分析資料と、分析っぽい資料の違いについて。
僕は広告会社で働いているが、職種としてはコンサルに近い。
お客さん(クライアント)のブランドづくりや、事業開発のお手伝いをしている。
そんなコンサルという仕事には「フレームワーク」が欠かせない。
フレームワークは汎用性が高く、どの企業、どのブランドにも当てはまるようにできている。
それを活用することで、
・課題を可視化できたり
・課題を整理できたり
・進むべき道が見えてきたりする。
その中でも、分析のフレームワークにはたくさんの種類がある。
・PEST分析
・SOWT分析
・4P分析
・4C分析
・5Forces分析
これらはほんの一部で、僕も知らない分析方法はきっとたくさんある。
きっとたくさんあるが、僕は新しいフレームワークをあまり使わない。
結局、基本的な3C分析で事足りることが多いし、何よりフレームワーク好きになることは最も危険な傾向だからだ。
今日はそんな話。
■最小単位の3C分析
僕がよく使う3C分析は経営コンサルタントの大前研一さんが、1982年に著書の中で紹介したもの。
歴史も古くて有名だから、コンサルじゃなくても、社会人じゃなくても知っている人は多い。
3C分析はシンプルで、
どんな商品をつくったらいいだろう。
どんなブランドをつくったらいいだろう。
どんなビジネスをはじめたらいいだろう。
そんな悩みに対して
・Customer(顧客)
・Competitor(競合)
・Company(自社)
これらの3つの視点考えましょう、と提唱するものだ。
僕が3C分析を好む理由の1つに、この「3」という数字がある。
3人いれば社会がはじまる、という表現もあるように、三角形は図形の最小単位だし、スリーピースバンド(3人編成のバンド)だって、最も小さいバンドの単位だ。
つまり3という数字は常に「必要最小限であること」を示している。
PEST分析やSOWT分析には4つ以上の視点が必要なのに対し、3C分析は3つだけでいい。
顧客、競合、自社、この3つがビジネスの最小単位とも言える。
新たな視点を増やして複雑にするより、この3つと向き合うことが何よりも思考を深めると考えている。
■分析にも棚卸しにもなっていない「分析風」の資料
そんな3C分析でも、注意点がある。
「分析っぽい」で終わってしまう、という現象だ。
そもそも分析は万能薬ではないし、分析して答えが出るとは限らない。
ただ、せめて答えに近づかなければいけない。
分析した結果
「○○すべきだ」
まではたどり着けなくても、
「○○の方向に勝ち筋がありそう」
くらいまではたどり着きたい。
ただ、世の中には一定数「分析っぽい」で満足してしまう人がいる。
びっしりと文字が書かれた資料を作って「あとはご自由に」と言わんばかりの表情で立ち去ろうとする。
そういう資料は大抵、分析にも「棚卸し」にもなっていない。
棚卸しとは、今ある事実をなるべく漏れなく網羅することで、それはそれで「洗い出す」という機能を果たす。
しかし「分析っぽい資料」は今ある事実を、適当に切り取って羅列しただけで、答えにも近付いていなければ、棚卸しにもなっていない。
そんな「分析風の資料」を見せられて、「で?(どうしたらいいの?)」と感じた経験者は、少なくないのだろう。
ちなみにこの「(何も言ってない)分析風の資料」という問題は、3C分析以外でも起こり得るが、3Cの場合は視点の数が少ないため、その粗が出やすい。
資料に視点(書く欄)がたくさんあれば「仕事している感」を出せるが、それが3つしかないと、分析のシャープさを求められる。
そういったプレッシャーを自分にかける意味でも、3C分析は有効だ。
では、具体的にどんな資料が「分析風の資料」なのだろうか。
■差分を把握する
Googleで「3C分析」と画像検索をすると、いろんな形の図が出てくる。
当たり前だが、どの図にも顧客・競合・自社と「3つの枠」があるが、その形式は様々だ。
これらが「分析」なのか「分析風」なのかを見極めるとして、こんな視点がある。
・視点の並び
・視点同士を結ぶ矢印
の2つだ。
例えば以下のような分析資料があるとする。
この資料では真ん中に「競合視点」が配置されているが、制作者に「なんで競合を真ん中に置いたんですか?」と聞いてみよう。
その際に「なんとなく」という回答が返ってきたら「分析風」の疑いが強まる。
次に同じような形の以下の資料があったとする。
先ほどとは並びが違うのと、それぞれに矢印が引いてある。
この資料は、顧客を真ん中に配置し、両サイドに自社と競合を配置している。その上で、自社と競合を比較していることが矢印の存在でわかる。
つまりこの資料からは
1.そもそも顧客のニーズは何か
2.その中で自社が拾えているニーズは何か?
3.逆に競合が拾えているニーズは何か?
という3つの機能を果たそうという意思が感じられる。少なくとも、自社と競合の差分を明確にし、伸ばすべき点、補う点の検討に入れるだろう。
それに比べて前者の資料はどうだろう。
一見「分析風」ではあるが、今ある事実を適当に切り取って羅列しただけ、になっている可能性が高い。
もちろん上記はほんの一例で、3C分析に正しい並びや構造はない。
しかし同じような見た目をしていたとしても、その資料が「答えに近づこう」という意思のもとに作られているか、「とりあえずやっておこう」という意図のもとにつくられているかは、細部で判断できたりするものだ。
■フレームワークの危険性
フレームワークは便利だ。
しかしフレームワークには危険性も潜んでいる。
先ほどのように同じフレームワークでも、機能を果たすか果たさないかは使う本人の思考量次第だったりする。
なぜこのフレームなのか?それを考えずに使う度に、本質はどんどん失われ、逆に形だけが残っていく。
文字通り、フレームワークとはそういうものだ。
それはつまり、自分の思考力が失われていくということでもある。
コンサルとフレームワーク。
切っても切れない関係性ではあるが、フレームワークに支配されると結局自分の職を失うことになるかもしれない。