セルフレンタル移籍のススメ〜ニューノーマルにおけるリスキルもしくは人材育成
先日、9月2日に、日比谷が理事をやっている 一般社団法人 at Will Work 主催で、「ニューノーマルにおける人材育成について」というテーマでオンラインセミナー を開催しました。その時の旬もしくは今後論点となっていくだろうテーマについて、有識者や関連領域で事業を推進されている方をゲストに迎えてレクチャーいただくものであります。
at Will Workという団体は、12月のアワードプログラムと2月のカンファレンスが主たる活動です。それ以外は表立って活動する機会が少ない上に、クローズドな交流会(*)についても、コロナ禍によってリアル開催できなくなってしまいまして。コツコツと発信活動を重ねていく目的と、オンラインシフトを兼ねて、この春からセミナー配信の機会を増やしております。
(*)昨年までは、パートナー会員向けの交流会や、HRTech領域のスタートアップや有識者を集めたメディア向け勉強会を開催したりしましたが、いずれもクローズドな会でした。
この企画&進行&配信は、日比谷&優秀な事務局メンバー2名だけで賄っており、初回はシステムトラブルなどもあって反省点の残る内容だったものの、その後は滞りなく進行できるようになってまいりました。
ので、運営はチームにお任せし、自分はテーマ設定や構成設計、事前の予習に時間をとれるようになってきたこともありまして。先日開催したセミナーの内容を振り返りつ、学びを書き留めておこうと思う次第です。
リスキルが大事になってくるが
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によって企業の研修、教育のあり方は大きく変わっています。また、近年社会人の学び直しの時間が減ってきており、その環境を会社が用意すべきとも言われています。
そもそもコロナ禍を迎える以前にも、産業構造の変化に伴う「リスキル=学び直し」の重要性は語られており、年始に開催されたダボス会議でもアジェンダの一つとなっておりました。
『リスキリング革命』は、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブです。この実現に向けて世界経済フォーラムでは、プラットフォームを構築。
(略)
わが国においても、経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ちあげ、厚生労働省の「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」と連携して助成金を出す仕組みをつくり、これからの時代に必要な新しいスキルの獲得を支援しています。
今回のダボス会議での発表を見ると、こうした社会や産業の変化に対応した人材再教育が、世界的にも大きな問題となっており、かつ、具体的な取り組みが広がっていることが、よく分かります。
ここでは、社会の変化に対応するための「学び直し」は、個々人に任せるだけでなく、社会の責務として行政なり産業界が支えるべきだと謳われています。経団連からも、「学びと成長を促す環境整備」は企業の責任であると発表されています。
(セミナーにおける日比谷投影スライドより)
企業は、働き手の成長を促すため、情報提供やエンゲージメントの改善、HR Tech(注)の活用などさまざまな支援制度の整備を進めることが肝要である。
テクノロジーの進化によるライフスタイルの変化にともなって、ビジネスのあり方も劇的に変わっています。さらにコロナ禍を経て、よりその変化が加速し、また適応せねばならないと言う実感は、みなさまお持ちではないでしょうか。
こんな環境の中で、過去に学んだことだけでやっていこうというのは無理な話でして。どう変わるのか?どうやってキャッチアップしていけば良いのか?という議論は、私の周りでも日々議論されております。
リスキルは社会の責務でもある
今まで、、私が関わることが多いスタートアップや新産業領域の界隈では、新しい時代を迎えるための成長機会の獲得は自己責任であり、その投資をできるか否かで、成長ひいては社会的地位なり経済的安定を獲得できるのである。しかしそれは自己責任なのである。というマッチョな論調が多かった印象です。
が、個人に任せていては社会を支える人材は不足するし、格差も広がってしまうわけで、社会、、つまりは行政や企業がさせる必要があるという論調になってきているわけです。
働きながら職業訓練を受け、独立や転職する動きがもっとあっていい。外に出て行くかもしれない人材の教育に企業が積極投資するのはなかなか難しい。だからこそ国が支援をして、スキルを高める機会を提供していくことが重要になる。(柳川氏)
企業からすれば、学び直しの環境を提供できるかどうかで、人材獲得および変化適応力に差がついてしまうということでもありますね。
見逃せないのは、リクルートの社員の多くが「会社はずっといる場所ではない」と考えていることだ。実際に同社で定年まで在籍した人は、60年に及ぶ歴史の中でわずか13人にすぎないという。
会社が「いつかは巣立つ場所」なら、独り立ちの時に備えて、社外でも通用するスキルや実績、人脈を築こうという意欲が高まる。それが次のイノベーションにつながる好循環が定着した。
進化する「学び直しの方法論」:レンタル移籍
その中で注目されているのが、社員の「レンタル移籍」。数年前から注目され、現在はオンラインに対応しながら人材の成長の機会を提供しています。
今回のセミナーでは2016年からレンタル移籍事業を手がけているローンディル社の原田社長にお話を伺ったのですが。彼らは主に大企業の人材をスタートアップに「レンタル移籍」させており、この5年間で約100名ものレンタル移籍をアレンジしたとのこと。詳細は割愛しますが、運用に乗せるためには様々な試行錯誤を積み重ねているとのことで、この数年は安定的に稼働しているようです。
(セミナーにおけるローンディール原田さん投影スライドより)
お話を伺う中でポイントだと感じたのは「ニーズの変化」です。創業当初は新規事業部門や経営企画部門などから、事業促進目的での依頼が中心だったとのことですが、ここ数年では「人材育成」を目的とした人事部からの依頼が増えているとのこと。様々な環境変化に対して自律的に対応できる人材を育てるべく、スタートアップへの「レンタル移籍」を選択する企業が増えているというのです。
また、ただ移籍して異なる環境での生活を送るだけでなく、座学やフォローアップなども交えた教育機会を設計するケースも増えているとのこと。
レンタル移籍は座学の研修とは全く違い、本気で事業に向き合わないといけない場です。そのため、レンタル移籍者のマインドセットが非常に大切になります。座学とセットで研修を行い、学んだことをレンタル移籍先で実践するなど、体験的にまた知識的に両面で研修を行う企業もあります。(原田氏)
私自身は新卒入社から4年ほどの短い期間でしたが、(そうは見えない!とよく言われますが)いわゆる通信系大企業グループで勤務していたこともあり、当時の同僚たちとはいまだ親交がありますので、大企業におけるカルチャーやスピード感とスタートアップにおけるそれの違いは体感的に分かります。昨今では両方の世界を行き来する人が増えているとはいえ、大企業で働いてきた人が突然スタートアップの世界に飛び込んだら、相応の刺激なりショックや学びを得られるだろうとは思います。
スタートアップとしては、いきなり現場投入されてきた移籍者を「お客様」として扱ったり、「体験入学」的に受け入れて研修の相手をする余裕はありません。必然的にOJT、、というと聞こえが良いですが、未知の領域でいきなりトップギアで業務に当たらねばならない環境は、スキル的にもメンタル的にも鍛えられそうです。
人は短期間でどこまで変化適用できるのか?
実は私はこの半年間、ローンディールのプログラムでレンタル移籍している方のメンター役を担当しております。詳細は割愛しますが、担当の方と定期的に1on1を実施し、レンタル移籍中に発生する様々な事件に対する解釈や判断にコメントしたり、併せて生じる疑問や悩みをじっとお聴きするなど、、伴走者として寄り添う役割であります。業務内容について詳細をお聴きしたり、一緒に問題解決をすることは求められていないので、ただただ人に向き合うスタンスです。で、担当させていただいている某大企業の方を見守り続けるうちに、その方がどんどん変化していくのを目の当たりしておりまして、「ああ、ここまで短期間で人は変わるのか」と実感しているところです。
もちろんその方の適応力、環境、業務内容等々の組み合わせによって、生じる変化の内容やスピードは変わってくるのだとは思います。が、、様々な未知の業務、猛スピードで変化する事業環境、目の前で起こるいわゆるハードシングスたち、一筋縄ではいかない人間関係などなどを乗り越えていくうちに、仕事への向かい方や、企業や事業への理解、取り巻く人たちへの向き合い方や巻き込み方などが変わり、またそれを自覚的に受け止めて乗りこなすようになっていく様子を拝見していると、「ああ、ここまで短期間で人は変わるのか」と感じるわけです。
私なりに解釈するに 1、能動的に「変化に臨み、そこから吸収しよう」というマインドセット、 2、変化に飲まれてもみくちゃになっても見守って支える体制、 3、いざとなったら戻れる環境が用意されている、 4、変化を成長に昇華できそうな人材が選ばれている などいくつもの要因が重なってのこととは思いますが、、しかし「レンタル移籍」は一定の効果があり、今後もニーズが広がっていくのではないかと感じる次第です。
セルフ「レンタル移籍」の場を探そう
昨今、複業やパラレルワークが注目される中で、そのメリットの一つとして「異なる世界に飛び込んで切磋琢磨することで、変化適応力が養われる」点が挙げられますよね。冒頭に引用した記事等でも「変化適応」「リスキル」が繰り返し挙がっております。
コロナ禍もあって、活動の場が制約を受ける中、異なる世界に足を踏み込む機会も減っているわけで。尚更、能動的にコンフォートゾーンから飛び出し、変化を取り込んでいかないと、成長機会をとり逃してしまいそうです。また、企業や組織に属していたり、周囲が機会を提供してくれる環境にいればまだ良いですが、個人に近い形で活動している人は、自分で自分の背中をおして、成長機会を設けないといけないわけで。
でも、言うは易しで、そう気軽に違う世界に飛び込めるわけではありません。また、社会や企業が「学び直し」の機会を提供する世の中になっていくのは悪くなけれど。その方法論はまだまだ発展途上だし、取り組む内容や規模、スピード感は、企業によってまちまちで。まだまだ自分で準備しないといけないんじゃないでしょうか。
前回も書いたけど、複業希望者が増えているのもそんな世の中の動きを反映しているのかもしれません。
また、ちょっと支援させてもらっている会社の中で、「複業マッチング事業」を手がけている会社があるのですが、このコロナ禍を経て複業希望者の登録が伸びており、並行して「複業就業者」の受け入れ企業も増えているらしいんです。
先行きの見えない労働環境において、選択肢を増やすためにも自分で道を切り拓かねば、という方が増えているんでしょうか。
そんなわけで、一つご提案したいのがセルフ移籍・スポット移籍、への挑戦ですかねぇ。先に挙げた 「変化に飲まれてもみくちゃになっても見守って支える体制」を用意した上で、様々なことに挑戦してみてはいかがかと。
移籍先の探し方やその注意点などは色々なサービスや考え方があろうかと思いますが、、だいぶ長くなってしまったので、今回はひとまずここまで。
次回は「変化に飲まれてもみくちゃになっても見守って支える体制」をどう整えるか、、についてまとめてみようかなぁ、と思っております。
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