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「週休3日制」いろいろ

先日、日立製作所が「週休3日制」の導入を発表した。

元々、同社ではフレックスタイム制を導入しており、そこで1日の最低勤務時間(3.75H)を定めていたが、今回、この制限を廃止することによって、総労働時間は変えずに、週休3日という働き方を選択できるようにするという(例:10H/日×4日)。

2021年6月に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)」にも「選択的週休3日制」という言葉が盛り込まれるなど、最近何かと話題になることが多いが、実は一口に「週休3日制」と言っても、時間と給料の考え方によって、さまざまなパターンが存在する。

今回は「週休3日制」にどんなパターンがあるのかを概観しつつ、自社の事例も踏まえて、多様な働き方の選択肢をつくっていく上で必要なことについて考えてみたい。

週休制の歴史

そもそも1週間のうちに休みの日を入れる、という発想は、宗教上の安息日に由来しており、とくにキリスト教国における安息日の慣習が労働時間の規制と結びついて週休制になったとされている。

国際的には、ILOが1921年に「工業的企業に於ける週休の適用に関する条約」(14号)を採択し、週休制を国際的基準として確立した。

欧米では1950年代から60年代にかけて週休2日制が一般化し、日本でも1960年代半ばから、松下電器などの大企業を中心に週休2日制が採用された。中小企業では依然として週休2日制の普及率は低かったものの、1987年の労基法改正後に改善された。

ちなみに、この改正労基法では「週休2日制」それ自体を立法で強制することはせず、週の所定労働時間の短縮が進めば自然に同制度も普及するだろうという考えのもと、法定労働時間を週48時間から週40時間へ段階的に短縮させていくという措置がとられた。

そのため、労働基準法における休日に関する最低基準は、実はいまも「1週に1休日」というルールになっているが、当初の目論見どおり、週休2日制を導入する企業は現在に至るまで増加傾向にある。

「週休3日制」いろいろ

徐々に休日を増やす方向に進化してきた「週休制」であるが、そんななか、昨今、注目を集めているのが「週休3日制」である。

冒頭でも紹介した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)」には以下のように書かれている。

選択的週休3日制度について、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促し、普及を図る。

経済財政運営と改革の基本方針2021 について

さまざまな期待のもと、その普及・促進が謳われている「週休3日制」であるが、実はこれには、「時間」と「給料」の関係性によって、大きく分けて3つのパターンがある。

①総労働時間減×給与減
まず1つ目は、働く時間を減らすのと同時にお給料も一緒に下げる、というタイプである。

最近だと、みずほフィナンシャルグループの「週休3日制」がまさにこのタイプの事例で、給与は週休3日だと従来の8割、週休4日の場合には6割まで減る、としている。

既存の業務のやり方のまま純粋に働く時間が1日分減れば、当然アウトプットは減ることになるため、その分、報酬の面でも調整をするという形だ。

②総労働時間維持&給与維持

2つ目は、働く日数は減らすものの、代わりに1日あたりの働く時間を増やし、総労働時間を変えないことによって給料の金額も維持する、というパターンである。

まさに今回、冒頭で紹介した日立製作所がそのパターンで、総労働時間として基準を満たしていれば、労働時間を週の中で他の日に割り振ってもかまわないという制度設計になっている。

「総労働時間を維持して給料も維持する」タイプの週休3日制は、他企業でも以前から導入されており、人材不足を背景に、2015年にはファーストリテイリング、2017年には佐川急便が類似の制度を導入している。

より厳密にいえば、日立製作所は「フレックスタイム制(一定期間についてあらかじめ決められた総労働時間の範囲内で、1日の始業と終業の時間を自分で決められる制度)」をベースにしているが、ファーストリテイリングや佐川急便は「変形労働時間制」をベースとしているため、日立の週休3日制の方がより働く時間の柔軟性は高いといえる。

③総労働時間減×給料維持

最後の3つ目は、働く時間を短くするがお給料は下げない、というパターンである。働く時間を減らしているのに報酬を変えない、ということは、生産性を向上させる(アウトプットは変えない)ことが前提となる。

近年、このタイプの週休3日制を試験導入する動きが欧州を中心に広がっている。

アイスランド政府と首都レイキャビクの市議会が2015~2019年に実施した試験では労働人口の1%強にあたる約2500人が参加し、賃金を下げずに労働時間を週40時間から週35~36時間に減らした結果、参加企業の生産性は落ちず、家庭で家事の分担が進む等の効果があったとの報告書がまとめられた。

この報告を受け、スコットランドでも、労働時間を20%削減するが賃金は据え置くという形での週休3日制の試験導入が決まった。

また、新型コロナ禍の影響も踏まえ、スペインでは2022年から、社員数10人未満~数百人の国内約200社で週休3日制の試験を順次始める。トライアルの期間は3年で、通常の週労働時間40時間を週32時間に減らすが、給与は変えないという。

時間と成果と給料と

さて、ここまで見てきたとおり、「週休3日制」には、働く「時間」とそれによってもたらされる「成果(アウトプット)」、そして、対価としての「給料」をどう考えるかによって、大きく分けて3つのパターンがある。

ぼくの働いているサイボウズでは、「働き方(時間・場所)」「業務内容」「給与」といった条件を個別に合意しており、もちろん、「週休3日」という働き方も選択することができる(もっと言えば、週3勤務(週休4日)や週2勤務(週休5日)という人もいる)。

参考記事:「選択的」週休3日制がチームを強くする

サイボウズではチームと本人が合意さえできれば、どのような働き方でも選択することができるが、「給与」は「働き方(時間・場所)」とそれを踏まえた「業務内容」によって生み出されるアウトプットをベースに個別に合意する、という制度設計になっている。

その結果、実態として「週休3日」のパターンはいまのところ、①総労働時間減×給与減が殆どである。

①総労働時間減×給与減
社内で多いのはこのパターンで、週5日勤務を週4日勤務に変えることをチームと再合意し、その働き方を踏まえた業務内容、そこから生まれるアウトプット、貢献度を加味して、給与を減額している。

減額の幅は業務の特性などによってさまざまであるが、やはり1日分の労働時間を減らすとなると貢献度は下がり、給与は多少なりとも減額する。

ちなみに、週3日の働き方を選択する理由は人によってさまざまで、育児や副業、個人的に学びたいことをのびのび勉強する時間をつくるため、あるいは、体調との兼ね合いで、というケースもある。

②総労働時間維持&給与維持
次は総労働時間は変えずに、1日の働く時間を増やすことで給与額は維持しつつ週休3日にする、という選択肢について。

こちらは過去に具体的に検討、そして実際にトライアル的に実施していたケースは存在するものの、現在、社内で実際に選択している人はいない。

そもそも業務の内容によっては、総労働時間が変わらなかったとしても、週1日いない日ができることによって、チーム全体の生産性を低下させてしまう可能性もあるため、そういった観点も踏まえて、本人のチームに対する貢献度が下がらないのかどうか、給与の減額が必要ないのかを検討していく必要がある。

③総労働時間減×給与維持
そして最後に、労働時間は減らすが給与は維持する、という合意の仕方について、こちらも社内に事例があるわけではないが、一度、週休3日で働いて生産性が落ちないようにできるか、トライアルをやってみないか、という話が開発本部のメンバーとの間で持ち上がったことがある。

当時の議論では「実験前後でアウトプット/アウトカムの変化を定量的に測定・評価するのはむずかしそうだし、本気でやるとしたらかなりのコストがかかりそう」「少数かつ限られた職種でのトライアルだと違う職種に横展開しにくいから逆に全社一律トライアルの方が良さそう」「一方で、そもそも働き方を個別かつ柔軟に合意できるサイボウズにおいて、現時点ではこのトライアルを全社で一律実施することにはそこまで共感が集まらないかも」などといった意見が出た結果、一旦は保留となった。


ここまで見てきたとおり、働き方、特に時間の量について、多様な選択肢が生まれるということは、同時にその人をどう評価して、どれくらいの報酬を支払うのか、という話が必ずセットでついてくる。

サイボウズも多様な働き方を選択可能にしていくなかで、給与も個別で決める形に近づいていった。

業務によっては働いている時間が成果に直結するような業務もあるし、あるいは、成果と時間が紐づきにくいタイプの業務もある。

100人100通りの働き方を許容するには、100人100通りの給与オファーができないと制度が成り立たなかったのである。

個人的にはどのような形であれ、「週休3日」という働き方を選択できるようになることは、それにマッチする人が働き続けられる、あるいは、新たに仲間を受け入れられるという点で歓迎すべきことだと思っている。

ただし、働く本人としては、その選択の先には給与減額といったトレードオフがセットになっている場合があることは、しっかりと認識しておく必要があるだろうし、また、制度設計する側も、働き方の選択肢を多様化すればするほど、給与の決め方も個別決定に近づいていく、ということに留意しておく必要がある。

ここまで人事視点で色々なことを書いてきたが、もちろん、いち労働者としては週休3日で給料が下がらなければそんなに嬉しいことはない。しかし、いまのアウトプットの量を変えずに、と言われると正直自信はない。

1965年、松下電器が大企業で初めて週休2日制を導入したとき、松下電器の労働組合からは「休みが1日増えるというのに、いままで6日でやっていたことを5日にすることはできない」と大きな反対があったそうだ。

それに対して、経営者の松下幸之助氏は「1日休養、1日教養」という指針を出すことで押し切ったという。1日はしっかりと休み、もう1日は仕事場以外で時間を過ごして教養を高めてほしい、という意味だという。教養がなければいい仕事はできない、と。

正直、休みの日まで会社のために何か勉強しなければならないと考えてしまうと腰が引けるが、1つの会社以外でも通用するスキルを身に着けることが自分を守ることにもつながる現代社会において、「週休3日制」を選択して得られた3日間の休日のうち、たとえばほんの半日でも、自分自身のスキルアップや学び直しの時間に充てるというのは、悪くない過ごし方であるようにも思う。

「週休3日制」の議論をきっかけに、健康に、そして、より生産的に働いていけるような、上手な休み方についても考えてみたい。

参考文献:
菅野 和夫『労働法 (法律学講座双書)』弘文堂; 第十二版

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