ダイバーシティが鍵となるか?日本のユニコーン企業
コロナ禍でも増え続けるユニコーン企業
コロナ禍でありとあらゆる業界で激しい変化が生じる中、勢いのあるスタートアップ企業にとっては大きな問題とはならなかったようだ。特に、ユニコーン企業となるようなテクノロジー企業は、デジタルのみで事業を完結させることができる事例も多い。CBインサイトによると、2021年4月22日時点で世界のユニコーン企業は654社であり、そのうち約3割の231社はコロナ・ウイルスが本格化した2020年3月以降にノミネートされている。
日本でも2社がコロナ禍以降にユニコーン企業となっている。今年5月には、スマートHRが新株発行で計約125億円を調達したことで、企業価値は約1700億円(日本経済新聞の試算)に上り、国内6社目のユニコーン企業となる見込みだ。数年前まで、国内のユニコーン企業は1社か2社かという状況が続いていたが、2019年には7社まで増えた。その後、買収や上場等によって増減するが、2021年現在は6社にまで増えていることは明るい傾向だ。
スマートHRを含めた、国内ユニコーンを概観すると以下の通りである。
Preferred Networks:主にIoT分野における機械学習・深層学習の研究・開発(2018年5月 ユニコーン入り)
Liquid:暗号資産 / 仮想通貨取引プラットフォームを日本・シンガポール・ベトナムで展開(2019年4月 ユニコーン入り)
Smart News:スマートフォン用のニュースアプリ
Playco: インスタントプレイゲームのプラットフォーム開発
Paidy: 「翌月後払い」アプリ
Smart HR: クラウド人事労務ソフト
国内ユニコーン企業の新潮流
日本初ユニコーン企業というと、メルカリのような誰でも知っているアプリ開発をしている企業をイメージする方が多いのではなかろうか。世界的に有名なユニコーン企業と聞いて、思い浮かべるイメージも、Airbnb や Uber などのアプリ開発会社の印象が強いかもしれない。(注:ユニコーン企業の世界的な傾向で言えば、アプリ開発よりも Preferred Networks のような研究開発型のスタートアップが多数派を占める)
メルカリのような事業は、主に自国の市場をターゲットとして事業をスタートさせることが多かった。また、創業メンバーや経営陣も母国人がほとんどを占めた。例えば、現在のユニコーン企業の中では、Smart News と Smart HR が当てはまる。アプリの利用者は日本人であり、創業メンバーや経営陣は基本的に日本人で占められている。
しかし、近年のユニコーン企業では少し違った性格を持つ企業が増えている。Liquid、Playco、Paidy の3社で共通してみられる共通点として、「多国籍な経営陣」と「ビジネスの多国籍展開」という2つが見られる。
例えば、Liquidは、日本に本社を置きつつ、シンガポールにグローバル拠点を持ち、仮想通貨のプラットフォームを多国籍展開している。6名いる常勤の経営陣のうち、日本人は2名であり、4名は外国籍のメンバーだ。
Playco は、米国・デラウェア州からスタートした企業だが、日本を最重要マーケットとして位置づけ、東京に本社を置いている。メンバーも日本、米国、韓国と世界中に点在し、リモートワークベースの働き方を進めている。4名の共同創業者のうち、3名がアメリカ人で1名が日本人というチームだ。
Paidy は、世界的なブームである「後払い(Buy Now, Pay Later)」を支援するアプリを開発・運営している。「後払い」アプリは、スウェーデンやアメリカ、オーストラリアなどの欧米だけではなく、中国やシンガポールなどのアジア諸国でも盛り上がりを見せている。そのため、グローバル競争が激しい。同社は2019年に台湾に進出し、そのまま東南アジア市場のシェアを拡大していこうとしている。9名の経営陣のうち、日本人は4名であり、多国籍なメンバーで構成されている。Paidy のトップである代表取締役会長のラッセル・カマー氏は、スタンフォード大学院卒のカナダ人だ。
多国籍チーム × ボーン・グローバル
これら3つの国内ユニコーン企業から、「日本独自」や「日本に根差した」といった雰囲気を感じられない。メンバーも事業内容も、創業当初からグローバルの性格が強い。
このように、創業間もなくから事業のグローバル展開を狙うベンチャー企業のことを「Born Global Firm(生まれ持ってグローバルな企業)」と呼ぶ。日本の国内GDPの大きさから、まずは日本で成功して、そこから世界展開をしていくという段階を踏んで事業拡大していくストーリーが、日本企業の伝統的な成長戦略だった。しかし、この戦略は失敗のリスクが小さいものの、多国籍展開で思うようにいかずに成長が止まってしまう限界がよく見られた。このことが、なかなか日本のベンチャー企業の規模拡大(スケーリング)を阻んでもいた。経営学の研究では、スケーリングを狙うのならば、段階的に事業拡大をするのではなく、はじめからグローバル市場を想定してビジネス展開していくアプローチの有用性が繰り返し強調されてきた。
また、日本ではなかなか進展しないダイバーシティの問題がある。しかし、創業時に初めから多国籍なメンバーを含めることで、ダイバーシティを活かしてイノベーションを生み出す組織を作り上げることが可能だ。特に、創業メンバーに多様性があることはマネジメントの難易度が上がるものの、ビジネスモデルを洗練するのに有用だ。このことは、学生起業であってもそうだ。
起業志望の学生を教えているときに、メンバーの多様性をできるだけ増やす、特に外国人を含めたチームは革新的な事業を作り上げてくることが多い。
例えば、私の教え子で「オンラインゲームで一緒に遊ぶ仲間をプレイ動画から探すマッチングアプリ『Clitch』」を開発している学生がいる。今月、OPEN VENTURESからシードラウンドの資金調達にも成功した。彼の事業がうまく動きだしたのも、韓国人留学生をメンバーに迎えたことが大きなターニングポイントとなっている。
もちろん、外国籍のメンバーと共に働くことは言うほど簡単ではない。Work Style Lab の CEO グスタヴォ・ドーア氏は、創業時のチーム作りにおいて失敗したこととして、外国の人材を一度に多く雇ったことを挙げている。
しかし、創業時から多様なメンバーを結集し、グローバル市場を狙ってビジネス・モデルを構築することで、スタートアップ企業が圧倒的な成長を遂げる原動力を得ることができる。これからのスタートアップ企業では、多国籍なメンバーとグローバル市場を狙ったビジネスモデルの構築を挑戦して欲しい。
日本のユニコーン企業の数が増えてきたと冒頭で述べたが、まだ他の先進国と比べると十分とは言えない状況だ。ドイツには16社あり、韓国は10社のユニコーン企業が存在する。韓国以下・東南アジア以上というのが、日本の国際的なポジションなのだ。