介されていました。売り手市場で採用競争が激化している中、採用活動のプロセスに現場社員を巻き込んだり、年間の採用計画を社内で共有し個々人の目標にも連動させたりと、組織全体で採用に取り組む姿勢が重要であることは明白です。以下の記事には、
「グローバル企業の上層部が人材確保にかけている時間は、日本企業の10倍以上で、時間も熱量も日本企業とは比べ物にならない」とありました。ただ単に人材確保のための時間を投下すれば良いわけではなく、「いつ誰に何の効果を期待して採用の重要な場面に出てきてもらうか」を考えることも、求職者に対して企業を魅力的に伝えるための作戦の一つです。役職者がただ面接や会食の場に出てくればいいわけでもないので、社内で十分議論しながら、経営層の採用へのコミットメントや熱量を引き出すと良いでしょう。
これまで述べてきた通り、人材獲得競争の激化や採用手法の多様化にともなって、企業の「採用力」の有無は今まで以上に重視されています。今後も採用競争率は高まり、単純に採用力の低い企業は、人材を獲得していくことができなくなってしまうでしょう。
採用力は、「有名で人気のある企業だけが高い」わけではありません。企業規模や知名度に関わらず、採用力そのものを高めていくことは可能です。その方法を理解し、自社の課題を把握した上で、適切な対策を講じていくことが必要なのです。また、現時点で知名度があるからといって、求職者にとってより魅力的な企業へと成長していく努力を怠ってしまっては、いずれ採用力がなくなっていく可能性もあります。
この記事のタイトルに、「求職者にとっての“選択肢”をいかに増やすか」と書きましたが、一般的に、企業の採用活動においては、求職者に「早く一社に絞るように」「早く内定を承諾するように」「早く配属希望部署を決めるように」などと選択肢を狭めてしまうことの方が多いはずです。そうではなく、求職者にとっての選択肢を増やすために、キャリアプランやキャリアパスを具体的にイメージすることを全面的に支援し、意思決定の過程に寄り添いながら、一度選択肢を広げた上で自分で決めるように促すことにこそ意味があるのではないでしょうか。自分で決めたことだからこそ覚悟が決まり、熱量やモチベーションが高まった状態を維持してもらうことができるのです。
企業は働き方、人、チーム、組織、キャリア、スキル、部署、仕事内容などにおいて、求職者や社員に対して複数の多様な選択肢を提示し続けることが大事になってきます。固定概念に囚われるのではなく、一人ひとりの特性や個性、強み、能力、経験などを生かすことに重きをおこうとすればするほど、必然と多様な選択肢を増やすことになり、企業の魅力も採用力も高めていけるはずです。