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中国でのエンタメ情報制限について。度重なるエンタメ規制に中国ネット民はウンザリなの?

最近日本のメディアやSNSで「中国がエンタメ情報の発信内容を規制する」のニュースをたくさん見かけます。

コメントや関連記事では、「習近平のエンタメ締め付け」の狙いに対しての解釈で溢れていますね。たしかに今年に入ってから規制が目につくことも多いし、8月に行われた「アイドルの卵成長番組」を規制したことや、未成年の投げ銭を禁止したことも含め、一連のエンタメへの取締りに対しての狙いをあれこれ考えたくなります。

Twitterや外国メディアでの熱議もおもしろいですが、中国国内ではちょっと異なった議論が行われていて、それが日本のみなさんの考えとはだいぶ違っていて興味深いのです。

ということで、今日はこの件に関して外国メディアがあんまり報道しない中国の声とその原因をお届けいたします。

■政策内容について、詳細を紹介

Yahooニュースに掲載されていてバズっていた文章にはこうありました。

中央インターネット情報弁公室発表した「エンタメに関するインターネット情報への規範をより一層強化するお知らせ」(《关于进一步加强娱乐明星网上信息规范相关工作的通知)では、情報の誘導性や発信の規範性、アカウントへの管理や世論動向への観測の4つの面で15項目の要求を明記しました。
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情報発信の手段も厳格に管理し、芸能事務所は原則として、SNSなど一つのプラットフォームにつき、一つの公式アカウントしか登録できなくする。
(https://news.yahoo.co.jp/articles/ab6a7a39d69416f34518661500432e4c49864b0bより)

「お知らせ」についてあっさり書いてますが、これの詳細は見たことありますか?

原文はこちら↑なのですが、これを日本語で要約すれば

1、芸能人に関する情報を発信する時に法律規定や公的道徳を守るべき
2、法律や行政法規に明記した発信禁止の内容を発信する場合、拝金や芸能人のスキャンダルの捏造、アクセス稼ぎ目的の低俗やらせ、組織的悪意マーケティングや、芸能人のプライベート情報の売買、ファン同士の喧嘩煽りや過剰消費誘導などの悪質行為に対してブラックリスト制度を導入する
3、作品の宣伝については、原則は自然な情報の流れに任せる。人的操作を禁止し、トップページやトレンドなどの「ネット情報生態管理規定」が明記した重要画面(*注)では個人のアカウントは原則1つとする
4、芸能人の日常生活やスケジュール、好みや家族関連のものは原則的に重要画面に表示しない
5、マーケティング広告は原則的に指定された広告の場所に表示し、広告と明記すべき
6、芸能人の噂や不祥事などに関するオフィシャルお知らせは原則は自然な情報の流れに任せ、原則1投稿とする
7、公益情報について、芸能人が公益イベントや災害支援などに参加する情報も原則は自然な情報の流れに任せ、バズる話題での悪質マーケティングは禁止とする
8、国家機関や主流メディア、業界協会など芸能人の話題の出来事についての情報発信も原則は自然な情報の流れに任せる
9、エンタメに関するアカウントやアイコン、紹介文などにも規範化管理し、芸能人本人や事務所、ファンクラブのアカウントにプライバシー情報や喧嘩煽りなどの情報を含めてはいけない
10、プラットフォーム側は、芸能人のアカウントの具体的発信力やファン規模、信用評価を把握し、炎上しやすいアカウントへの管理を強化する
11、厳重の法律と道徳違反をした芸能人の復帰発信への取締を強化する
12、芸能人の事務所オフィシャルアカウントや、ファンクラブアカウントへの公式認定は原則1プラットフォームに一つに制限する。無許可の個人や組織が芸能人のファンクラブアカウントの登録が禁止される
13、悪質マーケティイングアカウントとそのMCN機構への処罰を厳しくする
14、観測と対応のメカニズムを作り、芸能人のスキャンダルやプライバシー侵害行為、ファン同士の規模的喧嘩、ネットいじめなどが観測された場合、管理部門や警察に連絡すべき
15、世論の誘導への観測を強化する。情報発信元への確認体制を作る。オフィシャルアカウントかどうかの表示を明確に

*注:「ネット情報生態管理規定」の第11条に明記した重要項目。詳細は最後に記載しておきます

ということで、かなりたくさんのことに言及されているように見えて、よく見るとツッコミどころ満載でいろんな解釈可能なものにも見えますね。

■ネット民vs作為的な炎上を歓迎しているかにも見えるプラットフォームたち

今回の「お知らせ」に関する一連の内容へのネット民の反応では、外国のメディアや海外SNSで盛り上がっているような「中国政府が情報コントロールを強化している」って意見は全然ありません。ある意味反応が薄く、「今のネット環境の秩序を改善する政策だ」と理解を示す声が多数です。

特に、プラットフォーム側の責任と義務や、芸能人とアクセス稼ぎだけを目的としてる人たちへの行動指南として歓迎されています。数年間中国のSNSを利用した経験があれば、それぞれの項目に当てはまる出来事がたくさん浮かびますよね。

一部の現象は以前のnote、民間企業の報道禁止についての回でも紹介しました。

また、中国のファンダム文化の歪んだ部分については最近かなり問題視されています。これについても以前BLの回で紹介したとおりです。

最近注目されることが多い、政府からのこれらの規制は本来、プラットフォーム側がきちんと責任を果たせば問題を防げていたものばかりです。しかし中国でのプラットフォーム間の競争はとても激しく、広告のように芸能情報を出したり、トレンドに入れたり、作為的に炎上させることもやむおえないよねって空気があります。

炎上はある意味最高のバズりなので、アクセス数やアクティブユーザーを保つ観点ではむしろ好都合。また、例えばAさんが不祥事を起こした際に、話題のBさんのプライバシー暴露やスキャンダル捏造すればネット民の注意をAさんから移すことができますよね。たくさんの芸能人が確信犯でやっていると思われます。(日本の芸能界も、むしろ日本の行政もそうなのかな)

このような社会背景では、表現の自由どうこうよりも、健全なメディア環境を保つためにプラットフォームへの行政介入が求められている、というのが中国の現実です。

■話題となったルハン交際発表の例

元EXOのルハンはご存知ですか?

ちょっと前ですが、韓国の人気アイドルグループに所属していた中国の芸能人であるルハンが中国の人気若手女優の「関晓彤」との交際発表をしたのですが、中国のネット民の重要な情報源であるWeiboではこうなりました↓

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↑トレンドトップ10で、5位の暗黙の広告以外が全部この件にジャックされました。いちおう

1位は当事者、2位は男性とはスクリーンカップル、3位は彼女の事務所、4位は名前が非常に似てる若手女優が別れたばかりの元カレ、5位は広告、6位はルハンのファン離れ、7位は2人のサッカーデート、8位はルハンが以前話した彼女がいたら公開する、9位は関晓彤の親、10位はルハンの親友

明らかに不健全な状態でしょう。前述の15項目にたくさん当てはまってますね。10位以外も関連話題が満載で、もうこの話題以外はほとんど情報が入ってこれない状態です。

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↑スーパービッグカップルの誕生でWeiboが一時アクセス不能に。具体的なデータもあり、これらはルハン本人とその事務所中心に拡散され、最終的に8億人にリーチしたことになりました。8億人というのはもはや中国のネット民全員に迫る規模です。

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↑Weiboのサーバーが一時的にアクセス不能になったことについて余談ですが、Weibo自体はアクセス数に応じたフレキシブルなサーバー設計のはずですが、「爆」と表示される話題が同時に何個もあがった場合には、一定数のクラウドサーバーでは人による対応が必要になるそうです。今回の出来事でアリババのクラウドサーバー1000台を数時間かけて追加してやっと落ち着いたとWeiboのCEOが書き込んでいました。

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↑そして話題になったのは、その仕事を担当する責任者がちょうどその日は結婚披露宴だったらしく、でもそこを抜け出して対応したんですって。。奥さんの文句も取り上げられていて「芸能人の急なトレンドジャックはよく大事な日に現れます。結婚の日にトップ芸能人の交際、せっかくの日本旅行の際にはファンビンビンの脱税疑惑、子供を産む時にまた若手芸能人の隠し子、もう勘弁してほしい」とのこと。このエンジニア、もってる人です笑

話はそれましたが、この状況に多くのネット民も呆れています。

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↑上位が全部芸能人に埋め尽くされる、毎日こんな話題ばかり。Weiboはどんどん無意味になっていってない?との投稿にはたくさんの賛同が。

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↑これも別な例で、芸能人の隠し子が連日ジャックしたときにもこんな投稿が。本来は「随时随地发现新鲜事」とWeiboのスローガン(いつでもどこでも新鮮なことが見つかる)が、いつでもどこでも新しい子が見つかる、と揶揄されてました。

こういう現状の事例や不満に溢れているなかでの政府からの規制で、それも理解したうえで考察する必要があります。

中国政府によるさまざまな規制について日本のメディアで取り上げられる記事を目にすることが多いです。最近ではアプリに関する規制なんかもあって、日経電子版で取り上げられてましたね。

これらのニュースに関しての日本のSNSでの意見を見てると、中国政府の強引さへの不快だったり中国のみなさん生きづらくなって可哀想ってものがほとんどかと思いますが、実際にはそんな感想な人たちは本当に少数な感じです。むしろ急成長したプラットフォームや配信者による歪みが改善されることへの期待や健全化を歓迎する声がほとんどです。

こういった、あまり取り上げられない現地の声を今後も伝えていきたいなと思いますので、よかったらフォローして今後も読みにきてください。

(参考資料)

https://www.zhihu.com/question/500924221

https://m.thepaper.cn/baijiahao_15570944

https://www.zhihu.com/column/p/365923267

*注:「ネット情報生態管理規定」の第11条に明記した重要項目

(一)インターネットニュース情報サービストップページのトップ画面、弾窓と重要なニュース情報内容ページなど;
(二)インターネットユーザーの公衆アカウント情報サービスの精選、熱検索など;
(三)ブログ、マイクロブログ情報サービスの人気推薦、ランキング類、弾窓及び地理的位置に基づく情報サービスブロックなど;
(四)インターネット情報検索サービス熱検索語、熱検索図及びデフォルト検索など;
(五)インターネットフォーラムコミュニティサービストップページのトップ画面、ランキング類、弾窓など;
(六)インターネット音声ビデオサービスのトップページのトップ画面、発見、精選、ランキング類、弾窓など;
(七)インターネットのウェブサイトのナビゲーションサービス、ブラウザサービス、入力法サービスのトップページのトップ画面、ランキング類、皮膚、連想語、弾窓など;
(八)デジタル読書、ネットゲーム、ネットアニメサービストップページのトップスクリーン、精選、ランキング類、弾窓など;
(九)生活サービス、知識サービスプラットフォームのトップページのトップ画面、人気推薦、弾窓など;
(十)電子商取引プラットフォームのトップページのトップ画面、推薦区など;
(十一)モバイルアプリケーションストア、モバイルスマート端末のプリセットアプリケーションソフトウェアと内蔵情報コンテンツサービスの第一画面、推薦区など;
(十二)未成年者をサービス対象とするネット情報内容コラム、コーナー、製品など。
(十三)その他の製品またはサービスの目立つ位置にあり、ネットワーク情報コンテンツサービス利用者の注目を集めやすい重点段階。

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