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人材政策からみるAIによる労働市場の変化と対応

テーマ企画として「#AIに奪われない仕事とは?」というお題が出ております。

既にたくさんのKOLの方々のご意見が出ておりますので、私は、経産省で人材政策に関わった者として、「政策側はAIと雇用をどう見ているか」、を書いていきたいと思います。

未来人材会議中間とりまとめ

AIと雇用の問題については、今に始まった話ではなく、働き方改革実行計画の策定の頃から、現在進めている人的資本経営の政策に至るまで、政策側としてはずっと課題としてきています。
直近でこの点の問題意識を明確に示しているのは、経済産業省の未来人材会議中間とりまとめである「未来人材ビジョン」(令和4年5月31日)でしょう。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/20220531_1.pdf

未来人材会議では、以下の図を示しつつ「日本の労働人口の49%が将来自動化される」との予測があるが、AIやロボットによる雇用の自動化可能性に関すると見解はないとしています。


もっとも、AI等による労働市場の変化はやはり見られており、アメリカでは「労働市場の両極化」という現象が見られ始めています。


同様の傾向は日本においても見られ始めています。


この労働市場の両極化の議論は、未来人材ビジョンで初めて出てきたものではなく、3年前の令和元年度成長戦略実行計画の頃から出てきている議論です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf

働き手に求められる能力の変化

AIの台頭によって、働き手に求めらる能力も変化すると予想されています。

未来人材ビジョンでは、2050年には、「問題発見能力」、「的確な予測」、「革新性」といった能力がより一層求められるとしています。


つまりは、「ヒトがヒトである所以」の知的創造性が重要になってくるものと思われます。

ちなみに、もうかなり古いものになりますが、経済産業省の産業人材政策室(当時)では、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(人材力研究会)報告書で以下のように述べています。

第四次産業革命において AI/ロボット等が普及する中で、ルーティン業務や 定型業務は、一層代替されていく可能性が大きい。言われたことをやるだけ でなく、「考える力」、「見えないものが見える力」、「課題を設定する力」、「詰 める力、やり切る力」を養うことが必要である。

経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(人材力研究会)報告書

https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180319001_1.pdf


労働市場の変化に対応するため「労働移動の円滑化」を進めている

上記のとおり、AI等の技術革新によって労働市場に大きな変化が起こっています。
こうした労働市場の変化に対応し、より需要が高く付加価値を生み出す産業に人材が移動すれば、個々の企業の賃上げによらずとも賃金が上昇し、日本全体の生産性も向上することが予測されています。

そのため、政策としては、リスキル支援施策等を通じて「労働移動の円滑化」が進めています(これらの施策だけで本当に足りるのか、という議論はありますが…)。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf

このような「労働移動」の議論をすると、「国は解雇を進めている!」というような意見も聞かれますが、そうではなく、国としては、リスキル等の支援を行い、また副業・兼業も推進することで、解雇によって失業する形ではなく、自発的な転職を促しているものです(だから「円滑な」労働移動)。

奪われるのは「仕事」ではなく「タスク」。「AI×ヒト」が重要

さて、今回のテーマである「AIに奪われない仕事」はどうなのかというと、政策としては、やはり定型的な業務等については、需要が下がっていく(下がっている)とみています。

ただ、私見としては、「仕事」は様々な「タスク」から構成されているわけで、AI等によって「タスク」レベルでは代替されるものの、「仕事」自体はなくならないことが多いのではないかと思われます。

そのうえで重要であるのは、AIに「奪われるか否か」という議論ではなく、「いかにAIを活かして利用できる人材となるか」という「AI×ヒト」の議論をなすべきであろうと思います。

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