残業規制で賃金はどの程度減るのか?
シリア攻撃や米朝首脳会談、そして内政上の各種スキャンダルに紛れて殆ど報じられていませんが、一応、4月最重要法案とされる「働き方改革法案(複数の改正法が束になっていますが、一言でこう呼びます)」が閣議決定されました。
実体経済を見通す観点から注目されるのはやはり残業規制により減少すると言われている賃金部分の影響です。それ自体が大いに問題であるわけですが、とりあえず事実として「生活残業」をしている層は決して小さくないと言われる本邦において果たしてその影響はどの程度なのか、簡単な統計資料から数字を想定してみました。要点は以下の通りです:
・2018年度春闘を前に安倍晋三首相が「社会的要請」という踏み込んだ表現で「3%」の賃上げを求めたのも残業代減少という副作用を念頭に置いたものと思われる
・残業規制のインパクトについては諸々の試算が錯綜しているが、政府の想定として4兆~5兆円という規模感が報じられている 。過去に一部民間シンクタンクの推計として8.5兆円という数字が報じられたこともあったが、これは恐らく過大、
・残業規制の影響はラフに「残業代の30%カット」もしくは「雇用者報酬の約2%カット」と言い換えられる可能性
・14年度の消費増税は実質雇用者報酬を約3.5兆円押し下げ、この結果、実質個人消費は2.7兆円減少したという。政府想定の「4兆~5兆円」は金額だけを見れば、2014年度の増税以上の影響ということに。
・残業規制で企業にとっての単位労働コスト(ULC)は減少するように思われる。しかし、理論的には規制導入によって生産性がどう変わるかに依存してくるはず。※ULCは「名目雇用者報酬÷実質GDP=1人当たり名目雇用者報酬÷1人当たり労働生産性」。
・残業規制の結果、企業が社員に支払う賃金が総額で減少しても、生産性が逆に大きく下がるとすれば、上述した定義式に従えばULCが上振れることもありえる。
・そもそも残業時間という「量」の規制を目的化することは本末転倒。因果関係で言えば、生産性上昇という「原因」があり、その必然的な「結果」として残業時間の短縮が期待できる。そこで初めて実質賃金という「質」の上昇と残業時間という「量」の減少が併存する。
・2016年半ば以降、所定外労働時間は増勢に転じており、これが規制導入でどう変わってくるかが注目される。
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