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オンエアされるわずかなコメントの裏にある多くの重要な情報

  新型コロナ感染者数の増加傾向がメディアで取り上げられるようになり、ちょうど昨日放送された報道番組では感染症法の見直しに関する話題が取り挙げられ取材を受けました。年末にかけて発熱患者が増加することを踏まえた上でどのような医療提供体制を構築していくべきかの議論です。

専門家らは新型コロナの感染症法上の位置づけをインフルエンザと同じ「5類」相当に移すことも念頭に、一般医療の中でコロナ診療に対応できるように見直していくことが妥当だと指摘する。政府は5類相当への早期の見直しには慎重な姿勢を崩していない。インフルエンザとの同時流行を乗り越えた先に、新型コロナの感染症法上の位置づけを巡る議論を本格化する構えだ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA08BMM0Y2A101C2000000/

昨日のオンエアされたコメントは以下です。このコメントだけを見た人たちにはよく理解されていないような印象を受けました。

「どうしても“2類相当”という言葉の重さが医療を提供する側としては重い響きがある。その響きで『当院は見られない』などある種言い訳みたいなものが出ている。」“受け皿”を増やすために必要なことが2つあるといいます。「一番の変えなきゃいけないことは『1.特別視をしない』ということ。そして我々医療従事者へ『2.感染対策のスキルが浸透』していって医療従事者側に安心感とかそういったものを与えられることによって医療体制が元に戻っていくと思う。新型コロナよりも前に発熱患者さんを診ていた医療機関であれば、少なくとも熱の患者さんを診療できるように協力をいただきたい」

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000275534.html

しかしこの部分が使用される背景には以下の質問に対する回答があります。実際に私がメールで回答した内容を以下に転記します。

Q1.第8波ともいわれる現在の感染数の上昇傾向にあってクリニックの医療現場ひっ迫の状況について教えてください。
A1.現在患者さんが増えているという実感はそれほど感じません。理由として発熱相談センターからの依頼はほとんどなく、発熱し自宅で抗原検査をしたが陰性だったので診察希望と言う方が比較的多い印象です。高熱でもCOVID陰性である方が少なくありません(陽性率が7波の時と比べてまだ高くありません)。インフルエンザは渡航者の方以外は陽性者はいません。むしろ海外帰国後発熱や体調不良の方が増えた感じがあり、海外渡航者が増えている印象があります。先日久しぶりに外国人のデング熱患者さんを診療しました。

Q2.8月にも5類相当への変更によって患者さんの受け皿を増やす、患者さんへの一人当たりの診療時間を短縮する旨のご発言をされており、長期的な視点で法改正の重要性を訴えておられますが、改めての5類相当への変更の必要性についてお伺いさせてください。
A2.可能であれば5類に位置付けた方が運用はしやすいかもしれませんが、当時に比べて9月末に発生届の対象をかなり限定化したことで、事務的な負担は軽減しています。それまでは多くの説明をするために診療時間が長かったしHER-SYS登録による発生届の負担もありました。さらにこれまでは自宅で検査をしてもしなくてもほぼすべての方が発熱外来に来られていたところ、各自で検査をして登録する流れが浸透してきたことで受診者はかなり削減できているのではないかと思われます。いうなれば「新型インフル等感染症(2類相当)」の事務作業が「骨抜き」のような形になり、実践していることはほぼ5類相当と同等になっています。この状況で「医療費の患者負担分」と「医療機関への収入」が2類相当のまま(患者にとっては公費による負担軽減、医療にとっては保険点数の増点)であることでお互いのメリットも活かされているような状態になっています。すなわち、感染症法の変更の必要性は以前ほど高くはなくなってきています。どの医療機関でも発熱者の診療ができるような体制づくりのためには感染症法の分類の改正は必要となると思いますが、仮に5類になったとしても発熱者の診療拒否をする施設がなくなるとは思いません。

Q3.第8波は想定よりも速い拡大傾向が出ていると分科会の先生も認識されておられます。感染拡大の速度が速いことによってより、法改正の重要度はこれまでよりも強くなったなどありましたらお聞かせください。
A3.現場の印象としては想定内と思います。これまでの経験からも気温が低くなれば換気頻度は減り、拡散しやすい環境は生まれやすくなります。形だけの改正をするのではなく、より現実的な医療提供体制の整備が求められると思います(これは机上で議論している分科会の一部の方には理解できないでしょう)。

Q4.政府分科会においても、現状は5類相当への変更については慎重な意見が根強く、政府の決断に至らないということのようです。率直なご感想をお聞かせください。
A4.2つめの質問の回答にありますが「骨抜き」になったことで実質は5類と同じような運用になっており、医療提供体制が逼迫した時に柔軟な対応ができる余地を残しておいた方が国策としては都合がよいのでしょう。しかし、国民が望むことおよび発熱者を診療している施設が求めていることは「どこの医療機関でも通常の診療ができる体制に戻すこと」「発熱者受診の受け皿を広げること」につきます。2類・5類で解決することではなく、ここを改定しなければ、その場しのぎの姑息な対応をしてもいつまでたっても発熱外来の負担は軽減されませんし、発熱者の診療がスムーズにいくことは難しいでしょう。

Q5.8月の(番組での)ご提言も、岸田総理の7月末の「慎重に検討する」というご発言を受けてのこととお見受けいたしました。今だ決断に至らない実情につきまして、ご意見をお聞かせください。
A5.上の回答とほぼ同じ理由ですが、国民の多くがいまだにCOVIDを「特別視」していることもあります。特別視している人たちからの批判も根強いのではないでしょうか。以前番組でも提言しましたが「特別視しない」という環境整備も必要かと思います(*いつまでも特別視しているのはメディアなのでは?とも申し上げました)。しかしそのハードルが超えられないのは「2類相当」という言葉の重さもあるのかもしれません。

Q6.現状は「2類相当」で、8波を迎え撃つことになりそうです。視聴者も気になっているところとして、「2類相当」のままであっても、「臨機応変にこういうところを変えられるのではないか」というご提言、具体的なアイデアをぜひ教えてください。
A6.地域(コミュニティ)での取り組みが求められると思います。先日東京都医師会の感染症対策会議でも多くの質問が出たのですが、政府のオンライン診療の流れについて、COV抗原が陰性だったらオンライン診療をする、かかりつけ医を受診するなどとの指針がでていますが、実際には偽陰性の方が少なくはなく、そのような高熱者を発熱外来をしていない施設が受け入れるかといったらまず無理でしょう。結局は発熱外来に戻ってくることになる訳で、それがインフル患者も交じってくれば夏よりも負担が増えます。東京都は各市区町村で個別にフローを協議するように指示しており、都道府県レベルというより市区町村レベルでの地域医療体制の整備が臨機応変であり最も現実的かと考えます。

 収録によるコメントは限られた時間であり、自分が伝えたいこと、重要であることが削除されてしまうことはよくあることです。話の流れで理解が得られるような内容であっても切り離してつなげられてしまえば全く正反対の意見にもなりかねません。そのことにより誹謗中傷を受けたことも少なくはありません。新型コロナの話題においては賛否両論が両極端なので様々な立場の人たちのことを考え、言葉を選びながら発言しているつもりではありますが、何を言っても批判されてしまうのは本当に空しくなります。

#日経COMEMO #NIKKEI


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