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「マーケティング部」は必要ですか?

松本健太郎
ユーザーにとって本当に価値のあるものを提供するには開発や営業、マーケティングなど社内が一体となって同じ価値観を実践しないといけない。そこから価値観の浸透や人材育成に多くの時間を使うようになりました。


「マーケター」は少数である

ご縁をいただいて、取材を受けさせて頂く機会がたまにあります。完成した記事を読むと、私の肩書は「データサイエンティスト」と記載されているケースが多いです。

そう…なんですが、最近は忙しさにかまけてコード書いていないので、なんだか気が引けるなぁ、と感じます。

「最近の活動状況を考えると"マーケター"の方が良いかもしれません」とお答えすると「かしこまりました」の後に、決まって「ちなみにマーケターとして、どのような業務をされていますか?」と聞かれます。

いきなり面接のようなことを聞くなぁ、と最初は戸惑っていたのですが、どうやら「マーケティングって胡散臭い」と思われているのだと知りました。口八丁手八丁で相手を騙して、無理やり商品を買わせるような印象があるようです。なので「マーケター」は使いたくない、という。

「そんなわけあるかい!」と思ったのですが、周囲に「マーケター」と肩書きが付く人がいないと、想像も出来ないかもしれません。

実際、10月3日〜4日にセルフ型アンケートツール「Freeasy」で行った自主調査で「あなたの所属する部署名を教えてください」と3829名に聞いたところ、マーケティング部は12.2%でした。プロモーション部が5.7%、広告宣伝部が5.2%です。(以下図参照)

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調査モニターのバイアスがあると思いますが、75%以上が「非マーケター」であるなら、仕事内容が広く知られなくても当然です。

ちなみに、調査で1番多かったのが営業系546人、ついで製造系437人、事務系148人、総務系135人、物流系92人、ITエンジニア89人…と続きます。やはり、少しだけバイアスを感じますね。(調査は全国を対象に22歳〜49歳の会社員(正社員、契約・派遣社員)に対して行いました)

という背景もあって、「マーケターとして、どのような業務をされていますか?」と問われたら、私は「顧客について深く考える仕事をしています」と答えるようにしています。プロモーションが業務の中心ではあるけれど、商品開発も含まれる以上は、包括的な表現が妥当だと思うのです。

ところが、先日に久しぶりの対面取材があった際、いつものように「マーケターとは顧客について深く考える仕事です」と答えると、取材相手のインタビュアーの方は「?」といった顔をして、こう答えました。

「それは、私もそうですけど…?」

え…?


「マーケティング」とは何か?

マーケターの業務とは何か、もっと言えばマーケティングとは何かについて理解するにあたり、もっとも示唆に富むのがドラッカーの言葉です。ドラッカー著「現代の経営」から引用します。

企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。

同じことがドラッカー著「マネジメント」にも記載されており、「マーケティングとは顧客の創造(create a customer)である」という表現は、1つの模範的な回答であると考えます。

そもそも、商品・サービスが売買される市場(Market)を作るのは、神でも自然でもなく「企業」です。「喉が乾いた」という人間の欲求を「需要」に変えるのは、企業が「飲料」という商品を「供給」するからです。

「企業」について、ドラッカーは「企業の目的は経済活動」「企業にとって重要なことは、経済効率に優れた生産という共通の目標に向けた人間活動のための組織として存続すること」と表現しました。

つまり、いわゆる供給サイドにいる企業は、人間組織であり、かつ存続し続けるために活動が必要ということです。

一方で、需要サイドには最初は誰もいません。欲求を持つ人間が「これが欲しい」とコストを払い需要を満たした瞬間(購入した瞬間)に、顧客が生まれるのです。その瞬間こそ「市場」です。

だから「マーケティングは顧客の創造(create a customer)」なのです。

つまり「ニーズ」があるだけではダメで、そのニーズが満たされる「供給」であると人間が認識した上で、企業にコストが支払われない限りは「市場」は生まれませんし、支払いが発生しない限りは「顧客」とは言えません。

私自身もよく間違えるのですが、顧客は商品やサービスを購入しますが、あくまで「ニーズが満たされると顧客が認識した」からであり、実際には価値を買っていると考えます。ドラッカー著「マネジメント」より引用します。

顧客が買っていると思うもの、価値ありとするものが決定的に重要である。それらのものが、企業が何であり、何を生産し、反映するか否かを左右する。
しかも、顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である。加えて、顧客にとって価値あるものが何かは自明ではない。(P.74)

例えば、世界最古のキャンドルメーカー「Rathbornes Candles」(1488年創業)は、教会のキャンドルを手掛けつつも、アロマキャンドルやリードディフューザーなど「香りと癒し」も提供しています。我が家も、最近愛好するようになりました。

もし「私たちは旧来通り家庭・街灯・教会のためにキャンドルを作る」と考えていたら、今の売上を確保できていたでしょうか。少なくともリードディフューザーは提供していなかったでしょう。

他にも、養生用マスキングテープメーカー「カモ井加工紙株式会社」は、デコレーション用マスキングテープ文具「mt(エムティー)」も提供しています。もともとは工業塗装用だったマスキングテープを「可愛い」と工場見学を申し込んだ女子たちがキッカケで、従来の市場規模を二倍以上に大きくしたと言われています。

もし「私たちが作っているのは工業塗装用のテープだ」と考えていたら、市場自体が作られていなかった可能性すらあるのです。

私たちメーカーから見て「供給しているもの」と、顧客から見て「需要が満たされたもの」が一致するとは限らないのです。ましてや、顧客から見て企業は「価値」を供給してくれる1社に過ぎません。

顧客の期待に応え続けることで、コストが払われ、需要が満たされ、企業として生き残り続けられる。見方を変えると、顧客がいない限りは企業は存続すら難しいのです。ドラッカーは「企業が何であるかを決めるのが顧客である」と表現しました。

例えば、みんな大好きAmazonは「本, 日用品, ファッション, 食品, ベビー用品, カー用品ほか一億種の商品をいつでもお安く」買える世界最大級のECプラットフォームであるとサイトに記載されています。

一方で私は、ほぼ本しか買いません(しかもKindle)。水とか洗剤とか大半は楽天で買っています。私のパーセプションが変わらない限り、Amazonは私には「ネット本屋さん」のままです。(上から目線ですいません)

顧客から始まる。顧客から始める。それが、マーケティングなのだと考えます。ドラッカー著「マネジメント」から引用します。

真のマーケティングは、シアーズが顧客の人口構造、顧客の現実、顧客のニーズ、顧客の価値からスタートしたように、顧客からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やセービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足はこれである」という。(P.78)


「マーケティング部」の仕事はマーケティング?

マーケティングが「顧客の創造」であり「顧客から始める」ことだったとして、マーケティング部の仕事はいったい何でしょうか。マーケティング部だけが「顧客」について考えれば良いかと言えば、決してそうでは無いはずです。ドラッカー著「マネジメント」より引用します。

マーケティングは、あまりに基本的な機能であって、製造や人事のような他の職能と同列の一つの職能として扱うことはできない。もちろんマーケティングにも特有の仕事や活動はある。しかしマーケティングは、それ以前に、企業全体の中心的次元の機能というべきである。
マーケティングとは、企業の成果すなわち顧客の観点から見た企業そのものである。したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業のあらゆる分野に浸透させなければならない。

マーケティング部という特定の部署だけが「マーケティング」をすれば良いわけではない、ということです。マーケティングにおいては「それはあなたの部署の仕事でしょ」と言ってはならない。あらゆる部署が「顧客の観点から見た企業そのもの」ですから。

先ほど引用した、10月3日〜4日にセルフ型アンケートツール「Freeasy」で行った自主調査で「あなたの所属する会社に「マーケティング」という名前の付いた部署(部/課/係/チーム)はありますか?」とも聞いています。3829名中、15.4%(591名)のみが「はい」と答えました。逆に、84.6%の組織で「マーケティング」という名前の付いた部署(部/課/係/チーム)は無いのです。

私たちマーケターからすれば「少なっ!」と思いますが、非マーケターからすれば「そんなもんでしょ」と思われる数字かもしれません。

無くてはならない部署だけど、「マーケティング部」が無くても、顧客の創造(create a customer)ができている。素晴らしいことです。

先ほど引用した76.9%(2944名)いる非マーケターに対して、次のように質問しました。(マーケティングの定義は日米それぞれを掲載)

「マーケティング」の定義は、以下のように言われています。

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・マーケティングとは、個人や組織が製品の創造を行い、市場での交換を通じて、自らのニーズや欲求を満たすために行う様々なプロセスである。
・マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
・マーケティングとは、顧客満足を軸に『売れる仕組み』を考える活動である。
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この定義に照らして、あなたの仕事は「マーケティングに関係している」と言えるでしょうか?

もっとも型式貼った内容でさえ、12.0%(352名)が「少し関係している or 関係している」と回答しています。より説明を加えれば、この割合はもっと高まると感じています。


「マーケティング部」の役割は何か?

とすると、「マーケテイング部」の役割は何なのでしょうか。あらゆる部署がマーケティングに何らか関わっているのであれば、「マーケティング部」自体が不要ではないでしょうか?

そんなことはありません。私は「マーケティング部は顧客に対して責任を持った人たち」だと解釈しています。マーケティング部は顧客の深い理解者であり、顧客の代弁者であり、同時に顧客から見た企業の責任者であると考えます。ドラッカー著「現代の経営」から引用します。

マーケティングについてのこのような考えを示すものとして、GEが一〇年前からとってきた経営方針がある。それは、顧客に対する訴求力を設計の段階から製品に組み込むことである。GEでは、技術者が設計図を引く前の段階からマーケティングが始まる。販売は、そのようなトータルなマーケティングにおける最後の段階にすぎない。同社の一九五二年の年次報告書は次のようにいっている。
「わが社では、生産プロセスの最終段階ではなく、その最初の段階からマーケティング担当者を参画させるとともに、事業のあらゆる段階にマーケティングを組み入れている。マーケティングは、その調査と分析に基づいて、技術屋設計や生産の各部門に対し、顧客が何を求め、いつどこで求め、いかなる価格ならば進んで支払ってくれるかを示す。マーケティングが、販売、流通、アフターサービスに加え、製品開発、生産日程、在庫管理においても主導的な役割を果たしている」

顧客に責任を持つからこそ、部署・部門の垣根を越えて、顧客と面する販促(Promotion)や流通(Place)、製造(Price)、企画(Product)を包括した「4P」というマーケティング・フレームワークが生まれたのだと理解します。

組織によってはブランドマネージャーが製造や販売にまで責任を持つ体制を敷くでしょうし、事業責任者がマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスに責任を持つ体制を敷くでしょう。

いずれも人間の欲求を満たすという意味で、彼らは「企業」であり「マーケター」です。

以上を踏まえると、日本における「マーケティング部」が不在の会社は、どちらの意味を持つでしょうか。①と②の比率はどれぐらいかな…?

①「マーケティング部」が無くても、日本企業は各部署が顧客を見据え自ずからマーケティングが実践できている。

②「マーケティング部」が無いし、それゆえに、工場は決まった量の製造を行い、営業は決まった量を販売している。


余談なんですけど

今回、別件でも利用するとはいえ、調査に少なからずコストをかけており、良かったら「サポート」をいただければ幸いです。

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