入社初日に「博士人材は使えない」と言われるアカデミア人材【日経COMEMO_テーマ企画】
アカデミア人材への期待増
ビジネスで求められる専門性の高まりとともに、大学院卒の人材に対する注目が集まっている。製造業や製薬会社での研究開発職は、以前から博士号の取得者が比較的多い業界だが、いまや業界を問わずニーズが高まっている。
それと同時に、大学で学んだことと就職後の職務内容との一貫性も重視されるようになってきた。新卒でも、大学で学んだことを問う履修履歴面接を導入する企業が増えてきた。今どきの学生は、バイトやサークル活動に精を出して勉強は単位を取れれば良いという姿勢では希望する就職先を見つけることが難しい。
博士課程の院生や大学教員を採用する企業も増えてきた。民間の強みは、なんといっても予算の潤沢さだ。私も大学院から民間のシンクタンクに就職したが、現職とは予算の桁も違えば、使用できるリソースの豊富さも異なる。正直、研究に関する生産性は現在の方が低い。
このように注目度の高いアカデミア人材だが、実際に活用までを考えると乗り越えるべき課題は多い。今回は、日経COMEMOのテーマ企画「#どう活かすアカデミア人材」と関連付けて考察していく。
アカデミア人材の絶対数は少ない
ここ2、30年の世界的な傾向として、社会全体の高学歴化があげられる。日本もこの流れの中にあって、大学進学率は2人に1人の水準まで上がっている。しかし、世界の潮流に対して、その変化スピードは鈍い。OECDのEducation at a Glance 2019 によると、日本の大学進学率は63%で、OECD平均の76%を下回る。
加えて、大学院進学となると更に状況が悪化する。大学院に進学し、修士号・博士号の取得者数は主要先進国で唯一減少傾向にある。また、進学したからと言って、職があるわけでも、好待遇が待っているわけでもない。多額の教育コストを支払ってもリターンが見込めないのが現状だ。
つまり、アカデミア人材が重要といいつつ、供給体制が整っていないのが現状だ。
アカデミア人材の採用側がやるべき3つのこと
博士人材の活用に関しては、昔から言われ続けている俗説がある。「博士人材は歳ばかり取って、使いにくい」ということだ。このことには3つの要因が背景にあると思われる。
第1に、アカデミア人材は実際に勤務する初日まで、組織で働くことの常識を学ぶ機会がない。博士人材は研究一筋の生活を送ってきたため、いわゆる社会人としての社会常識を身に着けていないことも多い。組織の中で働くということの常識を身に着けていないため、一緒に働いていると目に付くこともあるだろう。つまり、アカデミア人材に組織人としての素養を求めるのであれば、院生時代から企業も大学の研究室と連携していく必要があるのではないだろうか。
第2に、アカデミア人材のオンボーディングができていない点だ。これは通常の中途入社者に対しても同様のことが言える。新入社員に対して、入社直後から「新人が使える人材かわからないから、ふさわしい人材か見極めてやろう」という態度で職場の同僚が接してくることがある。初対面の同僚から開口一番に「博士人材は使いにくいと相場が決まっている」と言われて、その後のコミュニケーションに苦労するというのもよく聞く話だ。しかし、新人の受け入れでパフォーマンスを発揮してもらい、長期定着を期待するのであれば、このような「試す」ような態度は逆効果なことが採用に関する研究で明らかになっている。新入社員が入社後すぐに「受け入れられた」という実感を得られたかどうかで、その後のパフォーマンスは変わってくる。
第3に、アカデミア人材にゼネラリストとしての働きを期待していないかということだ。これも、アカデミア人材だけではなく、M&Aを担当する弁護士や税理士などの高度専門職人材の活用でも同じことが言える。高度専門職人材は、良くも悪くも自分の専門性を高めることに特化した人材だ。その分、ゼネラリストの生え抜き社員には当たり前のことでもできないことがある。大学教員からデータアナリストに転身した知り合いには、来てくれと言われたものの、「まずはウチのやり方を覚えて欲しい」と言われて在籍した3年間で1度もデータアナリストとしての仕事ができなかったという人もいる。
結語
アカデミア人材のニーズは、日本だけではなく世界的に高まりを見せている。そして、優秀な人材から海外流出も始まっている状況だ。
アカデミア人材の活用は、楽観視できる要素が見当たらない厳しい状態だ。すぐにでも対策を講じなくてはならない逼迫した状況にあるのかもしれない。