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「寄付のその先」にも想像力を働かせ、心からファッションを楽しみたい

「世界中から多くの古着が流入するガーナの現状や自分の問題意識を話すと、そんなこと知らなかった、想像に及ばなかったという反応が多い。けれど少し調べてみればインターネット上には情報が溢れている。アフリカに来たことがなくても、ここに友人がいなくても、自分の行動の先に何が起こりうるのか、善意からの行動であっても「寄付のその先」に何が起こりうるのか、ぜひ調べて考えてみてほしい。同じ地球というコミュニティに住む仲間として問題意識を共有し声を一つにできた時、一緒に大きな山を動かせるかもしれない」ー古着をアートにアップサイクルし世界にメッセージを発し続けるガーナ人アーティストSel Kofigaの言葉です。2021年春に出会って以降その考え方や哲学から多くを学ばせてもらいながら、昨年から今春にかけては冒頭写真のインターンの学生たち(当時)とともに、ファッションが人や環境に及ぼす負荷の問題について掘り下げ、自分たちにできることについて模索し行動し、発信に取り組んできました。
古着の寄付をしたことがある方、ファッションが好きな方、環境問題に関心のある方…そんな皆さんにぜひ読んでいただきたい、古着のたどり着く先に生活するアフリカの人々の想いとそれを受けた日本の学生たちの取り組みの話です。

大量生産・大量消費の先に起こる大量廃棄、そして現地産業の衰退と成長阻害

8月27日付の日経新聞社説によると、「日本で市場に出た衣類の65%が再利用されず焼却・埋め立て処分される。世界全体では使用済み衣類の73%が同様の道をたどる。」その上、生産過程も含めた温室効果ガスの排出量や水の使用量が大きいこと、不法投棄される古着が燃やされ或いは火災により有毒ガスを生じさせる問題も指摘されています。

ガーナのインフォーマルマーケットの中にはKantamanto(カンタマント)と呼ばれる古着専門の市場があり、そこには毎日大量に袋詰めされた古着が流入します。状態の良いものは輸入業社にもバイヤーにも消費者にも歓迎されますが、汗染みだらけのものや穴が開いたもの、カビが覆い尽くすような衣類の多くは、そのまま廃棄されることも多々あります。ガーナ国内外には古着が際限無く積み上がる埋立地が多数存在します。
この現状を10年以上にわたり取材してきたthe OR Foundationによると、「先進国の人々がゴミ箱から拾ったような衣類を押し付けられている気がして、憤りを感じる」と漏らす現地の人々の声も聞かれるといいます。
市場を歩いてみると、状態がいいと判断され売りに出される古着でもGHS1(現地通貨ガーナセディ、8/28為替レートで14円弱)という破格で販売されていたりします。記事では、「近年は安価なファストファッションが普及し、消費者の側も服を捨てることへの抵抗感が薄れ服の短命化が進んだ。」ことが指摘されていますが、需要を遥かに超える量の古着が行き着いたガーナでも同様のことが起こっているように思います。

ナイジェリア出身のアフリカファッションのエキスパート Arieta Mujay Bärgは、気軽に安価に手に入る古着が流通する一方で、価格的に太刀打ちできない地元の繊維産業や縫製産業が打撃を受け、アフリカ発のファッションブランドが育ちにくいという状況を問題視しています。

罪悪感だけでは問題は解決しない、クールに楽しく解決に取り組みたい

先述のガーナ人アーティストSel Kofigaは、そんな古着の不都合な真実をアートを通じて世の中に発信することが人々の行動変容の緒となれば…と作品に込めた想いを語ります。プロジェクト「the Slum Studio(ザ・スラムスタジオ)」は、その色鮮やかな見た目と描きこまれたクールな文字列やイラストが人々の目に留まり世界中の注目を集め、議論のきっかけを生んでいます。

the Slum Studioからインスピレーションを受け、日本で彼の作品を中心とする展示販売会を手掛けた学生は、「本当に欲しい服しか買わないようにするなど、一人一人にできることがある。環境問題は大きくて深刻なテーマだけど、楽しくポジティブに取り組むことが大事だと思う」「古着をなるべく生み出さない、ゴミを生まないように購入の時点から気をつけるのが大切」と自分たちの日常に落とし込んで問題に向き合い始めました。古着をパッチワークし手作りした風呂敷は想像以上に可愛くて使い勝手も良く、学生たちの日常生活の中で活躍しています。

昨年11月、大阪ハービスPLAZA ENTに催事出店したエシカルコンビニの一角で展示を実施
古着をパッチワークした手作りの風呂敷

展示販売会にお越しくださった方の中には、「『こんな状態の服でも役に立つんだ!』と勘違いして破れたり色あせたりした服を回収ボックスに入れていた。全部が無駄だったとは思わないけど、まず知ることから始めようと思った」とコメントをくださったり、「ものすごく可愛いから、着て出かけるのが楽しみです」と、the Slum Studioのカラフルなシャツをご購入くださった方もいらっしゃいました。

すべての寄付が正しいわけではないかもしれない

悪意をもって寄付をする人はいないと思います。金銭や物の寄付の背景にはいつも善意があると思います。ですがアフリカの友人たちの想いや学生たちの取り組みを目の当たりにする中で、さらに一歩踏み込んで、その寄付が何に使われるのかどこに行き着きつくのか考え行動したいと思うようになりました。
戦争・紛争が起こった時に、その一方の当事者に使途を限定しない形で寄付すれば、想定した人道支援ではなく武器の購入を支援し軍事対立に油を注ぐことになってしまうかもしれない…自分は本当にそれでいいと思えるのか、と立ち止まって考え、寄付する先を考え選択するようになりました。
災害が起こった直後日用品や衣類の寄付を考える時に、その寄付が本当に現場で今必要とされているものなのか、自分がもらう立場だったとして快く受け取れる状態のものか、送る前に調べて想像するようになりました。

善意からの行動でも、ひょっとしたら誰かを傷つけてしまうかもしれない、誰かを嫌な気持ちにさせるかもしれない、地球に負荷をかける結果になってしまうかもしれない…想像力を働かせ納得した上で寄付することをこれからは心がけていきたいと思っています。

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