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アシックス最高益がランニング市場から始まった理由を解説しよう

10月30日の日経ビジネス記事「大谷翔平をあきらめたアシックスの経営改革 赤字から最高益への舞台裏」

対照的なのが10月16日の日経新聞「ゴールドウイン、暖冬にやきもき 高ROEに黄信号」

この2つの記事から、「アシックスの再興は、ランニング市場への選択&集中から始まっている」という僕の見立てを説明しておこう。大事なのは、なぜランニングに集中すると儲かるのか? そのシナリオだ。


大谷翔平との契約を終える合理性

1つめの記事:2014年の日本ハム入団から続いた大谷翔平とアシックスとの契約が、2022年シーズンで終了。その時点で、勝ち筋が見えていたということだ。

身の丈を超えて大谷選手と巨額の契約をしなかったところに、現在につながるアシックスの経営姿勢が垣間見える。同社はこの数年、経営資源を競技用のランニングシューズに集中投下し、事業の選択と集中を進めてきたのだ。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/102900222/

ドジャース移籍以降、大谷への注目はさらに高まり、MLBの動画もよりみられるようになり、露出機会はかなり大きい。それを捨てたわけだ。

問題は、野球のスパイクもグローブも、(もう)売れない。野球ほか日本国内の部活系球技が強いミズノが時価総額でアシックスの1割程度なことに象徴されている。

一方で、ランニングは、単に東京マラソンに応募するような何十万人かのものではない。歩く、という誰もが行う動作と直結している。対象は人類の数だけいる

具体的には、最近人気の、On、HOKA、サロモンなどは、タフ状況でのランニングに強い。トライアスロンではOnとHOKA、トレイルランニングではサロモンとHOKAがこの10年くらい大人気で、その熱量が、街履きにも降りてきた状態だ。

シューズとは「サブスク」ビジネスである

そして、ランニング発のシューズは、「サブスク」的に買われ続ける。石油化学製品であるスポーツシューズはそもそも寿命が3−5年程度で(だからROLEXと違って投資系コレクションに向かない)、クッション性能などの低下はもっと早く感じられる。素材や構造の革新も早い。

結果、毎年なにか買い続けるような状態が、少なくとも数年単位で続く。それだけのブランド愛を発生させるだけの性能の体感が、これらのランニング発のシューズにはある。

たとえば80超えの僕の両親も、Onのシューズで散歩するのが大好き。84歳で毎日8000歩(少し前まで1万歩)歩き続ける父など、毎年買い続けている。

対して、スポーツ系アパレルは水物だ。ノース・フェイスのスポーツ服などは人気で、代理店のゴールドウィン社の業績は良いが、今ノース・フェイスを買ってる客は、まあ今年来年くらいは同ブランドで揃えるだろうが(競合するスポーツブランドが混在するコーデを嫌う人まあまあいるので)、3年後は、わからない。

これが2つめの記事の話だ。SMBC日興証券の松尾賢弥シニアアナリストが、

SMBC日興の松尾氏は「今株式市場で評価されているのは(スイス発の靴メーカー)『On(オン)』やアシックスなどシューズ関連」と指摘する。靴やかばんなどの通年商品の強化が課題になる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC02BV00S4A001C2000000/

なお、競合ブランドへのスイッチは、ランニングシューズでも当然あり、今は、NIKE・アディダス組が、これら新興ブランド+ブランド新生を果たしたアシックスあたりに移っているだろう。従来、この2ブランドしか選択肢がないと思っていた層に、新たな選択肢が出現した。NIKEの業績は伸びなくなる。

なおニューバランスだけは「スポーツシューズではなくニューバランスを履いている」的な独特の客層があり、この競争の外側で独自世界を築いている感はある。

ランニング競技における性能

こうしたお客さんの熱量は、シューズ性能が体感できることによって、発生する。

この性能面でのアシックスの復活・成長は、2021年頃から明確に見えていた。

兆しは、箱根駅伝がNIKEで埋め尽くされた2021年1月時点では既にあった。すなわちNIKEへの過剰評価、比べての他社の過小評価だ。

ライバル社たちもNIKEと同レベルのランニングシューズを出し始めたのが2021年ごろ。当初は「著作権の限界を攻める」(※表現を穏当にしました)中華勢力が先行し、アシックスは一歩遅れたが、巻き返しが早く、成果は夏の東京五輪トライアスロンで明確に出た。

陸上競技のトップ層はNIKEとアディダスがアフリカのスカウト・育成から網をめぐらし、プロ契約により抱え込んでいる。陸上競技のプロ活動はシューズ会社に依存している。一方でトライアスロンは収入源が多様で(※シューズ契約金が少ないとも考えられる)、わりと自由に選択できる。その中で、最強ブルンメンフェルトなどがアシックスでメダル続々獲得。

この時点で、アシックスのランニングシューズ性能がNIKEに並んだのは、トライアスロンやってれば明らかだっただろう。なんなら、キプチョゲという人類史上に残る天才ランナーに最適化されたNIKE(ヴェイパーフライ、アルファフライ)よりも、BMI25超の腹の太いブルンメンフェルトの履くシューズのほうが、一般人には向いてる面もあるかもだ(※相性による差が激しいのが実際)

アパレル分野の選択と集中

水物なファッション・アパレル分野では、2015年頃に失敗しているが、オニツカタイガーが海外ハイブランド勢にチャレンジし続けているのはすごい。

その成果は原宿あたりのストアで、海外観光客の購買行動で理解できる。

https://www.onitsukatiger.com/jp/magazine/interview/ai-mikami-look-1/

(見上愛さん!)

NIKEアディダスのような全方位の展開をせずに、オニツカブランドに絞り込むのは、身の丈にあった選択と集中。

裏打ちするのは伝統の長さ。LOUIS VUITTONは最高のカバン職人、HERMESは最高の馬具職人、ROLEXは最高の時計職人から、今のハイブランドを作った。今世紀ではCHANEL姉さんが今に至る女性服を作った。大正うまれ、1950年代からマラソンシューズを作り続けた鬼塚喜八郎がその流れに入ることになってもそう不思議でもない。すごい人気の「メキシコ」シリーズは1966年からほぼ同じ製品のまま。今の若者からすれば太古の昔、CHANEL姉さんあたりと大差ないかもだ。

ランニング文化へのコミットも強い。専門誌「ランナーズ」などのランニング関連企業の買収もその1つだ。

このような新しい動きの中で、アシックス社員さんは急なグローバル化に対応している模様が、日経会員限定の動画セミナーでわかる。48分ごろ、「グローバル会議で意見の不一致があれば、即暴れろ!持ち帰るな!様子みるな!」と中竹竜二さんがつっこんでるのがおもしろかった。早稲田ラグビー部など元監督、さすが集団コミュニケーションの瞬発力が強い。

日本企業=JTCにはJTCになりの強みもあるよね、という楠木先生の言葉を、体現した存在といえる。

過小評価されてきたアシックス株

にもかかわらず、2021年9月のスイスのOn社のNY上場時点で、Onよりもはるかに時価総額が低かった。

ヨーロッパ、創業3人中2名がマッキンゼー出身、欧米アッパー層にも人気のOnは、当時やや過剰評価気味だったのだが、逆に、日本の古い会社(いわゆるJTC=Japanese Traditional Company)であるアシックスは過小評価されていた。日本株でありがちなやつだ。

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本日の一冊:『なぜ、Onを履くと心にポッと火が灯るのか? 』2024/3 駒田 博紀

画像は脚

11/2昼~3昼まで、日経新聞電子版オピニオン「COMEMO注目の投稿」掲載。何連続かな。ここPickいただくと役割を果たせてる感あって一安心😁

https://www.nikkei.com/opinion/

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