見出し画像

ドイツにおける『東京リベンジャーズ』問題

ドイツのイベント界隈では今年、『東京リベンジャーズ』問題とでも呼ぶべき事例が注目されています。いわゆる「マンジ」と「ハーケンクロイツ」をめぐる問題が再燃したとも言えるでしょう。今回はそのあたりの事情をざっくりお伝えしたいと思います。

初めに断っておきたいのですが、筆者はナチ問題や法律の専門家ではありません。ドイツにおける日本のオタク文化事情を追ってきたひとりとして、また積極的に関わってきたひとりとして現場で感じる印象をまとめるだけです。ですので、歴史問題や法解釈に関しては専門家に委ねたいと思います。

漫画からアニメされた『東京リベンジャーズ』は、コラボ企画が次々に搭乗するほど、日本で流行の作品だと思います。

一方で、日本では7月に参議院選挙が実施され、赤松健氏などにより漫画の表現規制の問題が焦点のひとつとして語られていました。

アニメや漫画とその表現規制を考える一助になるかもしれない。そんな思いから、今年ドイツのアニメファン界隈を騒がしている『東京リベンジャーズ』と「マンジ」の問題を取り上げてみます。

きっかけは、今年6月に開催された「ドイツのコミケ」を目指すドイツ最大のアニメ漫画イベント「ドコミ」での出来事です。7万人を超えるファンが来場したイベントですが、ツイッターやフェイスブックなどのSNSで話題になったのが『東京リベンジャーズ』の「マンジ」をめぐる問題です。

どれくらい話題になったのかというと、ドコミの運営団体が後日、公式に立場表明を行わざるを得なかったほどです。

まずはその立場表明を見てみましょう。

ドイツ語だけでなく英語版もあるのでぜひ直接読んでみてほしいのですが、ざっくりと要点は以下の通りです。

まず、「マンジ」は、宗教的な意匠ではあるが、コスプレではドイツの法律に違反するものとなる(刑法86a条)。ツイッターで解説する人たちのコメントを読むと、ナチスのハーケンクロイツの禁止には、似た意匠も同様に禁止する対象となるということです。なのでコスプレをする場合も、「マンジ」部分は隠す必要があるというものです。

次にセキュリティスタッフや会場でグッズを販売する業者についても今後は、ドコミから事前に「マンジ」の禁止を通達されます。つまり、セキュリティスタッフは、「マンジ」を掲げるコスプレイヤーに退場などの措置を迫る必要があり、業者も「マンジ」が印刷/刺繍されたものを販売していは行けないということです。

実はドコミでは、去年2021年の時点ですでに『東京リベンジャーズ』のコスプレはトレンドのひとつに成長しており、「マンジ」もまた散見されていました。それが今年に入り批判の対象となったのは、ドコミという大型イベントがコロナ規制の緩和により昨年の倍以上の来場者を集めたことにより、クローズアップされたのかもしれません。

さて、このアニメ漫画ファンイベントにおける『東京リベンジャーズ』の「マンジ」問題は、7月にフランクフルトで開催された「Cosday」でも対応を余儀なくされました。同イベントは6月30日に「マンジ」の禁止をHPで発表しています。

さらに、同じドイツ語圏であるオーストリア、ウィーンの大型イベント「AniNite」も先日、同様の禁止事項を発表しました。

(DE/EN)❗Achtung, alle Tokyo Revengers Cosplayer*innen❗ Wir bitten dich, die Manji-Symbole deines Tokyo Revengers Cosplay...

Posted by AniNite on Thursday, July 28, 2022

ドイツ語圏のイベントでは『東京リベンジャーズ』のコスプレおよびグッズの販売は「マンジ」を排除した状態でなければならない、

と話しを終わらしてしまいたいのですが、問題はもう少し複雑です。ドイツ語圏におけるアニメと漫画のローカライズでは対応が分かれています。

漫画のローカライズを担当する出版社カールセンのホームページで公開されている本編冒頭のサンプルページを見てみると、作品をリスペクトする観点から「マンジ」には修正を加えない旨が説明されています。(ドイツ語)

この出版社のホームページには、漫画における「マンジ」の扱いについて説明するページが設けられています。(ドイツ語)

出版社の解釈は、『東京リベンジャーズ』はいわゆるナチズムなどと呼ばれる「国民社会主義」とは関連性がないため問題ないとしています。また、同出版社は手塚治虫の『アドルフに告ぐ』も販売していますが、ナチスの犯罪を批判する歴史的な説明として同様に問題はないと説明しています。

ただし、ファンアート(二次創作)とコスプレについては別途段落を設けて、「マンジ」を使用しないことを推奨しています。ファンアートやコスプレの場合、作品本来の文脈を離れることで、政治的な使用と判断される場合があるからとのことです。

最後にアニメの表現も見ておきましょう。『東京リベンジャーズ』のオープニング映像のスクリーンショット2枚をお見せします。

クランチロールのドイツ語字幕版
『東京リベンジャーズ』のYoutube公式チャンネルが公開しているバージョン

ご覧の通り、アニメ版では「マンジ」に修正が加えられていることが確認できます。

最後にこのような事例から見えてくるドイツの現状をまとめてみます。

・『東京リベンジャーズ』の「マンジ」は、イベントがそのコスプレを禁止するケースが今年相次いでいる。
・ドイツ語版を展開する漫画出版社は、作品内の使用は「異なる文脈であるため」に問題ないとの判断。一方で、二次創作とコスプレは作品から政治利用と判断される場合がある。
・アニメでは「マンジ」は規制対象。

ドイツでは「ハーケンクロイツは禁止されている」の事実ですが、類似の「マンジ」についてはより細かい区別があり、判断は統一されていません。

最後にこういうことを書くと雑な議論をするなと怒られるかもしれませんが、欧米の世界で「表現の自由」が守られるものとして認識されている一方で、ドイツの「ハーケンクロイツ/マンジ」問題のようにその国の事情で制限される場合もあります。日本に「表現の自由」議論においても日本の事情を反映した「規制」や逆に「規制しない」部分など、様々なユースケースにおいても、個別かつ慎重に議論することが必要なのではと感じた筆者なのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?