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私はなぜ化石賞に関する報道に、毎年飽きずにコメントするのか

仕事柄、学生の方々とお話する機会も多くあります。
最も悲しいのが、「日本は環境後進国なんですよね?」と聞かれること。
この問題に関心を持ち、ニュースなどにも積極的に目を通している学生さんほどそう思う傾向にあるようです。エネルギー政策の議論が報道されれば「再エネで出遅れた」とあり、首相がCOPに参加すれば「岸田首相に対して環境NGOが化石賞を贈って批判」と報じられるとあっては、そう思うのも仕方ないでしょう。

新しい社会インフラとしてのUtility3.0を構築したいと考えている私は、日本がすべきことは山積みだと思っていますが、何が足りないかを明らかにするには、いまできていることをちゃんと評価することも大事だと思っています。ですが、日本のエネルギー・環境に関する報道は極めて自虐的であり、自らの評価を自ら下げているとしか思えないことが多くあります。

「日本は再エネ導入で出遅れた」。よく聞く言葉です。
しかし、日本は再エネ全体の導入量(設備の量)で言えば世界第6位、太陽光発電に限って言えば、中国、米国に次いで世界第3位です。日照に恵まれた砂漠がある訳でも、広大で人が住んでいない平野が広がっている訳でもないこの国で、世界第3位です。
福島原子力発電所事故の後、再エネ導入を加速するという方針が採られ、極めて手厚い補助が講じられたので、日本の太陽光発電は世界でも類を見ない増え方をしました。その結果、再エネ発電賦課金(再エネに対する補助金)がで年間3兆円に近づくなど、弊害も出てきてしまいましたが、再エネの導入が進まなかったわけでは決してありません。

では「再エネで出遅れた」は根拠なき批判なのでしょうか。実はそうとも言い切れません。
実は日本は電力需要が大きいので、1年間の電力需要(kWh)に占める再エネの比率で言うと、確かに欧州の一部の国などと比較すると見劣りします。1年間に1兆kWh近い電気を消費する国は、世界で5か国程度しかないのですが、日本はそのうちの一つ。電力需要全体に占める再エネ電源の比率が低いことは確かです。ですので、こうした表現が間違っていると言いたいわけでは決してありません。
ただ、多様な評価軸がある訳ですし、1億2千万の人口を抱える上、産業構造が製造業主体を維持しているわが国では、こうした構造になるのは、いわば仕方がないともいえます。電力需要を削減する(省エネを進める)ことも重要ですが、今後、デジタル化が進みデータセンターや半導体工場が誘致されれば電力需要の増加要因になりますし、気候変動対策を進めれば、需要を電化し、その電源を脱炭素化させていくということになりますので、電力需要は増加します。
「電力需要に占める再エネの比率」も、再エネ導入の進捗を図る一つの指標ですが、多様な評価があり得るということについても認識されるべきだと思っています。残念ながら日本ではそうした報道は日本ではほとんど見ません。

COP(気候変動枠組条約締約国会議)に関する報道では毎年、「化石賞」を日本が受賞したと必ず報じられます。事実ですからこれを報じることもメディアの役割でしょう。
岸田文雄首相演説に「化石賞」、COP28で環境団体 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ただ、受賞した、日本はダメだ、批判されているというだけでなく、どういう団体がどのような理由で日本を批判したのか、その批判は妥当なのか、について多少の検証が必要ではないかと思います。
毎年書いているように、化石賞は、会場の片隅で環境団体の若者が、2週間の会期中毎日イベント的にやっているものです。彼らの声を軽んじるわけではありませんが、選定の基準も定かではなく、理屈として首をかしげることも多い。そもそも気候変動は先進国のせい、というのがこの世界の立て付けなので、米豪加日あたりが持ち回りでもらうもの(環境NGOの多くは欧州勢が強い)。
COPの会場ではとにかく再エネ導入が叫ばれます。再エネの導入拡大も重要ですが、再エネだけで社会をカーボンニュートラルにすることは極めて難しいことです。特に、アジアでは電力需要の伸びが旺盛である一方、モンスーン気候でそれほど再エネポテンシャルに恵まれているわけではありません。岸田首相の演説は、こうしたアジアでの脱炭素に必要な技術力・金融力を提供することを目指すというものでしたが、これは後ろ向きな姿勢なのでしょうか?

ジャパンパビリオンには、日本の複数の企業が展示をして、提供できる技術をPRしています。出展企業とその紹介事例はこちら
COP28において「ジャパン・パビリオン」を開催します! ~日本が誇る脱炭素・適応に貢献する技術・取組を発信~ - トピックス - 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)
多くの来場者でごった返す中で、各社の社員の方たちが汗だくで説明していました。環境と経済の両立が必要なのですから、こうした場をより確実にビジネスに結び付けるにはどうしたらよいかについて日本を挙げて考えるべきで、メディアの報道にそうした「建設的な批判」を期待するのは、筋が違うのでしょうか?

また、COP28では初めてStart-up Villageという特設会場が設けられました。期間中世界から170社のスタートアップが集まるなかで、日本からは10社。日本とUAEの両政府による先進技術に対する支援プログラムのサポートによって、米国、フランスと並ぶ数のスタートアップがCOP28の会場にブースを出展することができたそうです。
そのプログラムマネージャーを務められた木場さんへのインタビューがこちら。

【動画】COP28参戦記:UMI代表取締役パートナーの木場さんに聞く 「気候変動問題解決におけるスタートアップの役割」
撮影:現地時間 2023年12月6日(水)11時

日本の若者には、「日本はダメなんでしょ?」ではなく、こうした取り組みを知り、自分もできると思ってほしい。どう考えても、シュプレヒコールをあげている若者より、このstart up Villageに出展している若者の方が、CO2を減らすことに貢献するはずで、こういう若者を増やしていきたい。
なので、私は毎年しつこく化石賞についてのメディア報道に対して、「それだけではない」ことをお伝えしていきたいと思っています。


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