「人と接触するな」を突き付けられる「非接触の接続」社会へ
テレビなどでも最近頻繁にお見かけする北海道大学の西浦博教授(理論疫学)が提唱した「接触8割減」。
それを受けて、自治体でもいろいろ工夫をしているようです。
緊急事態宣言が出された直近の土日は、新宿・渋谷などの繁華街は確かに人影が見られないほどでした。JR東日本によれば、渋谷の土曜日の人出は98%減だったということです。
しかし、あけて今日13日の月曜日品川駅の状況を見る限り、いつも通りの出勤風景が見られました。こんな寒い雨の日にも関わらず、です。
理論上人間が、人との接触を8割減らせばコロナは収束するのが正しかったとしても、現実にそれは可能なのかというと難しいと言わざるを得ません。
そんな中、「テレワークできないような会社は終わりだ」とか「在宅勤務を許さない会社はブラック企業だ」とか非難する人がいます。テレワークこそ「新しい働き方」で、それができない奴は滅びるくらいの勢いでワチャワチャがしている界隈もあります。さらには、外出自粛の中で外に出ている人間を魔女狩りのように非難する人もいたりするんですが、ちょっと待ってほしい。
世の中の仕事が全部テレワークが可能なわけないじゃん!
自分が在宅勤務しているからといって、「こんな時に出勤しているやつはバカだ」と愚者扱いする輩まで見かけるが、食品や日用品を毎日製造したり、店に届けたり、宅配したり、店頭で販売したりしてる「仕事する人たち」がいるから、きみはのうのうと食べられるし、生きていられるんじゃないのか?水や電気やガスを滞りなく家に届けていたりする人がいるから安心してテレビもスマホも見ていられるんじゃないのか?万が一の時、病院に運んでくれる救急車の人たちや毎日押し寄せる感染者の命を助けようと必死に仕事している医療従事者の人たちだっている。
メディアの報道では、とかく「こんな時に仕事に行くなんて! 」と、出勤している人をまるで悪者かのように言われる場合が多いが、「仕事している人たちがいるから我々は生きられる」という当たり前のことを忘れてしまっていないだろうか。
出勤者が8割減少すれば、それは計算上ウイルスは拡散されないのかもしれません。しかし、それを言うんだったら、今日本においてどれくらい「休みたくても休めない」「物理的に人との接触をしないと仕事にならない」「工場などに行かないと食品物が作れない」人がいるのか知っているのだろうか?
2017年の就業構造基本調査6612万人の有業者職業別人口より、テレワークまたは在宅勤務が可能な仕事と実際それが困難な仕事、加えて、そもそもテレワークなんてやってたら仕事にならない不可仕事とを分けて、それぞれ人口を算出しました。あくまで、職業中分類上なので実際とは乖離があるかもしれませんが、便宜上以下のように棲み分けしました。細かく分ければいろいろ異論あるかと思いますが、統計上の分類にあわせてやっています。
テレワーク可能仕事→役員など管理的職業、弁護士・会計士・デザイナー・SE・著述家・芸能人・教員など専門技術職、事務職
テレワーク困難仕事→販売職、接客サービス職、農林漁業職、生産業のうち食品や生活必需品以外の機械・金属生産業、分類不能
テレワーク不可仕事→医療・福祉専門職、介護・保健医療・生活衛生などの生活支援サービス、保安職、食品・生活必需品生産職、交通インフラなどの輸送職、建築土木電気職、運搬・清掃職
結果は以下の通りです。
テレワーク可能は33%、困難は30%、不可が37%。
ざっくりいえば、テレワークだなんだかんだ言って、それが可能なのはせいぜい3割しかいないのです。現状は本来可能な事務職であるにも関わらず、「印鑑のために会社に行く」とかわけのわからない人たちもいます。事務職の中には、官公庁など実質仕事しないわけにいかない人もいるので、実際可能人数はもっと減ると思います。
特に、不可仕事のうち医療関係職や生活支援関係職、食品を作り、運び、販売する人たちの4業種だけでも約1800万人います。この人達が毎日働いてくれるからこそ、僕らは部屋の中で食事をしていられるということを忘れてはいけないと思います。
言い換えれば、今、日本はこの1800万人の皆さんが支えていると言えるのです。
さて、人との接触8割減ですが、働く人のうち、休業要請などで店を閉めたとしても、最大6割にとどまります。
8割は机上の空論でしょうか?
しかし、この割合はあくまで有業者6600万人のうちの比率です。15歳以上の無業者は4000万人もいます。学生・主婦・高齢者などです。
こうして無職の人達が全員家にいてくれれば、1億人に対する2400万人ですから、76%減が可能です。0歳児~14歳までの全人口を母数として、やっと8割が達成できます。
繰り返しますが、事務職全員かつ販売職の全員休んだ場合です。ちなみに専門技術の中にはマスコミ関係の記者も含むので、そういう人達も休まないといけません。
現実的に見て、8割減は不可能だと思います。気合論や精神論でなんとかなる問題ではないんです。
コロナ収束に関しては、1か月でなんとかなる問題ではなく、下手すれば1年以上の長期戦も覚悟しないといけないかもしれません。
我々人類は過去何度も危機に際し、その英知を結集して、人と人とが協力試合い、団結して解決してきました。特には寄り添うことで安心を得てきました。今は、それが全否定されているのです。
今まで人間は「人との接触」によって生きてきました。キスやハグも会話も協力も仕事も接触です。苦しい時に寄り添うからこそ乗り越えられました。ところが今起きているのは「接触してはならない」という世界。
かといって単独で生きられるはずもない。今、突き付けられているのは「非接触の接続」社会をどう生きるかという問いです。
今後一生人と接触しないというわけではありません。ただ、接触しなくてもいい人だけでもそれを実行しないと、結局、医療関係者など「人と接触することでがんばる人たち」及び「黙々と食料品を作り運んでくれる人たち」の足を引っ張ることとなります。彼らが感染して倒れてしまったら、それは自分たち自身の終わりになるのだ。そういうことをよく理解しておくべきでしょう。
何より自分が今外出自粛して生きていけるのは、彼らが働いてくれているおかげであるという感謝の気持ちは忘れないでいたいものです。
顔も知らないお医者さんや看護師、名前も知らない物流ドライバーかもしれませんが、そういう方へ感謝の気持ちを持ち、ひとりひとりがSNSで発信していく。それもまたひとつの「非接触の接続」のカタチではないでしょうか?
勘違いしないでいただきたいのは何も西浦教授を批判しているわけではありません。但し、人間はメシを食えば必ず排泄する。排泄することなしに人間は生きられない。表も裏も正も負も光も影もどっちか片方の視点しか持たないのはやめましょう、ということです。
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