いよいよ始まる人的資本開示の義務化。開示情報をどう読み解けばよいのか
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
岸田政権の「新しい資本主義」の柱のひとつが「人への投資」です。学び直し(リスキリング)に1兆円というパッケージは、大きなニュースとなりました。
これと関連して「人的資本経営」が注目を集めています。これまでは設備投資などのハードウェアへの投資が付加価値を生み出すための資本として重要視されてきましたが、ソフトウエアによるサービス業などが大きな付加価値を生むデジタル社会においては従来の財務情報では測れない部分が大きくなってきました。
「企業は人なり」とは経営の神様と言われた松下幸之助氏の格言としてよく知られていますが、まさに人材を企業の財産=人的資本として捉えて、財務情報として有価証券報告書に記載を求める制度が人的資本の開示にあたります。
B/SやP/Lと違い、非財務情報を文章で記述するのはなかなか難しいことです。今回求められる開示内容は2つです。
1)サステナビリティー情報
人的資本に関する戦略や指標、目標の明記。経営戦略と連動した人材育成方針と、職場づくりに関する社内環境整備方針の策定。また、これらの実現度についても数値で示し、従業員の満足度や定着率・離職率、人材育成に対する投資額なども公表
2)ダイバーシティ情報
女性管理職比率や男性育児休業取得率、男女間賃金格差の指標の開示
開示された情報をどう読み解けばよいのでしょうか? 例えば離職率を見た場合、同業他社と比較したときに「低いから良い」ということになるのでしょうか。
創業からあまり時間の立っていない勢いのある企業では、一般的に離職率は高めに出ることが多いです。社員自体が成長意欲が旺盛で在籍中は非常に生産性高く成果をあげますが、次のキャリアを求めて社外に出ていくことも当たり前のことです。その空いたポジションを他社の優秀な人材が埋めることで、また新たな価値が企業にもたらされる。そのような適切な流動性が企業の成長を支えています。
一方で歴史のある大企業で離職率が非常に低い会社があったとしましょう。人材の流動性がまったくなく、上のポジションが詰まっているため若手や中堅の活躍の場が限られて停滞している。が、安定しているのでしかたく企業の在籍し続けている。果たしてこれはよい状態なのでしょうか。
数字として見えるとどうしても比較することになりますし、そのこと自体は現在よりもよいことだと思います。しかし、有報への開示ということは、これらの指標が企業の成長につながるからですので、単に一部の数字を取り出して良し悪しを論じることは短絡的でしょう。
なにより見るべきなのは「経営戦略と連動した人材育成方針」です。どのような人に活躍してほしいのか、それはなぜなのか。従業員満足度も単に社員にアンケートをするだけでは一方的なものとなり、経営戦略との連動が見えません。これは満足度というよりは「社員エンゲージメント」と捉えるべきであり、「自発的に会社に貢献しようとする社員」の度合いを測るものです。その状態を経営としてどう作り上げていくかが、人材育成方針の肝であると思います。
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タイトル画像提供:metamorworks / PIXTA(ピクスタ)