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FRBはRBAやBOCに触発されるのか?

今週(6月11日週)は日米欧三極の中央銀行(FRB・ECB・日銀)が揃って政策決定会合を開催します:

現状ではFRBと日銀が現状維持となる一方、ECBが+25bp引き上げるというのが金融市場におけるメインシナリオです。敢えて言えば、直近の強い指標を受けてFRBが+25bp利上げを続けるかどうかという点が注目されるものの、それ以外にも6月スキップと同時に7月利上げが明言されるかどうか、FOMCメンバーの政策金利見通し(ドットチャート)で利上げの持続性が示されるかどうかなども注目されます。総じて6月の決定自体よりも7月以降の情報をどう読み取るかの方が注目度は高いでしょう

この点、FOMCがそのようなタカ派姿勢を見せるにあたっては、先週6日にオーストラリア準備銀行(RBA)が、翌7日にカナダ中央銀行(BOC)が利上げをしたことの影響を気にする向きは多いようです(図):

簡単におさらいをしておくと、RBAは6日の会合で政策金利を2会合連続で+25bp引き上げ4.10%にすることを決定していますが、市場予想の中心はあくまで現状維持でした。ロウRBA総裁は声明で「インフレはピークを過ぎたものの、依然として高すぎる」と述べ、インフレ警戒が解除できない状況に言及しています。翌7日のBOCも+25bp引き上げ4.75%にしていますが、BOCは3月に利上げを停止し、その際、「G7(日銀除く)の中銀として初の方針転換」が話題となっていた経緯があります。

声明文に拠れば、労働需給の逼迫とこれに伴うサービス価格の高止まりなどを理由に利上げが支持されています。こうした「簡単には沈静化しないインフレ」を前に主要中銀がタカ派色を強める中、FRBもこれに触発される可能性はないのか、端的には6月はやはり利上げを続けるのではないかという思惑は相応に理解はできます
 
基軸通貨国としての自主性
しかし、一旦利上げを止めて再び復活させるという政策運営は5月31日にジェファーソンFRB理事が言及した通りのものであり、BOCを真似るまでもなくFOMCの抱くアイデアの1つだと考えられます:

FOMCに関し「6月見送り、7月利上げ」という線で見ておくこと自体、高官発言に沿った順当な予想でありますし、市場もそれを期待していると思われます。現時点の市場予想の中心と言えます。

そもそも「周りの様子を見て政策を検討する」ということは基軸通貨を司るFRBに限って考えにくいものです過去の経緯を見ても、他中銀がFRBの動きに追随することはあっても、それはごく稀なケースでしょう。

例えばFRBが利上げ路線に入れば、自国からの資金流出とこれに伴う通貨安、結果としての輸入物価上昇(インフレ)を忌避すべく新興国がこぞって望まぬ利上げ(や自国通貨買い介入)を強いられるという光景は歴史的に繰り返されてきました。逆に、FRBが利下げをすれば、ドル安主導の自国通貨高によって国内の輸出企業が痛みを被らないように、望まぬ利下げ(や自国通貨売り介入)を強いられるという構図も見られてきたものです。

世界の金融政策の方向性を規定するのは往々にしてFRBであり、それ以外にはなりにくいと言えます。結果、為替市場(というか金融市場全体)でも基軸通貨であるドルと、ドルに準じて動かざるを得ない衛星通貨で動きが二極化しやすくなります。

景況感全般についても、米国が他国から大きな影響を受けることはありませんが、他国は米国から依然として大きな影響を受けやすい状況があります。時代と共に中国を筆頭とする新興国のプレゼンスが大きくなっているのは間違いないものの、よほど大きな金融不安(例えば過去には欧州のパリバショックや債務危機など)や地政学リスク(例えば戦争など)が勃発しない限り、FRBが他国の動静を横目に政策運営する筋合いはないでしょう。6月FOMC後の議長会見でBOCやRBAを引き合いに出して質問する記者が現れる可能性はありますが、パウエル議長は一顧だにしないでしょう。まずは、ジェファーソン理事が織り込ませたように、無難に6月スキップ、7月利上げを見ておくことがメインシナリオになりそうです。

金融市場が注目すべきはドットチャートにおける利上げ軌道が本当に7月停止を正当化する内容になるかどうかであり、それが6月会合の決定よりも重要性を持ちそうです。ドル/円相場を見通す観点からは前掲図を持ち出すまでもなく、円と他通貨の金利差があまりにも大きい状況は当面変わりそうにありません。金利に主導されるように円高が進むにしても限度があるというのが筆者の従前からの基本認識でもあります

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