今後に備えるためにも意識したい、キャリアとジョブの違い
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
何度かCOMEMO上でも書いていますが、新型コロナウィルスによる景気後退は戦後つづいていた日本型雇用を大きく変化させる可能性があるとみています。
今一度「日本型雇用」とは何なのかをおさらいしてみましょう。終身雇用という言葉は、1958年にアメリカの経営学者ジェイムズ・アベグレンが著書『日本の経営』(占部都美、ダイヤモンド社。原題『The Japanese factory: Aspects of its social organization』)で「lifetime commitment」と名付けました。日本語版では「終身の関係」と訳されたため、これから終身雇用制と呼ばれるようになりました。また、日本的経営の特徴を「終身雇用」「年功序列」「企業別労働組合」の3つであることをつきとめました。
一方でジョブ型は日本以外の国で広く導入されていますが、おおむね以下のようなものです。
まず、ジョブ型雇用の構造を押さえておこう。職務ごとに、使命、役割や具体的な仕事内容、必要な能力・経験などを明確にしたジョブディスクリプション(職務記述書)をつくる。それに照らし、最も適任と判断した人材を起用する。賃金は仕事の難易度や専門性に応じて決める。
ポイントは日本的な順送り人事や年功の否定だ。その職務をこなすには能力不足であることがわかったり、成果があがらなかったりしたら、難易度の低い職務に配置換えになる。賃金も当然下がる。逆に能力が高く結果を出している人は、より高いスキル(技能)が求められ報酬も高いポストに移る機会が広がる。
ここで指摘しておきたいのは、日本型雇用はキャリアもジョブも一緒くたに「仕事」に含まれていることです。そして、年功による昇給や昇進もあるため、長く務めると管理職になるのが当たり前のような感覚を持ちます。
欧米だと、キャリア(career)は生涯の職業やその分野での経歴全般をさします。日本でも「キャリアを積む」と言いますから、イメージはしやすいかもしれません。ジョブ(job)は具体的な任務/職務を表すもので、基本的にはお金を稼ぐ手段としての労働をさします。なので、副業はside jobと言ったりします。日本語での仕事の意味だとより抽象的な「work」が近いのかもしれません。
管理職というのも明確なジョブです。役職のない人でもその専門性が高ければ、管理職より給与が高いこともざらにあります。まさに職務に対して給与がつくからです。また、専門性を発揮するキャリアパスとマネジメントのそれは別に用意されていることが多いです。
これらの会社には、「Individual Contributor(特定の専門性で業務を遂行する人)」とマネジメントそれぞれのキャリアパスがあって、それとは別に、職位としての階級も決められています。
例えばマネジャーAさんの職位が「5」で、Individual ContributorであるBさんの職位が「6」だとすると、Bさんの方が上下関係としては上ということになるんですね。
でも、AさんとBさんは職種としてのやるべき業務が違うだけので、職位が上であろうと、AさんがBさんをマネジメントすることになる。こういう仕組みの方が健全な評価を生みますし、職種のミスマッチも起きにくいはずです。
いまの日本型雇用だとキャリア採用のように見えても、実際にはジョブをこなしているだけであり、その仕事を通じてスキルがアップすることがない場合もあります。もしくは、その会社でしか通用しないスキルのみが磨かれるというパターンです。しかし、年功で昇給や昇格をしてしまうため、いざ会社の外に出ようと思ったときには非常に困ることになります。
ジョブ型の場合、同じジョブについている限りは基本的に給料は変わりません。たとえ、転職しても、です。だから日々の仕事を通じてスキルアップするようなジョブを選び、給与を上げるためにより上位のジョブを目指す。社内のオープンポジションに募集したり、社外のポジションに応募したりします。
年功による賃金と役職については、特に意識が必要です。男性フルタイム労働者で比較してみます。日本では50代まで大きく昇給が続き、その後一律で降給していきますが、米国では35歳以降ほとんど昇給していませんが、シニアでも降給せずにそのままです。また、役職者比率をみると、20代で役職がつくのは日本で10%未満、米国では30前後で35%。その後、50代では日本はなんと75%が役職についています。米国では35歳以降40%台と一定になっています。全男性雇用者に占める役職者比率でみると、米国が1割程度に対して日本は3割を超えています。
まとめると、
・今後はキャリアとジョブを明確に分けて意識する必要がある
・年功で昇給する時代は終わった。いましている仕事がキャリアになるのか?を考える
・常に自分のジョブの市場価値を意識する必要がある
ということです。
日本でこの流れが進むのだとすると「同一(価値)労働同一賃金」を必ず実現しなくてはならないと考えています。また、就職氷河期世代と若者にターゲティングした雇用保護と社会保障強化と能力開発制度の拡充も必須であると思います(OECDが2008年に指摘していることが、いまだに実現できていない、、、)。現在雇用保険でのみ運営されている公共職業訓練も、民間を巻き込みより実践的なものへと広げ、前述のターゲティング世代には国庫を投入してでも推進すべきです。この話は長くなりそうなので、また機会があれば書こうと思います。
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タイトル画像提供:タカス / PIXTA(ピクスタ)