入学式

教育で「住みたい街」ではなく「住まなくてはならない町」を作る

4月は入学のシーズンだ。桜の花が咲き誇る中、多くの学生が新生活を送る。そのような小春日和に、大分県佐伯市で新たな専修学校がスタートを切った。本日、大分県佐伯市でユニークな専修学校が開校し、第1回入学式が開催された。専修学校の名前は「Operations Management System School」と言い、学校名に日本語が用いられていない。なぜなら、この専修学校は100%留学生のために創られた、食品加工のプロフェッショナルを育成する教育機関であるためだ。インドネシアとスリランカから来た、約20名の学生が大分県佐伯市で新生活のスタートを切った。


大分県佐伯市とは?

さて、多くの人は大分県佐伯市と言われてもピンと来ないだろう。佐伯市は、大分県の南東端に位置する市であり、宮崎県との県境に位置する。豊富な海の幸と山の幸に恵まれ、九州の市町村の中で最大の面積を持つ。人口約7万人の地方都市だ。

東部の沿岸部は江戸時代から「佐伯の殿様、浦でもつ」と呼ばれる豊後水道の海の幸が名産であり、西部の山岳地帯は祖母・傾・大崩ユネスコエコパークに選ばれるほどの大自然が広がる。このような土地柄のため、豊かな自然を活かした海産物や農作物の食品加工会社、漁船の工廠を起源に持つ造船業が古くから発達してきた。

しかし、日本の地方都市の例に漏れず、人口減少と高齢化、産業の衰退が深刻な問題となっている。1950年代後半から人口は減少傾向にあり、1990年からは高齢化と共に人口減少が急速に進んでいる。そのため、一軒家や集合住宅の空き家問題も深刻だ。高齢化による労働人口の減少や地場産業の保守化による活気の喪失も起きている。そのため、若年層人口を増やし、就労人口の新陳代謝を活発にすることで地場産業を強くしていく必要がある。

もちろん、このような課題に対して、地元の人々が何も対策を講じていないわけではない。江戸時代にあった佐伯城跡から武家屋敷までは観光資源として整備され、江戸時代は商家が集まっていた船頭町では地元の若者が集まって活気ある街づくりをしようとイベントの企画や旧家のリノベーションに取り組んでいる。現に、この原稿も、古い時計店をリノベーションしたコミュニティ・スペースで執筆している。


若い人が来ざるを得ない理由を作る

人口減少に対する対策を聞くと、多くの地方都市で「若者が移住したくなる魅力的な街づくり」を標榜する。たしかに、自分たちの住んでいる町に魅力を感じて移住してくれるほど、嬉しいことはないだろう。実際に、そうやって移住してくる若者もいる。しかし、現実的に考えてみると、そうやって移住してくる若者が数千、数万単位でいるとは考え辛い。うがった言い方をしてしまうと、自動車メーカーの工場を1つでも誘致したほうが人口減少には効果がある。大分県中津市は2004年にダイハツの工場を誘致し、千人単位での人口を獲得と人口減少に歯止めをかけることに成功している。工場誘致による人口増加は本人意思や住環境としての魅力とは関係ない。仕事があるから来ざるを得ず、大量の従業員が移住してくる。

しかし、企業誘致という方法にも課題がある。第1に、地場企業の活性化には繋がらない。飲食店ならば賑わうかもしれないが、地場企業に優秀な人材が集まるようになるわけでもなければ、顧客が増えるわけでもない。第2に、給与水準の上昇が期待できない。大企業の生産現場はコストのコントロールが厳しく、特に人件費の扱いはセンシティブだ。給与水準の高い地域に生産拠点を作ることは、本社工場でもない限り難しいことを踏まえると、企業誘致のための給与水準を上げることは難しい。

人口減少に対して、本質的に取り組むのであれば、地場企業の活性化も含めた、若者が来ざるを得ないストーリーを考える必要がある。佐伯市で新しくできた専修学校は、新しいストーリーを考えるための良いヒントをくれる。


雇用と教育を連動させる

「Operations Management System School」には、学生が留学生のみだというほかにユニークな点がある。それは、運営母体が地元の食品加工会社だということだ。そのため、提供される教育も食品工学科となっている。規模は異なるが、自動車メーカーのトヨタが運営するトヨタ工業学園と似ている。モノツクリのプロを目指して教育を受け、卒業後は日本での就労を目指す。そこでは、地場の食品加工会社が受け皿となることが期待される。

地方で教育機関を作るのであれば、職業訓練と雇用との連動を強めるべきだ。4年生の総合大学でならば「高等教育機関は職業訓練校ではない」との方便にも合理性が得られるが、地方都市の専門学校や単科大学が習う必要性はない。そもそも、フランスは最も権威ある教育機関(Grandes Écoles)が職業訓練校である。ニーズがあるのであれば、質の高い職業訓練校は増やしていくべきだ。

特に、地方の企業にとって人手不足は深刻な問題だ。採用しようと思っても、若者は都市部に出てしまい、地方にはいない。一度、都市部に出た若者が地元に帰ってくることは多くない。多くは、選択肢も豊富な都市部で職を探し、定着してしまう。

また、人手不足を外国人で解消しようとするのにもハードルは高い。そもそも、外国人を活用するには高いマネジメント能力が必要だが、そのようなノウハウを持つ中小企業はほとんどない。その結果、ずさんなマネジメントで外国人派遣社員を迎え入れ、多くの不幸が生まれている。ひどいときには、外国人実習生が安価な労働力として捉えられ、国連機関からは現在の人身売買や奴隷制度の受け皿になっていると非難を浴びている。つまり、受け入れる企業のマネジメント能力と外国人労働者の質の両方に大きな問題がある。

これらの問題を解決するために、地場企業への就職を連動させた職業訓練校は1つの解決策になるのではないか。地場企業が中心となって、自分たちが雇用したいと思う人材を育て、就職までのルートを作ることで、若者が地方都市に定着するストーリーを作ることができる。


高等教育機関で地方に来ざるを得ない理由を作る

教育機関は、若者が来ざるを得ない理由を作る施策の1つだ。日本は東京一極集中が行き過ぎているために高等教育機関も東京に集まっているが、世界的には高等教育機関は都市部に集中しているものではない。別府市の立命館アジア太平洋大学や秋田県の国際教養大学のように、「そこでしか学べないこと」を提供することができれば、地方都市でも学生は全国から集まってくる。実際に、立命館アジア太平洋大学の日本人学生の最も多い出身地は関東圏であり、全国から学生が集まるために九州出身の学生は少数派だ。

地方都市が衰えていった原因を作ったのは、高校までは親元で地方に住み、大学や就職で都市部に移住すると言うストーリーがあったためだ。この人口流出のストーリーに対して打開策を講じてこれなかった理由は、都市部と地方で情報と物質的な豊かさの格差があったためだ。しかし、時代は変わった。インターネットによって情報格差は減少し、物流システムの発展によって、ほとんどのものはネットショッピングで購入可能だ。都市部と地方の格差は、この15年間で隔世の感があるほど狭まっている。

地方都市のやるべきことは、若者が地方に来ざるを得ない理由を作り上げることだ。それは、企業誘致という手法もあるだろうし、地元産業の独自色を活かした職業訓練校を作る手法もある。佐伯市での取り組みは、まだ始まったばかりであり、学生数も20名と規模も小さい。しかし、今日の「Operations Management System School」の祝辞で、田中 利明佐伯市長は夢を語った。「Operations Management System School」を1学年200名規模まで大きくし、高等教育機関を増やし、地場産業と教育が連動した学園都市としたいという夢だ。教育で若者が集まり、地場企業の担い手として活躍できるようなストーリーの構築が、地方都市の活性化に求められているだろう。



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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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