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気候変動、科学、メディアに社会がどう向き合うかを問う痛快コメディ映画〜「ドント・ルック・アップ (Don't Look Up)」

ネットフリックスの新作映画「ドント・ルック・アップ (Don't Look Up)」が12月24日に公開されたということで(一部劇場では12月10日から公開)、早速観てみました。2時間18分と長時間ではあるものの、レオナルド・ディカプリオ、メリル・ストリープなど知名度の高いハリウッド俳優が多数登場していること、そして『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『バイス』などの作品を手掛けてきたアダム・マッケイ監督による作品ということで、飽きることなく、楽しくも、そして気候変動、科学、メディア、社会についても考えさせられる意義ある作品、と思える内容でした。

彗星が地球に6ヶ月後に衝突しそうであることを発見したとしたら?そして、誰も気にしていないとしたら?

映画のストーリーはレオナルド・ディカプリオ演じる天文学教授と、ジェニファー・ローレンス演じる教え子で博士過程在籍中の研究者が巨大な彗星を発見するところから始まります。計算で導き出した分析によると、直径9kmのエベレストと同等の大きさの巨大彗星が約6ヶ月後に地球に衝突し、甚大な被害をもたらす規模のものです。

2人はこの地球滅亡の危機に広く注目を集めようと奮闘するものの、メリル・ストリープ演じる米国大統領やジョナ・ヒル演じる大統領の息子の補佐官は真剣に受け止めず、TVトークショーに出演するものの真剣に受け止められない様子が風刺的に描かれてます。

映画の中では選挙や利権に縛られ自分の都合で現実を否定する政治家、利益を優先するシリコンバレーの起業家、視聴率やソーシャルメディア上の評判を気にする新聞社やテレビ局のメディアが皮肉交じりに描かれてます。特に科学的なデータや真実を伝えようとしても陰謀論や社会の分断によって社会とのコミュニケーションが機能していない状況が現在のアメリカ社会の写し絵のように生々しく描かれてます。

直接的に気候変動問題を描いている訳ではないものの、アダム・マッケイ監督は過去数年間の気候変動問題に対する多くの人の無関心や政治的分断の状況を見つめながら、この「不条理コメディー・ホラー」と称する作品の着想を得たそうです。かつて『バイス』を撮影していた頃に国連が気候変動に関する報告書を発表し、その報告書があまりにも衝撃的で2、3日眠れなかったとも語っています。

長年気候変動の研究や報道に関わってきた専門家の何人かは、エンターテインメントや笑いを通じて気候変動問題に興味を持ってもらう手法として、今回の作品を「気候変動を扱う素晴らしい映画」と高く評価しているようです。

求められる気候変動対策に対する情報、メディアの取り組み

2021年を振り返った際、国内でもNHKの朝ドラで気象予報士が主人公の「おかえりモネ」、TBS/Netflixで放映されたドラマ『日本沈没』などが放映され、自然災害の増加、COP26開催、カーボンニュートラルに向けた国や企業の数値目標や取り組みの発表が相次ぎ、気候変動問題を考える機会が今までになく増えていることを感じる一年でした。

一方で「ドント・ルック・アップ」で描かれているように、大手メディアでの気候変動対策に関する報道量やその深みに関しては十分ではないのでは、という思いを強く感じます。

海外でも気候変動問題、またそれらを扱うメディアも少ないと指摘されてますが、国内と比較するとそれでも数多くのメディア、映画、ウェブサイト、ニュースレター、ポッドキャスト、スタートアップ、コミュニティが生まれている、と感じます。

今回の「ドント・ルック・アップ」を観て改めて気候変動をテーマにしたメディアキュレーションの可能性を感じる機会となりました。2022年の個人的な目標として、国内外の気候変動・脱炭素関連のリサーチ、メディアキュレーションに取り組んでみたいと思ってます。

Photo by NASA on Unsplash

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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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