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リサーチからCEPを発見し、ChatGPTを使ってリスティングのKWを創造する

パソコンが職場に広がり始めたとき、決して自らは試そうとせず、若手社員にパソコンを使った仕事を押しつける年配の上司がいた。

ひるがえって現在、マーケティング関連を含め、生成AIのツールが数多く登場し、急激に進化を続けている。

「使い方がよく分からない」「一度試したけどあまりうまくいかなかった」「もう飽きた」などと敬遠しているようでは、変革を拒絶したかつての頑固な「パソコン使わないおじさん」と同じになってしまう。

「生成AI使えないおじさん」のレッテル貼りを避けるべく、日常業務でなるべく生成AIを使うようにしています。時代に追いつくのに必死です。

最近は「Perplexity(パープレキシティ)」も使っていますが、実は「あんま便利じゃない…」と悩んでいます。使い方が間違っているのかも。使い方を調べようにも、Twitterは「生成AIプロ驚き屋」の情報がヒットしてばかりでゴミカスです。あれ、ほんま何とかならんか。

今回は「自分の使い方、間違っていませんよね?」という確認の意味も込めて、日常業務の1シーンを紹介します。

具体的には、マーケティングリサーチを通じて、CEP(カテゴリーエントリーポイント)を発見し、そうしたCEPに立つ消費者はどのような検索をするのか、ChatGPTに聞いてみました。


CEPを発見する

CEPとは何か。私が日経クロストレンドで執筆したコンテンツで実例含めて詳細に説明していますから、こちらをご覧いただければと思います。

 書籍『ブランディングの科学 新市場開拓篇―エビデンスに基づいたブランド成長の新法則』(朝日新聞出版)において、著者の1人である南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のリサーチプロフェッサーのジェニー・ロマニウク氏は「購買客が購買の選択肢を絞り込むときに生じる共通の連想」として「CEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)」という概念を主張している。
 マニウク氏はCEPを「ブランドとつながっている道の入り口」と表現し、CEPが多ければ道も多くなると解説する。要は商品・サービスの購買の選択肢を考えるきっかけとなる記憶や手がかりがCEPだと言える。シチュエーションはまさしくその一つだ。

では、そのCEPをどのように発見すれば良いでしょうか。先述した「ブランディングの科学 新市場開拓篇」では、次のように説明されています。

 CEPには、カテゴリー内で購買行動を起こすときやブランドを選択する前の購買客の思いや受けた影響が反映される。それは、購買行動の場所(ショッピングセンター)であったり、目的(誕生日のプレゼント)、状況(海辺)、同伴者(子どもと一緒)、ニーズ(気分をリフレッシュしたい)、カテゴリーのコアベネフィット(おやつ)であったりと、さまざまだ。

そして、カテゴリーのCEPを作るためのザックリとした質問として、

・Why?(目的は?)
・When?(いつ使う?)
・Where?(どこで使う?)
・With whom?(誰と一緒に使う?)
・With that?(何と一緒に使う?)

以上5つが紹介されています。私の場合は、これらの質問を織り交ぜたマーケティングリサーチを行い、CEPを発見します。

リサーチプラットフォームは「Freeasy」を使っています。ちなみに、各処で「Freeasy」を連呼していますが、回し者でもインフルエンサーでもありません。金銭的な授受もありません。むしろ、利用料を払ってばかりです。

例えば、先ほど紹介した日経クロストレンドのコンテンツでは、清涼飲料水カテゴリーのCEPを発見するために、文章完成法を用いて以下のような質問を作成し、9,390人からの回答を得ました。

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Q.もっとも記憶に残っている飲み物を、できるだけその瞬間の状況が目に浮かぶように書いてください。


私が飲んでいるのは、(          )だ。
私は、(          )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、(          )という出来事があったから。
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「という状況・場面」は「When?」「Where?」「With whom?」「With that?」を内包しています。また「きっかけ~という出来事」は「Why?」「With whom?」「With that?」を内包しています。

この文章完成法による聞き出しが完璧とは思いませんが、比較的堅牢な部類に入ると勝手に思っています。解答例はこんな感じ。

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私が飲んでいるのは、( 炭酸水 )だ。
私は、( 風呂上がり、運動の時、アルコールを飲んだあと )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、( ビールが好きだが、アルコールが飲めない時があったので代わりに飲んでみたら美味しかった )という出来事があったから。

私が飲んでいるのは、( スーパーのプライベートブランドの緑茶 )だ。
私は、( 通勤ラッシュから解放されて電車を降車した )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、( 混雑した車内での様々なストレスを軽減したい )という出来事があったから。

私が飲んでいるのは、( セブンイレブンのプライベートブランドのウーロン茶 )だ。
私は、( 出社日のお昼 )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、( セブンイレブンで昼食を買って、カロリーが高くて太らないようにしたいと思った )という出来事があったから。

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こうした回答を1件ずつ読み込みます。正確には、3つのカッコ書きの合計文字数が15字以上ある1,534件を読み込みます。

マーケティングリサーチを用いてCEPを発見するための近道は、最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方ーすなわち「調査結果を読み込むこと」に尽きます

全体の2割、今回ならだいたい300件ほど読み込むと、似通った回答をグルーピングできるようになります。今回は1,534件全て読み込み、およそ40件ほどの回答に集約されました。それだけでなく、「1件しかないけど面白い回答」も見つけられます。2つ例を紹介します。

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Q.もっとも記憶に残っている飲み物を、できるだけその瞬間の状況が目に浮かぶように書いてください。


私が飲んでいるのは、( 牛乳 )だ。
私は、( 食事をする )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、( お風呂上がりに飲むより、食べ物と一緒に飲んだ方が美味しいことに気付いた )という出来事があったから。
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アカウントプランナーなら「Got milkかよ!」と突っ込まずにはいられないでしょう。(詳細はこちらから)

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Q.もっとも記憶に残っている飲み物を、できるだけその瞬間の状況が目に浮かぶように書いてください。


私が飲んでいるのは、( ジューサーで絞ったにんじんジュース )だ。
私は、( コロナ禍になり免疫力の強化をすべきと思い、なるべく効果のある物を摂取したいと感じていたので、野菜ジュースを手作りしよう )という状況・場面で、それを飲みたいな、と思った。
そのきっかけは、( にんじんを作っている知人から「うちは八百屋か?」と思うほどの量を送ってくる )という出来事があったから。
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「免疫力を高めたい」という投稿は数件あったのですが、背景として「コロナ禍をキッカケに」「なるべく効果のある物を摂取したい」と明記した投稿はこの1件のみでした。

さて、こうした投稿から、「購買客が購買の選択肢を絞り込むときに生じる共通の連想」「商品・サービスの購買の選択肢を考えるきっかけとなる記憶や手がかり」としてのCEPを作り上げます。

例えば「眠いときにカフェインを飲まなかったら、さらに眠くなり、生産性が落ちてしまった」「特に午後になると眠気に襲われる事があるから」「トラックドライバーだから眠気覚ましが常に必要」などの投稿は「眠気覚ましに」というCEPに収斂されます。


CEPを発見する②

CEPを発見するために行うマーケティングリサーチは、今後ますます需要があると思います。ですので、もう1つ事例を紹介します。

私は今、20冊目の書籍を執筆するために既に何度か調査を行っています。テーマは「自己啓発とセルフブランディング」です。そのテーマの一環で、職場における研修の実態とCEPについて調査しました。

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Q.どのような事態が起きたことが、研修を導入するキッカケになったでしょうか?


当社が研修に取り組むキッカケは、(          )という事態が起きたから。
もう少し具体的に言うと、(          )という状況・場面があったから。
社内で議論して、(          )という問題の解決を期待して、研修の導入が決まった。
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先ほどと同じく、「という状況・場面」は「When?」「Where?」「With whom?」「With that?」を内包しています。また「きっかけ~という出来事」は「Why?」「With whom?」「With that?」を内包しています。

解答例はこんな感じ。

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当社が研修に取り組むキッカケは、( 社員だけでは問題を解決できなかった )という事態が起きたから。
もう少し具体的に言うと、( 協力会社から来ている人たちのほうがスキルが高いことが分かった )という状況・場面があったから。
社内で議論して、( 社員一人一人のスキルの底上げ )という問題の解決を期待して、研修の導入が決まった。

当社が研修に取り組むキッカケは、( ダイバーシティへの注目度が高まっており対応しないといけなくなった )という事態が起きたから。
もう少し具体的に言うと、( 株主や利用者から経営陣が対応についての説明を求められる )という状況・場面があったから。
社内で議論して、( ダイバーシティへの対応 )という問題の解決を期待して、研修の導入が決まった。

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こうした回答を1件ずつ読み込みます。正確には、3つのカッコ書きの合計文字数が15字以上ある2,003件を読み込みます。

ちなみに余談ですが、テーマが「会社」(法人)になると、回答の筆が止まったかのような、奥歯に物が挟まったような文面になります。まぁ、そういうもんだな、と思っているのですが、何か良い回避策をご存じの方いらっしゃれば教えて下さい。

全体の2割、今回ならだいたい400件ほど読み込むと、似通った回答をグルーピングできるようになります。今回も2,003件全て読み込み、およそ20件ほどの回答に集約されました。

例えば「新人が育っておらず会社の未来が危うい」「若手社員の離職率が増えている理由は何かという経営陣からの質問」「昇格したいと考えてる従業員が少ない」などの投稿は「経営陣/上司が若手の成長を感じない時」というCEPに収斂されます。

ところで、CEPの表現は難しく、未だに試行錯誤しています。「購買客が購買の選択肢を絞り込むときに生じる共通の連想」「商品・サービスの購買の選択肢を考えるきっかけとなる記憶や手がかり」なので、なるべく「CEPまま聞かれたらブランドが想起されるような表現」にしています。

例えば、「経営陣/上司が若手の成長を感じない時」というCEPは、その後に「~感じない時に思い浮かべる研修手法、ブランド名」が続きます。

他にも、「眠気覚ましに」というCEPは、その後に「~に思い浮かべるブランド」が続きます。

なるべく端的ながら、何かしらの不満、未充足、ベネフィットが含まれる表現が望ましいのだろうな…というのが所感です。


ChatGPTを活用する

ところで、筆者は研修サービスを提供する会社の執行役員を務めています。作家としての松本健太郎が「研修に関するCEP」を発見したので、執行役員としての松本健太郎が「それ、世の中に公開するまで内緒やと思うけど、先に使わせてくれん?」と声を掛けるのは当然かもしれません。役得です。

CEPとは、要は「行動のキッカケ」であり「行動の先頭」です。そういう場面に立った際、消費者が自社ブランドを思い浮かべて貰いたいのですが、どういった行動を取るかまでデザイン出来ると最高です。例えば、Googleで何と検索するか考え、事前に広告を出稿しておく、とか。

私も40歳を迎えましたから、自分の胸に手を当てて聞いても良いのですが、私は私を1番信用していません(私は社会常識の外れにいるので)。そこで、ChatGPT(ChatGPT 4o)を使います。

このように聞いてみました。

経営陣から「若手・新卒が育っていないという問題意識を持っている」とか「昇格したいと考えている若手が少ないのは何故か」という相談を受け、その解決策を探そうとGoogle検索を使うことになりました。どのようなキーワードで悩みを解決しようと検索するでしょうか?候補となるキーワードを10件表示して下さい。

「若手の成長を感じない時」だけだと結果が不足しそうなので、元ネタである回答結果を混ぜて質問したところ、このような結果が返ってきました。

経営陣の問題意識に基づいて、若手・新卒の育成や昇格意欲に関連するキーワードを選定する際、以下のような検索キーワードが考えられます。

1. 若手育成 プログラム 成功事例
2. 新卒 教育 プロセス 効果的な方法
3. 若手社員 昇格 意欲向上 施策
4. 組織のリーダーシップ育成 役割
5. 昇格希望 少ない 理由と対策
6. 若手社員 キャリアパス 提示方法
7. 新卒 育成プラン 作り方
8. 社員モチベーション 向上 方法 若手
9. 社員定着率 向上 若手育成との関連
10. 若手リーダーシップ育成 企業 成功事例


これらのキーワードを用いて、若手社員の育成や昇格意欲の低下に対する課題解決に役立つ情報を見つけられる可能性があります。検索結果をもとに、具体的な施策や成功事例を参考にすることができるでしょう。

「さもありなん」な結果が返ってきました。「組織のリーダーシップ育成」「若手育成との関連」については「?」と思いましたが、他は解決策として検索してそうだな、という印象を受けました。

ちなみに、私はよく分かっていないのですが、世間ではMarkdownを駆使してプロンプトを書くことが推奨されているようです。ということで、頑張ってみました。

あなたは {## 役割} です。 {## タスク} をよく読み、結果を出力してください。その際、 {## ルール} を守ってください。

## 役割
 - 日本を代表する製造業メーカーの広告宣伝部の中間管理職

## タスク
 - 経営陣から「若手・新卒が育っていないという問題意識を持っている」「昇格したいと考えている若手が少ないのは何故か」という相談を受けた
 - 解決策をGoogleで検索して探す
 - どんなキーワードで検索すれば良いか知りたい

## ルール
 - 出力結果は10例表示してください

このような結果が返ってきました。

以下は、経営陣の相談に対応するための検索キーワードの例とその理由です。

1. 若手 社員 育成 方法
2. 若手 社員 モチベーション 向上
3. 若手 昇格 支援 プログラム 企業 事例
4. 新卒 育成 失敗 原因
5. キャリアパス 若手社員 昇進意識
6. 若手社員 育成 研修 プログラム 成功例
7. 若手社員 昇格 インセンティブ
8. メンター制度 若手社員 育成 効果
9. Z世代 価値観 仕事 意欲
10. 若手社員 早期退職 防止 取り組み


これらのキーワードは、経営陣が抱えている問題に対して具体的な解決策やヒントを得るために、関連する情報を網羅的に検索できるよう工夫されています。

こちらも「さもありなん」という結果が返ってきました。…じゃあ、ゴチャゴチャとMarkdownを駆使してプロンプト書かなくても、シンプルに書けば良いのでは。

ちなみに、双方の結果を見比べると似たような結果には違いないのですが、後者は「解決策をGoogleで検索して探す」「どんなキーワードで検索すれば良いか知りたい」と聞いているのに「新卒 育成 失敗 原因」「Z世代 価値観 仕事 意欲」という結果が返ってきて、私の中の鈴木雅之が「違う、そうじゃない」と言っています。

その点、前者は全て解決策ではあるので(「 組織のリーダーシップ育成 役割」は謎なんですが)、何なら前者の方が精度は良いんじゃない、とも思います。

もちろん、この点だけをもって判断できないのですが、私はあまりプロンプトを作りこまずに、要件をシンプルに伝えることが多いです。


世の中は多能工化する

マーケティングリサーチを通じてCEPを発見し、ChatGPTを使ってリスティングのKWを創造する手法を紹介しました。テックとAIに頼りつつ、精度は60%ぐらいかもしれませんが、全部1人で実現したって凄いですよね。

これは筆者の信念のようなものですが、世の中はどんどん「多能工化」していきます。テックとAIの力を使えば、デザイナー不在でもこのnoteのOGPを作成できるし、リサーチャー不在でも調査を実施できるし、デジタルマーケター不在でもGoogle広告のKWを創造できます。スキルの敷居がどんどん低くなっています。

ここ1年でホワイトカラーの仕事をAIが奪わないでしょうが、10年以内にはホワイトカラーの仕事をAIを使いこなすビジネスパーソンが奪うのではないでしょうか。それに備えておきたいと思うのでした。

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