フリーランス新法は「保護法」なのか
いわゆるフリーランス新法の法案が今国会に提出されており、先日、衆議院を通過しました。
今後参議院での議論になりますが、フリーランス新法は今国会での成立が見込まれています。
そこで、今回から数回フリーランス新法について、その狙いを含めて何が変わり、何が変わらないのかを確認していきたいと思います。
今回は、フリーランス新法の狙い、目的について書いていきます。
フリーランスとの取引はもともと無法地帯ではない
企業とフリーランスとの取引には、民法が適用されることは当然として、その他に、独占禁止法が適用されます。
また、独占禁止法が規制する「優越的地位の濫用」を補完する下請法も、企業とフリーランスとの間で適用があり得ます。
したがって、独占禁止法や下請法によって公正な取引が行われるよう規律する法律が適用されることとなっていました。
そのため、企業とフリーランスとの取引は、実際にはもともと無法地帯ではなかったのですが、これらの法律の適用があまり認識されていませんでした。
そこで、これらの独占禁止法、下請法の適用(+労基法、労組法)を明確にしたのが、令和3年3月に策定された、いわゆるフリーランスガイドラインです。
https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf
何故フリーランス新法が必要だったのか
そうだとすると、「何故新法が必要なの?」と思われるでしょう。
下請法の「下請事業者」には「個人事業者」が含まれるためフリーランスも含まれます。
しかし、親事業者については、取引類型ごとに資本金要件が課されており、最低でも資本金が1000万円を超えていることが必要になります。
したがって、資本金1000万円以下の企業からの発注には適用がありません。
また、下請構造にない業務委託にも適用はありません。
その場合でも、独占禁止法の適用はあるのですが、独占禁止法は要件が抽象的であり実際の適用が難しい場合が多いです。
また、下請法と異なり、独占禁止法上は発注書面の交付を義務付ける規定がなく、これを義務付けることができないという問題があります。
そこで、これらに対応するため、新たな法律としてフリーランス新法が議論されてきたということになります。
厳密には「保護法」ではなく「取引適正化法」
フリーランス新法は、「フリーランス“保護”新法」と呼称されることも多いように思われます。
やや理念的な話ですし、法律をどのように呼ぶかは自由ですが、法律の目的に照らせば、「フリーランス新法」ないし「フリーランス取引適正化法」と呼称する方が正確でしょう。
ちなみに、内閣官房の概要では、「フリーランス・事業者間取引適正化等法案」とされています。
実際の目的条文(第1条)を見てみると、「この法律は、…個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、…特定受託事業者に係る取引の適正化…を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と定められています。
これは、契約自由を修正してまで「労働者の保護」を図ろうとする労働関係法令とは異なっているといえます。
例えば、労働契約法の目的条文(第1条)では「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、…労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」とされ、「労働者の保護」が明確に示されていますが、フリーランス新法にはそのような文言はないのです。
フリーランスを労働者的に保護するのではなく事業者として扱っている
結果的にはフリーランスの保護にはなるのですが、あくまで法律の目的は、発注事業者とフリーランスとの取引を適正化することにあると捉えておくべきでしょう。
つまり、労働者的に保護するのではなく、事業者として扱い、その取引を適正化することを目的としているのです。
そのように捉えると、フリーランス新法の各種規制が意図するところも見えてきます。
次回は、続きとして、あくまで法案の段階ですが、フリーランス新法で変わるところ/変わらないところを確認してみたいと思いますので、次回も読んでいきたいと思います。