仕方なく始めた2拠点居住が、DX時代のデジタルデータの難問を解決してくれた話
COMEMOで募集していた「2拠点居住の理想のスタイル」に関して、ちょうど僕がそう言う生活に入っているので、書いてみようかなと。募集の締め切りは過ぎちゃってるんですけどね...
最初実は、この2拠点居住は、コロナ禍においてリモートでの会議やらウェビナーやらが増えてくる中で、自分の自宅ではちょっと都合悪いこと(生活音やら片付いていない書類やらなんやら)も増えてきて、やむに止まれずスタートしたものでした。つまりは積極的な理由があったわけではなく、「めんどくせえなあ」と思いながら、もう一つオフィスを作ったわけです。
最近では、ワーケーションとの親近性と「他拠点で生活をすること」の利点が相まって、コロナ以後の新たな需要喚起の鉱脈として期待されているのは、皆さんもご存知かと思います。
こうした状況にあって、「リモート」や「他拠点」というキーワードで様々な提言がなされているんですが、そうした働き方のもたらす利点について語られる時に、例えば「田舎の需要喚起」であったり、「観光事業との結びつき」だったりと、複数の拠点を持つことの副次的な要素が強調される場合が多いように思います。
そのような状況において、自分が実際に2拠点をやり始めた時、2拠点であること自体が、僕にとって現在不可欠なほど重要な部分を補完してくれるような経験を持つことになりました。それは、デジタルデータの取り扱いに関する気づきです。具体的には、この「2拠点」という生活&労働形態そのものが、データをセキュアに保存できる契機になったのです。写真家という、デジタルデータを大量に扱う仕事をしている僕にとっては、これはまさに「瓢箪から駒」のような状況でした。これが今日皆さんにお伝えしたい結論です。では、実際にはどう言うことが起こったのか、詳細を以下から話してみたいと思います。
1.デジタルデータを保存するのは一大事
コロナ前は、一般的なフリーランスがそうである場合が多いと思うんですが、家が職場でした。とはいえ僕は写真家ですので、普段は割と外に出て撮影をしている場合が多く、帰ってきてする仕事は基本的にデータの取り込みやその保管、それからメール対応などの事務的なあれこれになります。この中でも特に大事な仕事の生命線は撮影データの取り扱いで、写真家がデータを失うのは、ほとんど写真家としては仕事を喪失するのと同義です。カメラ本体やレンズよりも、データが大事。万一機材を失おうとも、SDカードだけは死守というのが、この業界の不文律のようなものです。
大事な仕事が終わった時などは、家に帰るまでちょっと緊張したりしてます。今何かあって、カメラの中に入ってるデータが失われれば、もう2度と同じ写真は撮れない。再現性のない現実世界を相手にする仕事なので、緊張感はなかなかのものです。そして無事家に帰って取り込んだとしても、それが例えば落雷だったりHDDなどの故障によって、ある時、不意に喪失される可能性も常にあります。だから、データは必ず複数で保存する。これはデータ保存の大原則の一つです。
とはいえなかなか個人で、自分のデータを複数化して保存するのは大変です。でも、実は結構割安でそれが可能になるサービスがあります。日本の写真家たちには有名なのですが、Amazon Primeに入っていると、実は写真データは現在のところ無限にクラウドデータに保存可能なんです。このサービスを利用して、帰ってデータをPCに取り込むと同時に、そのデータがクラウドサービスに自動的に保存されるように手配していました。光回線も強めのものを利用し、クラウドへのアップも自動であることから、タイムラグはほとんど無いも同然。これでデータ保存に関しては、かなり安心できるようになりました。
ところが、去年、このAmazon Primeへの写真データの保存に関して、API(アプリケーションを外部のプログラムと接続するための規約のようなものです)が変更になりました。これまではPC(正確にはNASなんですが)に取り込むと同時に、自動的にAmazonのサーバーへと保存される形になっていたものが、「外部APIを経由した自動アップロードの禁止」が通達されました。そしてAmazon謹製のアップロードプログラムを使ってのアップロードしか受け付けなくなります。これの何が問題なのか。大問題なんですね。タイムラグが発生するんです。
2.データ保存のタイムラグは命取り
先ほども申し上げた通り、データの保全は我々のようなフリーランスの写真家にとっては死活問題で、データは可能な限り「即時に完璧に保全してほしい」わけです。そのためには、データを取り込んだあと、それがクラウドに保存されるまでにタイムラグがあってはいけないし、しかもヒューマンエラーを防ぐためには自動でないといけないんです。PCに取り込んでも、そのデータをクラウドへと手動でアップロードしなければならなくなれば、その「一手間」が増えたところに、ヒューマンエラーが発生します。これは、絶対に発生するんです。
「そんなバカな、その程度のことで」と思われるかもしれませんが、経験上、一番やってはいけないデータに限って、人間は間違いを起こすんですね。マーフィーの法則というやつです。どうでもいい、ピント外した写真データは山のように残しているというのに、完璧な一瞬を捉えた写真データだけ、クラウドに保存し忘れたまま、HDDは壊れて、2度と復旧できないなんて状況に直面するわけです(実際直面して泣いた経験あるんです)
3. 2拠点を持つと言うことの、データ的観点からの利点
長々と書いてきましたが、これがちょうど、昨年の年末、2回目の緊急事態宣言がそろそろ必要という頃に起こったことでした。呆然と「どうしようかな」とか思っている間に社会の状況は刻一刻と深刻に。僕自身もリモートワークがさらに増えて、2拠点生活が本格的に進んでいた頃でした。この時、データ保存で悩んでいた僕に、天啓が訪れます。この2拠点でデータを保存してしまえばいいじゃないか!
つまり、こう言うことです。拠点A(自宅)と拠点B(新しいオフィス)を、ネットワーク回線上で結んで、2台のNASをオンラインで即時にデータ同期をさせてしまえば、クラウドへとアップロードしていたかつてよりも、より確実にデータを保存・保全できるじゃないかと。
そして実際にそのような形にデータの保存方式を変えて以後、僕のデータに関する不安のほぼ大半は一掃されました。それどころか、クラウドに保存していた時よりも、圧倒的な速度で2台のNASはデータを同期して保存してくれます。どちらか片方の拠点でデータを取り込んだ瞬間に、もう一つのNASにも、ほぼタイムラグなくデータが反映される。
利点はそれだけではありませんでした。それまでは、2拠点それぞれのPCは、それぞれ別個の状態で、A拠点でのデータと、B拠点のデータはそれぞれに分かれて保存していたんですね。すると、「この前撮ったあの写真データ、どっちにあったっけ?」となることもしばしばでしたが、大元の写真データが複数個に保存されつつ、内容は常に一元化されました。A拠点とB拠点にそれぞれ同じデータが、いつも最新状態で保管されています。A拠点での仕事の成果は、同時にB拠点での仕事の成果となります。仕事場間でデータを常に最新に集約することで、余計なタイムラグがなくなり、時空間的にシームレスな状況を作り出すことができました。つまり、2拠点でありながら、デジタル的には「1拠点」と考えてもいいような状況で、デジタルデータを取り扱うにおいて、2拠点の利点と1拠点の利点のいいとこ取りのような形になったということです。データ保管としては複数化されているにもかかわらず、データ処理としては一元的で常に最新。完璧です。
このようなことが可能になったのは、あらゆる物事がデジタルトランスフォーメーションしていくDX化の流れがあったからに他なりません。それまで高価だったNASやHDD、さらには2拠点のデータを無理なく同期させるための技術や手順など、これまでだったら専門的な知識が必要だったことが、僕のようなほぼど素人でもすんなり導入できるほどにまでコストが下がっていました。この記事を読んでる、ITの専門的知識のないフリーランスの皆さんでも、やろうと思えばすぐに導入できます(最後に僕が書いた具体的な記事のリンクも貼っておきました)
4.2拠点を持つことの、ポジティブな意味
ここまできて、ようやく僕にとっての2拠点が「やむにやまれぬ状況によってしょうがなく始めた2拠点生活」と言うネガティブな意味合いがなくなって、積極的に2拠点、あるいは他拠点を持つことの意味が見えてきました。つまり、複数個の拠点を持つことで、デジタルという目に見えないデータを扱うときの冗長性を与えることができるんです。他拠点で働くことそのものが、僕自身の仕事や生活に対して、データ喪失という破滅を予防するための余裕を与えてくれる。この観点は、僕が自分で2拠点生活を開始するまでは全く見えていなかったことでした。
もちろん、お金のある大きな企業だったら、それこそAmazonの高額なクラウドサービスを導入してしまえば、こんなめんどくさいことをしなくてもいいんです。でも、僕は個人にしてはちょっと持っているデータが多い方なんです(写真データだけで40TBほどあります)。それを自動バックアップのついている有料サーバーで保全しようとすると、最安でもだいたい月に20万円から30万円かかってしまう。それなら、100TBのNASを2台、ネットワーク経由で自分で結んでしまえば、初期導入だけ少し高いけど、ランニングコストの観点から見ると、圧倒的にコストダウンできます。
しかも、上に書いたようにAmazon PrimeのAPIが急に変わって、デジタルデータの扱い方に途方に暮れた時に比べて、サービス側の仕様変更に巨大な影響を受けるリスクが激減します。一つの他社サービスに大きく依存する潜在的リスクからも脱却できたわけです。
こう言う観点から「2拠点居住の理想スタイル」を獲得しということです。僕は写真家なんですが、おそらくはデジタルデータを扱うフリーランスの皆さんにとっても参考になるんじゃないかと思って、書いてみました。では実際にどうやったの?という具体的な話は、以前自分のnoteで書いたので、そちらをぜひご参照ください。