ブレグジット・トリレンマ【現状理解のコツ】
ブレグジット交渉が難航していることは承知していても、もはや仔細にそのプロセスを把握できている向きは少ないのではないかと思われます。こういった時は Q&Aで論点整理を行うとすっきりしやすいと思いますので一通り纏めてみました。
ブレグジットを6つのQ&Aで整理、完全離脱は「迷宮入り」か
https://diamond.jp/articles/-/193424?page=7
目先、到来する注目の日付は2/14、2/26、3/20-21 といったところでしょうか。瑣末な点を挙げればキリがなく、枝葉末節にこだわって全体像が見えなくなってしまいます。現状理解のための「コツ」というか「ツボ」は本交渉がトリレンマとも言うべき無理筋な状況に陥っているという現状認識です。
足許、各ステークホルダーが譲れない重要な論点を並べると、①英国一体としての離脱、②ハードボーダー回避、③英国の単一市場・完全同盟からの離脱(それによる独自の通商政策復活)です。しかし、これら3つが全て成立することはないというトリレンマが存在します。例えば北アイルランドの英国帰属を確保する限り、ハードボーダー復活か独自の通商政策を諦めなければならなりません。しかし、北アイルランド民主統一党(DUP)の閣外協力を仰いでいるメイ政権は同党が嫌がっているハードボーダー復活という選択肢は取れません。メイ政権が 17年6月の総選挙で勢力を失っていなければ、ある程度の突破口は残ったかもしれませんが、それももう後の祭りです。もはや 「誰かが諦めなければ事態の収束はない」という状況にあることは恐らく英政治家にも分かっているはずですが、どうにも引っ込みが付かないという厄介な雰囲気に包まれてしまっています。
現状、こうしたトリレンマにおいて、とりあえずは③を諦めて場を凌ごうとしたのがバックストップ案を含む協定案です。バックストップとは2020年末の移行期間終了時、英国とEUの新たな貿易協定が締結されず、移行期間の延長もなかった場合、アイルランドと北アイルランドの国境を空けておくために発動される安全策のことです。分かりやすく言い換えれば、「物別れに終わった際、済し崩し的に国境が発生しないための約束」です。その内容はコラム本文をご参照ください。バックストップ案は①と②を得るために③を諦めるような建付けになっています(裏を返せば、③に拘泥する人々が怒っているのが現状)。
こうした枠組みに照らせば分かるように、誰かが自身の立場を大きく譲歩して、各ステークホルダーの勢力に大きな修正が出てこない限り、事態が打開されることは難しいと思われます。ノーディールだけは避けたいというのが全関係者の共通認識ですが、そのためには願わくば、今回の事態を招いた英国の政治家から大人の対応を期待したいところです。そもそも「再交渉はしない」というのが離脱協提案の約束であり、EUから何かを期待するのは筋論として通らないという状況はあまりにも分かり易いものです。
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