新型コロナウイルス問題をめぐるポジティブな取り組み
新型ウィルス問題は、引き続き日本を含む全世界で深刻な悪影響を及ぼしていることは改めて申し上げるまでもない。
一方でこの問題に少しでも解決に向けた取り組みをしようという動きが、医療関係者に限らず各地で、あらゆる業種で、また個人のレベルでも起こり始めている。あまりこうしたものがまとまって報じられることはないように思うので、私が知る限りだが目に付いたものをここで取り上げてみようと思う。
1.企業の新しい取り組み
一つ目は企業の新しい取り組みである。自社の現有資産を生かしながらも、既存事業とは違った新しい取り組みによって、今回の新型コロナウイルス問題に役に立つものを生産しようという動きである。
特別な状況下の課題解決ということになるかもしれないけれど、各企業にとっては新しいジャンルにチャレンジする機会がこれによって生まれたことになる。こうした取り組みによってどの程度の収益が生まれたか、ということを株主が大目に見てくれるなら、企業にとっては平時よりも思い切ったチャレンジが可能になるのかもしれない。
バレンシアガとサンローランのマスク生産や、LVMHの消毒液生産は、それぞれ布を扱ったり、薬粧品類を扱うということでまだ理解できる範疇にあるが、シャープのマスク生産はすぐにはピンとこなかった。クリーンルームの活用という発想のジャンプが必要になるが、裏返せば、思いもかけない現有資産が役に立ち、新たな事業につながる可能性も秘めているのだと思う。同社のプラズマクラスターの技術とこのマスクの事業が結びついたら、まったく新発想のマスクがうまれたりしないのだろうか、と思ってしまった。
こうした中から将来、コロナウイルス問題が沈静化した後にも繋がるようなノウハウの蓄積や新しい事業の芽が生まれるのであれば、これは大きなプラスだと思うし、そういうものが生まれてくることを期待したい。
2.活用できない現有資産・在庫を活かす動き
一方、需要が大きく減退してしまい自社の資産や在庫が役に立たなくなってしまっているなかで、そういったものを活かす動きもある。
ベルリンのミシュラン星取シェフが医療関係者への食事を提供
'Cooking for heroes': Michelin chefs whip it up for Berlin's healthcare workers
いずれも、使われないままの設備や、処分してしまったり捨ててしまうことになるものなど、そのままでは何の利益も生まないままの資産や資源の活用だ。事業者にとっては、さほど大きな支出をせずに大きな価値を生むことができる取り組みである。混乱した状況の中で受験を強いられる学生や、日々大変な状況の中で対応に当たる医療関係者にとって、少しでもよい環境が提供されるなら、これは社会的に大きな価値のある取り組みだ。
ミシュランの星をとったシェフが振舞う料理で、どれほどの医療関係者がほっとした食事のひと時を得られるのだろうかと思うと気持ちが温かくなる。どれほど切羽詰まっていても、人間である以上、最低限、「食べて、寝て、出す」ことは必要なのだ。この3つに関わる仕事は、人間の根幹にかかわる仕事であり、それゆえに出来ることはいろいろあるはずなのだ。
3.草の根的な活動
最後に、企業と個人を問わず草の根的な活動を紹介したいと思う。
一つは世界各地で起きているモノの品不足・買占めに対して、できるだけ不公平のないように購買の機会を作る取り組みだ。
トイレットペーパーを始めスーパーに並んでいるものが軒並み売り切れてしまうといった事態が世界起きている。これは恐怖心や不安に駆られた人が必要以上の購買を行ったために起きているという一面もあるだろう。
朝の開店時に商品を並べて、売り切れれば翌日まで入荷なし、というお店が多いように感じるのだが、開店時に並ぶ時間の余裕がある人たちと、通勤や子供の送り出しなどで並ぶ時間を取れない人たちの間で、購買機会のアンバランスが起きている。これは実際に私自身が自宅のトイレットペーパーが底をついて、やむを得ず並んで購入した経験からも感じたことだ。
これに対応するために、首都圏のスーパーマーケットチェーンであるサミットは、各店の裁量によるそうだが、1日の入荷量のすべてを一度に陳列しまうのではなく、何度かに分けて商品を陳列をすることによって、様々な時間帯に来店するお客様が買うことができるように配慮している場合があるという(同社お客様サービス室へのヒアリングより)。こうした取り組みというのは非常に重要なことだと思う。他のスーパーやドラッグストアでも、こうした取り組みはあるのかもしれないが、まだそうでないなら、ぜひ検討していただきたいと思う。子供を抱えた共働き家庭で、両親とも在宅勤務とはいかない人々のことに思いを馳せたい。
またこれは Twitter で動画が流れていたものだが、トルコでは外出制限や貧困で食品を買う余裕がない人たちのために、食べ物を路上においてそれを必要な人が持っていけるという動きがあるということだ。
この動画が本当なのかどうかを確かめることはできないが、例えこれがフェイクであったとしても、これにヒントを得て、良いところを取り入れるという考え方はできるのではないかと思う。
以上、断片的であるが、私が現時点で知っている限りの事例を挙げてみた。まだまだこうした動きが今後も出てくると思うし、また私が知らないだけで、こうした取り組みが各地であるはずだと信じている。
長期戦を強いられることがほぼ確実と思われる新型コロナウイルス問題の解決だが、我々ひとりひとりが、何かできることはないか、ということを、頭の体操として、パズル的を解くような気持ちで、その思考プロセスを良い意味で楽しみながら考えていきたい。