新幹線の貨客化・貨物化を考える時期なのかもしれない
今もなお、日本各地で進む新幹線の整備に遅れが出ているという記事が、このところ立て続けに出ていた。
新幹線は、東海道新幹線が東京オリンピックを目前に1964年に開業したのが始まりである。それからすでに半世紀以上が経っているが、いまだに日本は新幹線を整備しようという気運が衰えるところを知らない。
しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によって鉄道各社は大きな乗客の減少に見舞われており、東海道新幹線を事業の主軸とする JR東海も例外ではない。
こうしたパンデミック(COVID-19だけではないかもしれない)の影響を前提として考えた時に、これからの新幹線はどうなっていくのだろうか。
今回の新型コロナウイルスの問題によって、リモートワークや在宅勤務が進んだ結果、移動を必要とせずに仕事ができる部分が少なからずあることがわかってきている、と言ってよいのだろう。そうなれば通勤に便利なように、オフィスの近くに、つまりは大都市に密集して住むことが、少し緩和されていくのかもしれない。
新幹線ができ、整備されてきた高度成長期以降の日本の状況を考えると、東京一極集中が加速し、その反面としての地方の人口流失・過疎化が問題になってきた過程ということもできるだろう。新幹線は、モータリゼーションの進展ととともに東京一極集中を進める一つの要因であった可能性があるし、その点については十分に検討する必要がある。それが郊外や地方への分散という逆向きのベクトルに社会が方向転換するのであれば、これまでの考え方の新幹線の役割は終わった可能性もある。
とはいえ、まだ計画段階であるものならいざ知らず、既に開業していたりあるいは建設が進んでいる新幹線であれば、それをどのように活用していくかも考えなければいけないだろう。東海道新幹線に代わってリニアの整備が進められており、リニアが開業した時に、高速に大量の人を移動させるという現在の東海道新幹線の役割は取って代わられることになるのだろう。その時に今の東海道新幹線をどう活用するかも、一つの課題になる。
新型コロナウイルスの問題によって、他の交通機関でも起きていることは乗客の減少と共に貨物需要の増加である。航空業界でもこの動きが顕著で、各航空会社が旅客便を大幅に減少せざるを得なかった一方で、貨物需要は満たすことができなくなり、旅客機を貨物機代わりにして運行するという状況が世界中で見られた。
日本でも同じ動きがあり、本来であれば乗客を乗せた LCC として開業する予定であったジップエアは貨物便が商業フライトのデビューとなった。
運航便数が少ない影響もあるが、航空貨物運賃は上昇基調にあるという。
こうした状況を考えると、鉄道も旅客輸送から一定の割合で貨物輸送にビジネスのフォーカスをシフトしていくことは出来ないだろうか。
鉄道は、地球温暖化に対してインパクトが少なくエコフレンドリーな乗り物である。ヨーロッパで「飛び恥」などとして話題になったが、航空機よりも鉄道の利用が強く推奨されていた。これは旅客でも貨物でも同じ理屈だ。
今後も社会のデジタル化・オンライン化によって物をオンラインで買う人が増えるのであれば、そのぶん貨物の需要が(人口減少以上に)減ることはないであろう。一方で、短期的にはトラックドライバーの人手が不足し、長期的には自動運転になるとしても今度は地球温暖化の影響を一層考慮していく時代になるのであれば、貨物輸送に鉄道が活路を見出していくのは一つの必然と考えるべきではないだろうか。
実は貨物新幹線の構想は特に目新しいものではなく、以前から検討はされてはきたものの結局実現されないままに終わっている。裏を返せば、貨物新幹線の構想は特に突飛なものではなく、日本が置かれている状況が変わった今、改めて実現に向けた検討が意味を持つのではないかと思っている。
今の新幹線は旅客を運ぶことを前提として作られているため、貨物を運ぶためには、車両のみならず駅など地上設備も含めて様々な改造・整備が必要だろう。だが、将来の需要をよく検討しないままに旅客オンリーが前提の新幹線整備に費用を使うのであれば、こうした貨客化・貨物化した新幹線を検討したほうが未来への投資として有効ではないだろうか。
新幹線だけでなく、東武鉄道が温泉のお湯を特急車両に乗せて運んだという記事が出ていた。地方創生・沿線の活性化という効用も狙ってるようだ。
人口減に直面し働き手の不足が深刻になると思われることに加え、リモートワークの定着が人の移動需要を減らし、一方で購買のオンライン化で貨物需要の伸びが期待できるものの、環境保護に配慮していかなければならないという状況であるなら、貨物新幹線構想はそうした課題にこたえるものになるだろうし、SDGsやESGの観点でも有益な取り組みになるのではないだろうか。