トランプ2.0はインフレ2.0~FRBのナローパス~
12月利下げの現状維持織り込みは3割強
11月6日から7日にかけて開催されたFOMCは市場予想通り、FF金利誘導目標を4.50~4.75%へ▲25bp引き下げました。引き下げは2会合連続となります:
パウエルFRB議長は「勝利宣言はしないが、今後数年間、でこぼこ道を経つつもインフレ率が2%前後で落ち着くというストーリーはかなり一貫性がある」と述べ、追加利下げの可能性に含みを持たせていました。
もっとも、周知の通りですが、9月以降は米経済指標で強い内容が相次ぎ利下げの正当性に疑義が生じているのも事実です。弱かった米10月雇用統計についてもパウエル議長はストライキやハリケーンの影響を差し引けば強かったこと、失業率は上がったとはいえ依然低位にあることを踏まえ、労働市場の減速には予断を持てない姿勢を示していました:
その上でコアインフレ率が家賃更新のラグなどを背景として未だ減速に時間を要している可能性にも言及がありました。強弱入り混じる情報発信を受け、本稿執筆時点(11月9日日本時間午前)では12月のFOMCに関しては現状維持を35%程度織り込んでいます:
「9月に始まった利下げ局面は2回の決定を経て一旦お休み」との公算が相応にあり、これがドル/円相場の下支えになっている側面は大きそうです。
問題は2025年以降の話
もっとも、11月利下げは元々100%織り込まれていた既定路線でもあり、12月利下げのスキップについても相応に織り込まれているものでした。
問題は第二次トランプ政権を当て込んだ2025年以降の政策金利をどう読むか、です。既にトランプトレードという名で財政・金融政策が拡張方向で織り込まれているように、米国の物価・金利情勢は上振れするとの見通しが強まっています。それ自体、相応に正当性のある読みではないかということは、下記のnoteでも論じました:
会見においてパウエル議長は「選挙が近い将来に政策決定に影響を与えることはない」と述べていますが、新政権の発足が2025年1月であり、政策執行に伴って経済・金融情勢に影響が出るとすればさらにその数か月先になるでしょう。元々、市場は「選挙が近い将来に政策決定に影響を与える」とは考えていないはずであり、もっと未来の話を織り込んで現在のトレードに落とし込んでいると考えるべきでしょう。
パウエル議長も認めていたように、前年比で見た米金利が上昇していることを考えると、金融環境が緩和方向へ調整される中で景気も復調傾向にあるというのが現状でしょう。筆者は「利下げの終点」が争点化する大まかなタイミングとして来年半ば以降を想定していましたが、その早期化を警戒する向きは徐々に散見され始めています。
「トランプ2.0はインフレ2.0」という難題
前回noteでも議論していますが、実際、次期トランプ政権で予想される各種政策は基本手にインフレ誘発的な性格を有するものが多いです:
にもかかわらず、トランプ氏は金融・通貨政策に関して低金利やドル安への志向を吐露するという支離滅裂な行動を繰り返すことが予想されるでしょう。前回も述べたように、総需要を高める拡張的な財政政策や輸入単価を引き上げる通商政策、労働需給をひっ迫させる移民政策などが相まって第二次トランプ政権下での米国の一般物価はどうしても加熱しやすいはずです(実際にそうなるかどうかはさておき、そう読むの論理的です)。
現時点では「トランプ2.0はインフレ2.0」と解釈しておくのが無難です。肝心なことは、米国の通貨・金融政策はこれらの政策を受けて事後的に決まるに過ぎない、ということです。結局、トランプ氏が低金利やドル安を希望しても実体経済がそれを許すかどうかは別次元の話です。トランプ氏のやりたいことを全て実現すれば、米金利とドルの相互連関的な上昇は発生しやすく、利下げ局面に入ったばかりのFRBはナローパスに追い込まれます。
前回政権の教訓を踏まえれば、トランプ氏の政策運営でインフレが高止まりしているにもかかわらず、パウエル議長がトランプ氏から再三叱責を受けるという滑稽な構図は如何にも予見されるところです。今後、トランプ氏がXなどを通じて低金利やドル安への志向を発信することで金融市場がそれに迎合する取引を行うことも予想されますが、基本シナリオとしては「トランプ氏自身が終わらないインフレの体現者」としてFRBの障害になり続ける可能性がメインシナリオになりましょう。
多くの市場参加者は既に忘れてしまっている事実ですが、パンデックの最中、多額の現金給付に象徴される拡張財政を展開し、インフレの芽を蒔いたのは第一次トランプ政権でした。もちろん、バイデン政権もそれを引き継いだので結局、共和・民主両党がインフレ高進については同罪ではあります。しかし、第一次トランプ政権時代からトランプ氏のイメージはインフレ高進と親和性が高いのは間違いないでしょう。「トランプ2.0はインフレ2.0」でもある可能性を前提にすれば、「利下げの終点」が争点化する時期が筆者想定(25年下期)よりももっと早くなる可能性に構えたいところです。