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アメリカのように「ジョブ型雇用」と「雇用の流動性」を高めようと聞くけど、アメリカの労働環境は意外に手堅い側面もあると感じた話〜ファイナンスの視点から〜

 部署やポジションごとに最適な人材を起用するアメリカで散見される「ジョブ型雇用」が注目されています。記事あるように、経団連も提唱しています。しかし、日本はアメリカのように雇用の流動性が低いことから、ジョブ型雇用が進みにくいとも指摘されています。こうした論調や変革は、日本経済をより良くする可能性もある一方で、少し心配になることもあります。とというのも、雇用の流動性が高いアメリカでは、労働者の生活を守るためにも意外なほど労働組合が活発と感じることが多いのです。フリーランスや、芸能界に関しても、アメリカでは労働組合やそれに近い組織が存在するものの、日本ではそうした取り組みが希薄?に見える側面もあります。今回は、アメリカの労働組合の行動や影響力について、ファイナンス視点を交えて考察します。

アメリカの労働組合事情

アメリカの労働組合の変革については、労働政策研究・研修機構では下記農用にまとめています。足元では、労働組合の組織率は低下しつつあります。

米労働統計局によると、2020年の米国の労組組織率(賃金・給与所得者に占める労組加入者の割合)は10.8%で、40年ほど前(1983年)の20.1%から半減している。とくに1983年に16.8%だった民間部門の組織率は6.3%まで低下した。米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)や主要労組は、組織率の低下に歯止めをかけるとともに、公共部門や製造業などを中心とする労働組合運動を新たな産業分野へと拡大する狙いから、同社での労組結成を重視して支援した。

アマゾン倉庫労働者の労組結成をめぐる動向

 しかし、米バイデン政権では、労働組合や労働者の権利を重視することから、下記の記事のように労働組合の新たな組成や運動が活発です。日本だけでなく、アメリカや世界の多くの国でギグワーカーや非正規雇用が増えているだけに、雇用の調整弁扱いになる人が増えていると感じるケースが増えていることも、こうした運動の背景にあるようです。ただし、アメリカにおいては、こうした動きは、最近起きた話ではなく、多くの学術研究ではアメリカの労働組合の行動力や影響力について検証が行われています。

株式市場にも影響力を持つ、アメリカの労働組合

 コーポレート・ファイナンスの研究をしていると、アメリカの先行研究に意外なキーワードが頻出します。それは、「labor union」という言葉です。株式市場と労働組合?と、最初は意外な印象を持ちました。しかし、アメリカの株主総会では、労働組合が株主提案を提案することは非常に多く、経営者と対立する立場から取締役の解任を求めることも多々あります。多くは、株主総会で否決されるものの、下記の研究では、取締役の交代確率に影響を及ぼす事が報告されています。まさに、労働組合が物言う株主になるケースが多いのです。ちなみに、日本の労働組合が株主提案をしたり、経営陣に物言う現象は、私が知る限りほとんど聞きません。この辺りからも、アメリカの労働組合が、かなり意見する物言う立場として機能していることを示唆しているのかもしれません。だからこそ、企業からも好かれないのでしょう、、、

働き方変革の先にあるもの

 自分のキャリアを自分で守ることは重要ではあるものの、それをサポートしてくれる組織が存在することは、雇用の流動性が高まる中で、重要なことかもしれません。日本で雇用の流動性を高めたいからこそ、アメリカ同様に行動する雇用者の権利を守る存在についても、改めて議論が必要なのかもしれません。もちろん、成長なくして分配もありえないわけで、過剰になんでも企業に対してモノを言う動きも、矛盾を孕んでいますが、、

と、雇用の流動性を高める論調には賛成ではあるものの、アメリカ社会の全貌も見て議論必要と思い考察してみました。

ここまで読んでくださり、有り難うございます!

崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪


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