見出し画像

コンテナとコンテンツ

例えば、器と料理。グラスと水。書籍と漫画。スマホとゲーム。ウェブサイトとブログ記事。CDと音楽。上記の中には、すでに前時代だな、と感ずる組み合わせもあると思います。CDと音楽なんかは、そうかもしれません。すでに、クラウドでの配信に移行して久しいからです。こうした器と料理のような関係を、コンテナとコンテンツとして考えます。

アレクサンドリア図書館

世界最古の図書館であるアレクサンドリア図書館。数万から数十万ものパピルス文書が蒐集され、保管されたといいます。パピルスというコンテナに、様々な文字や絵が描かれるというコンテンツが、そこにありました。パピルス文書という形でパッケージ保存された知が、数十万単位で集積されていたのです。しかし、そこは単なる保管後ではありませんでした。膨大な知を集積した上で、様々な研究がなされる現場だったそうです。集積された知に触発されながら、それらの上に創発現象が立ち現れる場。創発とは、生物の営みとしても、組織の営みとしても、情報工学における人工生命の営みとしても見出される、単純な部分の集積としての総和ではなく複雑な連携連動によって生み出される複雑な組織化システムを指す言葉です。その創発の文字が意味する通り、図書館が機能すると面白いと思うのです。集積された知が有機的に結びつき、さらなる知を生み出していく、創発システムが機能する場となっていく。

学びというものが、自分の外側にあるものとの触れ合いによって変化することを意味するのなら、マージナルな場に身を置くことによって自分の外部と触れ合い、変化のきっかけを得ることが重要です。本来、学校という場は、こうしたマージナルな場だった筈ですが、現在では、その機能が希薄になっている。教育現場の中心にいる方々から、そうした心配の声を聞いています。

知の集積とコンテナの形

常に時代時代においてマージナルな環境を提供するという観点からしても、知の共有を目指す場所において集積するパッケージは、紙にこだわらず、新たなコンテナを取り入れていく必要があると思います。それは、単なる書籍のデジタル化ではないと思います。

巻物の時代。長い一枚の紙に複数の時間軸が描かれ、それをリニアにみていく。それが、巻物というコンテナに対して最適化されたコンテンツでした。例えば、巻物に描かれた鳥獣戯画。カエルとウサギのあーだーこーだというやりとりが、長い一枚の巻物に描かれています。

その巻物を切って束ねると、書籍のようなコンテナが生まれます。文字が並んでいるだけの小説は、巻物の文字列そのままの、過去のコンテンツを新たなコンテナに納めた価値と言えます。

書籍はページがあり、めくっていくことで、見開きという概念が生まれました。見開いたときにページの端に目がいく。このコンテナの特性を生かしたコンテンツに、漫画のコマ割りや、雑誌のレイアウトがあります。これらは、書籍コンテナに対して最適化されたコンテンツであり、書籍文化が花開きました。現在の電子書籍は、この書籍コンテナに向けてつくられたコンテンツのシミュレートでしかなく、まだ電子書籍ならではの読書体験が作られていません。

空間体験を実現するコンテナ

2020年12月に、国立看護大学に正式導入された、VRコンテンツがあります。一年生の解剖の授業で、正式に使われる、VR特化の新たな教育コンテンツです。

空間の体感を伴う体験が、立体構造の学びを格段に高めるというものです。コンテンツ作成者が、VR空間の中で動きながら話すだけで、その空間内の動きや声が記録されます。その三次元的動きと説明が、そのまま再生されます。学習者は、説明者と同じ視線でも、逆の場所に回り込んで反対からでも、好きな位置から、何度でもその説明を見聞きすることができます。

コンテナとコンテンツという関係性で見ると、VRという空間そのものを記録し再生する器ができたことで、その器でなければ為し得ないコンテナが生まれたと考えられます。VR空間の中で平面のモニターを見るという、現実の体験をエミュレートするのではなく、そのコンテナの本質的な価値を活かせるコンテンツを作ること。それが、新たな時代の体験を生み出すことにつながると考えています。

新たなパッケージの可能性

様々な体験をパッケージできるテクノロジーが生み出されています。時間や空間をパッケージしたり、人の反応や心の動きまでもが記録できるようになってきている時代において、さらにそれらを未来に残していくための記録の方法と、それを読み解く方法には、どのようなものが考えられるのか。

そして、さらにそれらが組み合わさり、新たな知の体系が生み出されていくような環境を提供する、創発を促す場とは、どのような仕組みなのでしょうか。過去の集積ではなく、未来を生み出していく場所。それを模索するMOLというプロジェクトが、学芸大にて進められています。

コンテナとコンテンツの関係は、いつの時代でも、どの領域でも、常に新たなパッケージの可能性が検討されながらも、旧来型コンテンツの焼き直しが幅をきかせます。

5Gとの組み合わせによるVRの可能性が言及されています。

これからの時代の人と人との関わり方にあったコンテンツも、また大切です。コンテナは、何も、パッケージ化するためのハードウェアだけではないと思います。情報が流通する場や、流通経路もまた、メディアでありコンテナなのだと思います。そういう意味では、2020年のCOVID-19感染症のパンデミックにより、人と人との対話の形が新しいものに変わりました。これもまた、大きな意味では、新たなコンテナかもしれません。そこに最適なコンテンツとはどのようなものか。僕自身模索していますし、来年注目したいテーマのひとつです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?