還暦の親へ、仕事を贈ろう。
『お父さん、オンラインMTGしよう』
そう声をかけると、スマホ画面には父の”耳”が大きく映し出される。還暦を迎えた両親のITスキルアップを進めているある日の一コマだ。
私は、60歳を迎えた両親にあった仕事を創れないかと、半年前から父と一緒に土日プロジェクトを進めている。
ここまで言うと、私はとっても親孝行の娘に聞こえる。しかし両親からしたら、私は”おせっかい”以外の何物でもない、ようだ。
父と一緒に家業で新プロジェクト始動
数年前に、富山の父が長年勤めた仕事を退職した。頭も体も元気だし、ずっと仕事一筋の人だったので、折を見て再就職するのかなと思っていた。
しかし、父は『自分の好きなことをしたい』『組織で働くのはもういいかな』と言う。そう言って、御年88歳になる祖父と祖母と一緒に、家業であるお米づくりを細々とやっている。
農業は体力がいる。
父の年齢を考えると、お米づくりは出来てもあと10年くらい。だったらその10年間で農業を引退しても出来る新規事業を創れないかと、父と娘でお米農家の新規事業をスタートした。
人は仕事せんとダメになる
『還暦の親へ、仕事を贈ろう。』と私が考えて行動している背景には、あるおじいちゃんの言葉がある。
山梨県の丹沢湖のほとりにある、一軒の蕎麦屋。ここの蕎麦屋では、ぽっちゃり体型のおばあちゃんと、腰が曲がって杖をついているおじいちゃんが切り盛りしている。紅葉がきれいな秋のある日、私は、友人とその蕎麦屋に立ち寄った。お昼時を過ぎていたこともあり、お店には私たちしかいなかった。
美味しい手打ちそばを食べて、「美味しかったです、ごちそうさまでした」とお会計をしようと立ち上がった時に、お店の奥から最後のお蕎麦を打ち終えたおじいちゃんが出てきた。杖で体を支えながらお店の片付けを開始するので危なっかしくてみてられないと思い、私たちは、お店の片付けを申し出た。しかし、おじいちゃんは、『この仕事をしないともっと体が悪くなる』『元気の秘訣は、仕事をし続けることなんじゃ』と言って、30脚ほどあるお店の椅子の片付けを、誰の手も借りずにやり遂げていた。
話を聞けば、お蕎麦屋のおじいちゃんは、長年続けていたお店を数十年前に、一度閉じたことがあるという。
そして、奥さんと一緒に、無理せずに余生を過ごしていこうと考えていたら、一気に身体が弱っていってしまった。そして、ある日倒れてしまい、それ以降、杖なしでは行きていけない生活なんだという。
そんな経験をしたからこそ、少し大変でも周りに必要とされて日々努力していくことが健康寿命を伸ばすと信じて『仕事せんとダメになる』と力を込めていろいろな人に問いているという。
還暦からの底力
立命館アジア太平洋大(APU)の出口 治明学長の書籍『還暦からの底力』という本で、『親への最大の親孝行は、両親にあった適切な仕事をつくること』と言っている。
そうかそうか!と思い、私の両親にも、お願いできそうなことを頼んでみる。
しかし、頼んだら頼んだで....
『孫は可愛いけど、疲れるわー』
『ITツールなんて、全く使いこなせんわー』
とブツブツとコメントが返ってくる。
明らかに喜んでいないが、ブツブツ言いながらも応えてくれるので、このまま仕事も子育ても両親を頼って行こうと思う。
人生100年時代は、還暦60歳はまだまだ折り返し地点。
これからも親にパワフルに行動してもらうためには、本人がやりたいことだけでなく、周りや社会から必要とされている機会ををどんどんお願いしてみる。
しかし、お願いしたらしたで、めんどくさい。
気を使わない家族だからこその、めんどくささを乗り越えていけば、このおせっかいは、数年後に発揮される底力につながっていく、私はそう信じてる。
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