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ただ「生産性を上げろ」と言うだけでは、労働生産性が決して高まらない理由。中長期的かつ本質的な解決を。

皆さん、こんにちは。今回は「労働生産性」について書かせていただきます。

労働生産性の向上は、組織やチームにとってだけでなく、個人にとっても非常に重要です。
同じ仕事をするのに、3時間かけるのと1時間で終わらせるのとでは後者の方が良いですし、労働者1人あたりが生み出すアウトプットレベルも低いより高い方が良いに決まっているからです。
また、管理職やリーダーの立場からすると、いかにチームが生産性高く働ける環境を構築するかは、避けて通れない課題になるはずです。
 
実際に、どんな方法で生産性を向上させることができるのでしょうか。
具体的に考えていきます。

■日本の労働生産性はなぜ低いのか

日本の労働生産性は先進国の中で最低であり、その状態が長く続いています。そもそも、なぜ日本の労働生産性が低いかと言うと、

  • 長時間労働(結果よりも過程を重視し、労働時間の長さで評価する)

  • 一つの仕事に携わる社員数が多い(社員数を増やすことでパフォーマンスを上げようとする意識がある)

  • 時給や日給などの給与体系(時間を対価に報酬が支払われる仕組みになっている)

の3つが主な原因だと考えられます。

また、新たに労働力化される就業者には、雇用延長したシニアや再就職した女性が多くなっており、「労働力の非正規化」が進んでいることも大きな理由です。

こちらの記事にも「男女の賃金格差が大きい国ほど労働生産性が低い」とあります。

女性が職場で能力開発の機会を得られず、賃金格差が生じる環境を放置することが経済成長を損ねる恐れがある。
米スタンフォード大学の研究者らの分析(19年)では、米国の1960~2010年の国内総生産(GDP)成長のうち、20~40%は優秀な女性や黒人が労働市場に加わったことが寄与した。職業選択が自由にできなかった層が活躍することで成長が押し上げられた

変化し続ける国際社会の中で労働生産性を落とさないためには、イノベーションが活発化したり、経済政策が成功したりしないとなかなか難しく、日本は今、国際社会での競争力を失った状態です。

労働生産性とは、「投入した経営資源(インプット)によって、どの程度の成果・価値(アウトプット)を生み出せたか」を指します。つまり、生産性を向上させるためには、「同じ労働量(従業員1人あたり/または労働1時間あたり)でより多くのアウトプットを生み出す」か、「より少ない労働量でこれまでと同じ量のアウトプットを生み出す」ことが必要です。

各企業の市場環境や、成長戦略によっては、「今までよりも少ない労働量で、これまで以上のアウトプットを生み出す」という企業も当然あるでしょう。テクノロジーの進化に伴う国際競争の激化や、少子高齢化に伴う労働力の減少などを受けて、生産性向上に向けた動きは避けて通れなくなっているのです。


■労働生産性は何によって向上するのか

引用した記事には、

労働生産性の向上には、報酬制度の設計や目標管理など多くの手法があります。どのような方法が労働生産性向上に役立つかは、人的資源管理・産業心理学・労働経済学などの分野で研究が進んでいます。

とありました。たとえば、労働生産性を高める手法として、

  • 金銭的なインセンティブを支給する。

  • 賃金を高くする。(高賃金にしてくれた使用者に対し、労働者が「お返しをしたい」と思う返報性(互酬性)が発生する)

  • 上司など監督役による監視を強める。(監視が生産性を低下させる可能性もある)

  • 職場にいる周囲の人の行動や結果によってモチベーションを高める。

  • セルフコントロール(自己規律)を高める。

などが紹介されています。

一般的に、各企業が「生産性向上」に取り組む際、主に以下のような具体策を講じるのではないかと思います。

①業務内容と業務時間の「可視化」
→業務のフローやかかっている時間、実際に発揮しているパフォーマンスの量と質を正確に可視化して把握し、ムダな業務や成果を出すためにボトルネックになっている業務を発見することから始める必要があります。

②業務の「仕分け」
→本来注力しなければいけないコア業務に時間を割けずに、ノンコア業務(オペレーションや雑務)に膨大な時間を割いている、というようなことは往々にして起こります。アウトソーシングなどを視野に入れながら、従業員がやるべき業務とそうでない業務を明確に線引きしていく必要があります。

③業務の平準化・自動化
→業務を平準化(ルール化)することは、同じ業務を複数人で行う場合に必須となります。ムダな工程が発生することを防ぎ、一定のクオリティを担保できるからです。できるだけ属人化している業務をゼロ化することが理想です。また、毎月発生するようなルーティンの業務は、人の手を介さず自動化するなど、それまでかけていたオペレーション業務を、企画立案や課題解決策を“考える”時間、アクションプランを“実行する”時間へと割くようにしなければなりません。

④適材適所と人材育成
→生産性向上に対する社員の意識を向上させることはもちろん、発揮したいパフォーマンスに応じて、スキルや能力、チームや顧客との相性など、あらゆる観点で最適な人材配置をする必要があります。適材適所がうまくいっていないとチームの士気が下がるだけでなく、業務の推進が非効率になり、生産性は上がっていきません。

⑤テクノロジーの導入
→あらゆるデジタルツールの活用、ペーパーレス化、クラウドサービスの活用など各種テクノロジーの導入は、社員の負担を軽減し、作業効率を上げることに役立ちます。新しいツールを導入することに後ろ向きな企業も多くありますが、それではいつまでたっても生産性は改善していかないはずです。
 

生産性向上への足掛かりは、労働者のマンパワーだけではなく、上述したような業務フローの見直し、組織体制の再構築、設備投資など、それぞれの企業に合った施策を講じる必要があります。
一度良い生産性向上のスパイラルを作り出せると、会社の付加価値を上げることにつながるだけでなく、社員にとってもモチベーションや満足度が向上したり、スキルアップやキャリアップ、または仕事以外のことに使える時間も増えるなど、様々な効果が期待できます。

「なぜ生産性を上げる必要があるのか」、「なぜ社員一人ひとりが生み出す価値を高める必要があるのか」を、企業側が社員に対して、本質的に理解してもらう努力もしなければならないと思います。


■自己管理能力を高めると生産性が上がる?

長期間にわたって労働生産性を高め続けるためには、自己管理能力が必ずと言って良いほど求められますが、こちらの記事には、

行動経済学でセルフコントロールは、時間選好の問題ととらえられています。時間選好とは「現在」と「将来」といった、時点をまたがる意思決定における好みを指します。将来を軽視し現在に偏った意思決定をしてしまう傾向は「現在バイアス」と呼ばれます。
仕事では、働くことによる「努力費用」は働いた瞬間に生じますが、報酬を得られるのは将来(例えば次の給料日)です。このため、現在バイアスにより今、怠けることが優先される可能性があります。

と紹介されています。つまり、「報酬を得られる日(給料日)が近づくにつれて生産性が高まる」という状況や、「自分で目標を定めると生産性が高まる」という状況が生まれるのです。

「現在」と「未来」というそれぞれの時間軸で考えた時に、未来よりも現在に重きを置いた意思決定をし過ぎてしまうと、「怠ける」「ギリギリまで何もしない」といったことが発生しやすく、「自分で物事をコントロールすることが難しい」という状態になってしまいがちです。

だからこそ重要なのが「セルフマネジメント」力。

セルフマネジメント、いわゆる「自分の思考・感情・行動などを管理する能力」が身に着けば、客観的な物事の判断や課題解決のための目標設定や目標管理、タスク管理、業務管理や時間管理、さらには自分自身のモチベーションやストレス管理、健康管理なども自律的にできるようになります。

ピーター・F・ドラッカーも、「まず自分をマネジメントできなければ、他者をマネジメントすることはできない」と述べていますが、チームで他者をマネジメントする役割を担う人ほど、セルフマネジメント力が必須になります。
 
●目標を魅力付けする
→自分の仕事に意味を見出せず、モチベーションが低下することがあります。一つ一つの仕事の意義や背景、その仕事を通じて成し遂げられることを抽象化して捉えることが必要です。また、人から決められて与えられた目標よりも、自分で目標を設定・提案できるようにすると良いと思います。

●達成可能性を高める
→目的や目標から逆算して、そのために必要な行動を常に考えるようにすることが重要です。目標は高すぎても低すぎても適切に機能せず、マイルストーンを設け、業務やタスクを分解し、どのように達成していくかイメージを持つ習慣を身に着ける必要があります。

●優先順位と期限を決める
→時間の使い方を日頃から意識することはもちろん、全てのタスクや業務に優先順位と期限を設けることを習慣化する必要があります。大事なポイントは「期限を決めずにずっと同じ仕事をダラダラと続けないこと」、「優先順位が高いものを後回しにしないこと」です。

●自分のコミットメントを引き出す
→自分で決めた目標を周囲に発信し、自らのコミットメントを引き出すことは、危機感を効果的に醸成する上でも大事なことです。自分が期待されている役割や成果を理解し、その役割を果たすために必要な行動を考えると、自然と目標が明確になり、その目標を達成するために周囲にも応援してもらう(プレッシャーをかけてもらう)環境を自ら作ることで達成確率も高まります。

●別の視点から考える習慣を持つ
→セルフマネジメントがうまくいかないことは誰にでもありますが、たとえば、「短期的な視点ではなく長期的な視点を持つ」、「自分の視点ではなく上司の視点に立つ」、「昔の成功体験をあえて自己否定する」など、物事を見る視点や思考を素早く切り替え、行動を変えていくことが大切です。
 

もちろんこれらが全てではありませんが、上記のような点を意識すると、自己管理能力、セルフマネジメント力は高まるのではないかと思います。


■サイバーエージェントの取り組み事例

当社では、部署ごとに「棚卸会議」という会議体を定期的に実施しています。
普段の業務を棚卸して、より成果の大きな業務に集中するための議論をする会議のことです。

棚卸会議は、社員それぞれが持っている業務を明らかにして、捨てる業務、やめる業務、形を変える業務、といったように棚卸しするものを決めることで、仕事のパフォーマンスを上げるという取り組みです。
 
具体的な流れですが、まずは業務を書き出し、チームで共有し合います。
次に、グループのメンバーに、一番改善したい自分の業務を説明し、その上で上司や同僚と一緒に改善策を議論します。
 
この会議のポイントは、

  • 部署全員で実施すること

  • 上司が必ず決めること(やらなくて良い業務のあぶり出しと改善策提示)

  • 属人化していて、かつ負荷の高い業務を全て出し切って、一気に棚卸すること

です。業務を一人で抱え込むことを防ぎ、上司が責任を持って業務改善のサポートをするという形をとっています。

業務は基本的にどんどん積み上がっていくもので、このような棚卸の習慣があるかないかで、全体的な生産性に大きく影響が出てしまいますムダな業務を排除し、成果に集中できる状態を組織的に作り、このような習慣を根付かせ、社員の生産性向上に取り組んでいくことは不可欠です。
 
私個人的にも、業務過多になり、一つ一つの仕事のパフォーマンスが落ちてきたなと感じた時は、

  • やるべき仕事を再定義する(センターピンを外さないようにする)

  • 常に3ヶ月先、1ヶ月先、1週間先の目標から逆算したスケジュールを組む

  • 重いタスクと軽いタスクを分け、集中できる時間帯に重いタスクを振り分ける

  • 会議と会議の間の時間帯を有効活用する(合間に軽いタスクを一気に処理する)

  • 効率化したい業務を把握し、新しいツールを導入する、周囲の人を巻き込むなど工夫する

  • 休憩をうまく活用して集中力を維持する

など、自分に合った業務管理・タスク管理を行っています。


■社員の幸福度が上がると生産性も上がる?

「生産性を上げろ」と言うと、とにかく「残業時間を減らせ」「業務を効率化しろ」とすぐに考えがちです。
これは間違っているわけではありませんが、本来は順番が逆です。

いきなり効率化しろと言われても、できるならば最初からやっているわけで、残業をしなくても業務が遂行できる“仕組み”、同じアウトプットを短時間で遂行できる“仕組み”を、企業側がまずは構築して提供しなければならないのです。
 
幸福度が高いと自己評価した労働者は、幸福度の低い労働者よりも生産性が高いという研究結果は多数ありますが、順番としては、

「持続的な企業の成長を実現する」ために、従業員の「仕事のやりがいや信頼感・幸福度を高める」必要があって、そのための取り組みを実行した結果、社員一人ひとりの「生産性や創造性が上がる」という状態が生まれ、さらにエンゲージメントの向上や離職率の低下によって、「アウトプットレベルが高まる」というループになるのではないかと思います。

この順番を間違えて、頭ごなしに「なぜこのチームは生産性が低いんだ」と責めてしまうようでは、結果的に生産性が上がることは期待できないのではないでしょうか。
 


最後に、生産性向上を実現する過程において、管理職や経営層が一方的に数値目標だけを現場へ押しつけたり、業務や人員の過剰な整理削減を推し進めたりすることは避けなければいけないと思っています。一時的に生産性は上がるかもしれませんが、どこかでマルチタスク化や労働時間の大幅な増加が発生し、社員のモチベーションは下がる一方です。短期的にすぐに解決できるものばかりではないため、現場の状況に合わせて中長期的かつ総合的な視点で施策を実行していく必要があります。

また、何をインプットとし、何をアウトプットとして設定するのか。
いつまでに何が実現できればゴールなのか。
その先にどんな未来が待っているのか。

シンプルなことですが、生産性向上の実現に向けてチームや組織の中で必要なのは、目標や業務の“押し付け”ではなく、目的や意義、仕事において生み出せる付加価値の“共有”や“目線合わせ”を丁寧にしていくこと、そしてそれに伴う業務の目標やゴールを認識・共感してもらうことが第一歩なのかもしれません。
 
さらに、多くの場合、「どんなITツールを入れて生産性を上げようか」という論点になりがちです。ITシステムやツールは導入すればそれだけで結果が出るものではなく、自社の抱えている問題や課題を解決するための適切な活用ができてこそ成果が出てくるものです。

「システムやツールを導入して終わり」では決してありません。

重要なのは、「社員一人ひとりが生産性向上を意識するような風土をどのように作っていくか」や、「業務改善や効率化、生産性向上に企業としてどんな姿勢で向き合っていくか」ではないかと思います。



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