再エネに優しい政策が、再エネ事業を成長させる・・とは限らない。
このnoteでも、違う媒体への投稿でも、GX実行会議でも、私は繰り返し、再生可能エネルギーの導入支援制度である「全量固定価格買取制度(FIT)」を批判してきました。
それは、決して再生可能エネルギーの導入に否定的だということではありません。むしろ、自ら創設した会社では、「健全な」再エネ事業者の方たちの支援もしています。
ただ、過保護な親が子どもの健全な成長を阻害してしまうように、過剰に「優しい」政策は、その産業の成長を阻害してしまうことを指摘しています。
再エネFITの問題は最近ではこちらの原稿にまとめたので、よろしければご覧ください。
FIT制度10年の評価と検証 – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute (ieei.or.jp)
FITの成果として、日本は太陽光発電導入量世界3位の再エネ大国になりましたが、導入量以外は惨憺たる結果です。FIT賦課金は2.7兆円にまで膨らみました。一般家庭が負担する賦課金年間1万円を超えています。
それなのに太陽光関連の産業育成は完全に失敗に終わりました。太陽電池メーカーは国内からほぼ姿を消してしまいました。
森林を切り拓くメガソーラーは地域環境を破壊し、再エネ導入に制限的な条例を設ける自治体の数は2022年9月時点で約200か所にのぼります。
FIT制度が作られたことで、利益に目ざとい事業者が参入して太陽光バブルが発生しましたが、そうした利にさとい事業者は儲けが薄くなればさっさと撤退するものです。そもそもエネルギー事業と思っておらず、投資案件だと思っているから、切り替えもスムーズ。
エネルギー事業と言うのは、大きく儲かるべきものではなく、薄利多売の商売であり、そうあるべきなのです。ただ、制度設計を間違うと、そう考えない人たちが参入してきてしまうのです。
政府はまた、屋根置き太陽光発電の電気を高値で買い取ることを検討しているようです。
企業の屋根置き太陽光、高値買い取り 平地より2〜3割高: 日本経済新聞 (nikkei.com)
森林を切り拓いて太陽光発電をすることは、本来あるべき姿ではなく、建物の屋根上や工業・商業施設の駐車場のカーポート屋根など、需要場所(電気を使う場所)に近い空きスペースを徹底的に活用することは私も以前から主張してきたことですが、この買取制度は本当に必要なのかどうか、慎重に議論されるべきではないかと思います。
というのは、電力会社の発電コスト(火力発電の燃料費などが上昇して、電気代が上がっているのは皆さんご承知の通り)が上昇しているので、屋根置き太陽光発電が発電した電気を「自家消費」するインセンティブが高まっています。屋根上で発電した電気をそのままそこで消費するわけです。
自家消費が促進されれば、わざわざ系統(電線)を使って売電する必要はありません。屋根上に設置する太陽光発電が相当の価格競争力を持ってきたので、「自分の電源としての再エネをいかがですか?」というビジネスが育ちつつあったのに、またFITで買取するとなるとそうしたインセンティブを奪うことになりかねません。
法人自家消費の場合、発電余剰が出ないように規模を抑えて太陽光を入れていることが一般的であり、屋根のポテンシャルを活かしきれていない、という問題意識かもしれません。ただ、色々と創意工夫が生まれているところに、インバランス特例があるFITで余剰電力を一定額で引き取りますよ、を加速することになるので、せいぜい地上設置と同額で良いのではないかと思います。
いずれにしても、「再エネに優しい施策」が、再エネの健全な育成を阻害してしまうことは、これまでのFITで十分経験しました。この制度は本当に必要なのか、導入するのであればいくらで買い取るのか、産業を健全に育成するという観点で議論してほしいと思います。バブルが起きて弾けてしまうようなことにはすべきではありません。