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ミラノデザインウィークの行列風景が普通になった ー個人データが行列をつくる

数年前まで、ミラノデザインウィークである展示を見るために長い行列ができるのは限定された著名ブランドだけでした。

しかし、今や行列ができるのが普通です。それも街中のイベントだけでなく、郊外で開催されるミラノサローネ国際家具見本市内の各ブースでさえ、入るのに行列をつくるのが珍しくなくなりました。そして、夕方、会場からタクシーで市内に帰るにも延々と並ぶ・・・冒頭の写真です。地下鉄の駅から遠いホテルに宿泊している人たちなのでしょう。

それでも今年のサローネの入場者が370,824人とパンデミック以前の数に迫ってきたのです。これほどに地政学的問題から、人の移動が容易ではなくなったにも関わらず、です。

この行列現象の主な要因は実にシンプルで、展示企業が入場者のデータをとるようになったからです。見本市会場に入るためにパスを買うわけですが、そのために出身国や職業などを入場者はインプットします。

サローネの開幕日(©ミラノサローネ)

そして発行されたQRコードで会場に入りますが、このQRコードにある個人データを展示企業も共有できるようになったので、ブースの入口を限り、そこでQRコードを読み取る出展社が多くなりました。

結果、オープンな構造のブースで2つの方向から眺められ、自由に入れるところが減ってきたわけです。

そのためブースの入り口に行列ができるようになります。もう一つの変化はブースを閉鎖的にするので、通路の歩きながら両方のブースを同時に眺めながら「なんとなく展示の方向を掴む」のがやりにくくなりました。

しかも、この数年、サローネは毎年レイアウト変更を行うので、「あそこのパビリオンのあのゾーンに行けば十分」という見方が通用しずらくなったのです。

言い方を変えれば、常連たちの習慣が活用できなくなりました。

だから、数日かけて足を棒にしてひたすら多くを見歩き偶然の発見に心を躍らせるか、事前によくプログラムを調べて効率化をはかる、との2つのアプローチを選ぶことになります。

言ってみれば「なんとなく展示の方向を掴む」人は潜在的な客にもなり得ないと多大な投資をしている出展社は判断したので、この方向転換に見学者が文句を言うことも筋違いです。商談の場としてのサローネに本来機能に集中するようになっているわけです。

ただ、その一方、サローネとしては文化的なイベントやトークショーでイベントの魅力をあげようとの意図がみられ、メリハリがはっきりしてきたと評価すべきかと思います。

水問題を可視化した”Under the Surface” (©ミラノサローネ)

そして、この見学者のデータをとるーメールアドレス、出身国、職業などー戦略を市内の多くの展示企業が行うのも、まったく同じ理由です。たくさんの人が一気に押し寄せれば展示品の破損の可能性が高まる、およそ落ち着いて展示品を見てもらえない。

例えば、Googleの展示も1-2時間待ちは当たり前でしたが、じっくりと色と五感の関係を感じるに相応しいスペースと機器が限られていたからです。そうすると十数人が出口から出ないと列は前に進まないのです。

GoogleのMaking sense of color の展示には長い列

言うまでもなく、サローネの会場のブースであれ市内のイベントの場であれ、データをとられずに気楽に入れるところも多々あります。そのようなところで思いがけない発見をする余裕を持ちながらも、「なるべく数多く見る」との姿勢自体を再考した方が良いのは確かそうです。

自ら事前に設定したなんらかのテーマに沿ってみる、とのアプローチがより適切になっています。



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