カルロス・ゴーン氏騒動から、日本のビジネスパーソンが学ぶこと③:外国人人材編
カルロス・ゴーン氏の事件によって、多くの日本企業、とりわけグローバル市場からの人材調達を推進する企業は大きな被害を被ることになった。各種メディアで有識者が繰り返し指摘するように、この事件によって、外国人が日本で働くことの心象は悪くなり、優秀な人材は日本で働くことを忌避するかもしれないというリスクが高まった。そして、ゴーン氏自身、このことを後押しするかのように、「日本にいる全外国人に『気をつけろ』と警告すること──それこそが私の責任だ」という発言をしている。
Forbes誌のインタビュー記事でも、日本に進出を考える英国企業へのコンサルティングを行う「ジャパン・イン・パースペクティブ社」社長のセーラ・パーソンズ氏が、『今回、ゴーンが世界に及ぼしたもっとも危険な影響は、「日本で働く外国人に対する日本人の心象を悪化させたこと」だと思います。』と述べている。そして、日本の側から、「ポジティブな広報活動」を世界に向けて紡ぎ、日本が安全で犯罪のない国であるという国際評価を維持することが重要だと提言している。
それではどのような「ポジティブな広報活動」をしていくべきだろうか?
外国人にとって日本で働くことのメリットとは?
数年前、楽天やソフトバンクがインド人をはじめとした外国人エンジニアの採用で成果を出し始めていた当時、その活動を後押しするべく海外企業と比べて日本企業でキャリアを積むことの優位性を明示化しようと本格的な調査研究に入る前のプレ調査をしたことがある。
しかし、キャリア開発や働くことの幸福度、労使関係等の要素で、欧米企業やアジアの地元有力企業と制度や施策の比較をした結果、日本企業の全体傾向として、優位性があるというファクトを得ることができなかった。「日本企業の全体傾向」とわざわざ銘打っているのは、個別のケースでは欧米企業と比べてもそん色ない事例があったためだが、全体傾向としては日本の労働環境は優秀な外国人人材にお勧めしにくい。
他方、企業の競争力やビジネス規模の大きさ、国際市場におけるプレゼンスという面では、日本企業の魅力は世界トップクラスである。国際競争力が落ちてきたとはいえ、世界トップシェアを持つ企業が数多くあり、科学技術や品質マネジメントは他の追随を許さない高いレベルにある。例えば、ソフトバンクのペッパーが市場に出たばかりの頃、ロボティクスのプロジェクトで経験を積める企業が限られていたため、優秀なエンジニアが自分のキャリアにロボティクスの経験をつけたいとソフトバンクに入社を希望した。
つまり、ビジネスとしては魅力があるが、労働環境として魅力がないというのが、多くの外国人人材から見た日本企業の現状だろう。それでは、外国人人材にとって魅力的な労働環境を作るにはどうすべきだろうか?
海外部隊は本社から切り離す
近年の大企業の傾向をみていると、全社的にグローバル化することはコストもかかるし、既存従業員の反発を招くというリスクもあるため、グローバル・ビジネスを担う部隊を本社から切り離して独立部隊とする動きがみられる。
代表的な企業事例は、NTTグループだろう。特に、NTTコミュニケーションは、昨年の組織再編で海外と国内で完全に分割されてしまった。海外事業は、南アフリカの Dimension Data 社が中核となる。
また、事業全体ではなく、グローバル部隊のマネジメント機能だけを切り離すという選択肢をとる企業も多い。例えば、プラントエンジニアリング業界の千代田化工建設はグローバル人事部門をシンガポールに別会社として置いている。また、三菱商事もグローバル人材のHR機能を別会社化している。もともと、人材育成機能を別会社化するなど、人材マネジメントの一機能を独立させている企業は多く、その流れでグローバル人事を別会社化することのハードルは低い。
このように、従来の日本的経営では人材獲得や活用、リテンションの難しい海外人材向けに別の組織を作って運用するという企業が出てきている。全社的な組織再編の難易度が高いが、別会社としてスモール・スタートすることで、伝統的な日本的経営とグローバル・スタンダードのバランスをとろうとしている。
しかし、この手法には限界がある。例えば、日本企業のグローバル化における問題点として、日本語依存のトップマネジメントと低い外国人管理職比率がある。これらの問題は経営トップに変革を求めるものであり、海外部門を切り離してしまうことで経営トップとの距離ができてしまい、結果として変革が遅れてしまうリスクがある。加えて、全体傾向として、日本企業における働き方が外国人にとって魅力的ではないという問題の根本を解決することにはならない。
外国人人材自身に、自分たちが働きやすい会社を作ってもらう
なぜ日本企業がグローバルスタンダードと外れた働き方を維持し続けているかというと、伝統的な日本的経営とグローバルスタンダードとの間の差異が大きすぎてしまい変革が難しいということが大きな障害となっている。特に、欧米諸国と比べて企業寿命が長く、大企業の入れ替わりが少ないという日本企業の特徴が、良くも悪くも組織変革を困難なものとしている。
米国企業を見ていると顕著だが、新しい働き方は GAFAと呼ばれる比較的若い企業から生まれる傾向にある。日本でも、先進的で柔軟な働き方を先導するのは、カヤックやメルカリなどの若い会社から始まることが多い。つまり、外国人人材にとって魅力ある労働環境を作るためには、既存の大企業に期待するのではなく若いベンチャー企業やスタートアップから変革することが期待される。
特に外国人人材にとって魅力ある労働環境を実現するには、留学生や現在日本で働いている外国人人材が起業し、影響力のあるメガベンチャーを生み出すことが望ましい。留学生や移民がイノベーションの原動力となることは、シリコンバレーをはじめとした世界中の各都市で見られる傾向だ。スペースX社やテスラモータースなどの革新的な企業をいくつも経営するイーロン・マスク氏も、アメリカで成功をした経営者だが、南アフリカ出身の移民であることは有名な話だ。
日本政府も留学生や外国人の起業を後押ししようとしている。2018年には、留学生の起業要件が緩和された。その成果は早くも出てきている。2019年には、全国初の外国人起業要件緩和適用として、大分県からバングラデシュ人のレザー・イフタカーさん(24)が、配達サービスの会社「マイニチモンキー」を設立している。
留学生や移民による起業が増え、彼らが原動力となることで、日本が外国人にとって魅力的なキャリア開発の場となることが期待される。
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