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聴くことの、なんと難しいことよ

この1ヶ月の記事を振り返ると、「聴くこと」について書いているものが、たくさんありました。その背景には、会社組織において、上司と部下の1 on 1を行う機会は増えていることがあるのでしょう。オンラインの働き方が広がることで、信頼関係を築くことに、より効果的なスキルが求められるようになったという背景もあるでしょう。価値観の違う上司からの、暗黙の前提を持って行い続ける助言は、もしかすると逆に信頼関係をどんどん失わせてしまうことになるかもしれません。自戒を込めて、「聴くこと」について考えたいと思います。


守ってやるよ、と言う勇気

次の記事は、「比較的余裕のあるなかで話を聞くと、相談者は『表現欲求』と『共感確認欲求』の2つを満たすことができます」と紹介しています。表現欲求は、自分の苦しさを表現したいという気持ち。共感確認欲求は、つらい状況を分かってほしいという気持ちと言います。

この記事で面白いのは、勇気づけるメッセージには、「守ってやるよ」系メッセージと「がんばれ系」メッセージがあって、この使い方を間違えてはいけないということを詳細に語ってくれているところです。
当然、重要なのは「守ってやるよ」系メッセージになるのですが、そのためには、勇気づける側にも勇気が必要だと言います。「相手を弱くしてしまうのではないか、相手がこのまま行動を変えなくなるのではないか、こんなことを言うと自分が全ての面倒を見なければならなくなるのではないか、などの不安が生まれてくる」と言います。さらに、「自分の立場を弱くしたくない、頼られるのも困る」ということもあるだろうと。
続いて、「でも、ここはなんとか理性で乗り越えて『守ってやるよ』系を伝えてあげてください。すると、相談者の心に変化が現れます。喉が渇いている人に、いくら仕事の話をしても耳に入りませんが、水を飲ませてあげるとその人は満足し、仕事のことを考えられるようになる。いつまでも水を欲しがるわけではありません」と、傾聴の力を信じるように勧めます。

子どもの「聞く力」、育てるのは親の傾聴

次の記事は、子どもの聞く力について書かれています。学校で先生の話をきちんと聞けてない、という困りごとを考える記事です。「早熟脳」と「晩熟脳」の違いが自己管理力の差に表れ、その差が「人の話を聞けるかどうか」にもつながっていると分析しています。つまり、子どもが人の話を聞けないこと自体は、その子の問題ではないということです。

とは言え、どのようにこの状況に対応すべきか、ということへの処方箋も、この記事は次のように示してくれています。「これらの特性を持つ子が教室で人の話を聞けるようにするには、家庭での何気ない対話が最強のトレーニングになる。大事なのは家庭での雑談だ。楽しい雑談によって言語能力が伸び、子どもの話に『共感して聞く』親の姿勢が子どもの話す力と聞く力を伸ばす。また会話にゲーム要素を取り入れると、聞く力と短期記憶の両方が鍛えられる」と言うのです。

いつも一緒にプロジェクトや大学の授業をやっている、私がもっとも信頼する心理カウンセラーは、いつも言っています。「人は、傾聴された経験がないと、傾聴することができない」、と。傾聴されたことのない連鎖が続かないよう、まずは子どもの話を共感して聴くことをめざしてみるといいかもしれません。そのためには、忙しい毎日の中で、生産性とか効率をいったん忘れて、イマココに居続けることを意識することが求められるでしょう。

傾聴は、応援する姿勢

会社の話に戻りましょう。次の記事では、若年層の支援に関わる事業を推進する30代起業家に、若手社員への関わり方を尋ねています。

記事の中では、「会社で『困っています』と相談されたときに、いきなり解決策を提示して終わっていないか。困っている背景を聞くといい。人間関係が悪い、家族の体調不良で早く帰らないといけないなど様々な事情がある。上司が傾聴し応援する姿勢を示す。自分にできることはないかと聞いてみるのもいいだろう」と語っています。さらに、「応援の姿勢は若い社員の『やらされている』という意識を変える。『こう働きたい』とか『こんな風にお客さんとかかわりたい』といった姿勢を引き出す可能性がある」と加えます。

最初の記事の「守ってやるよ」という立場から、「応援する」という、相手と目線の合った表現に変わっているのが印象的です。

最高の仲間になるために

最後に、大和ハウス社長が若手読者に投げた「問い」を紹介したいと思います。その問いは、「最高の仲間になるために、大切なことは何ですか?」というもので、多数の投稿があったとのことです。

これら投稿の一つを取り上げ、芳井社長はこう言います。「『不完全さを隠さない勇気』は、自分の弱さを共有してもらえば、組織全体にプラスとなり、自分も成長できるという指摘です。私は部門のトップだったころ、部下によくこんな質問をしました。『自分のダメだと思うところはどこ?』。本人がコンプレックスに感じていることはその人の特徴であり、組織の中で逆に武器になることもあります」と。

これら一連の記事を味わうことで、「聴くこと」は、相手をやる気にさせるためのものではなく、同じ目線で応援することであり、そして究極的には「最高の仲間になるため」のものなのだ、という気づきを得ることができました。

そして、聴く力を育てるためには、その人の話をしっかりと傾聴すること。この傾聴の連鎖をつくることが、経営者としてやるべき、もっとも重要なことだという想いを新たにしました。

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